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薬の説明と、退院のスケジュールの説明を受け部屋を出る。 廊下へ目を向けるとさっきの診断室の前で皐月が両手でお腹を抑えたまま俯いていた。 俺は説明の紙を片手に駆け寄る。 「皐月。」 そう声をかけると、皐月は一瞬体をビクリと強ばらせた後すぐに顔を上げた。 顔は相変わらず青白くて感情が読めない。 「どうした、腹痛いか?」 「……いや。」 そう言って目をそらす。 何かあったのか、と聞くとギュッと目を瞑った後、苦笑するように顔を崩す。 「お腹空いて、さっきすごい音が廊下に響いて。」 「………やばいな。」 「看護師にすごい顔で見られた。」 「だろうな。そんなに腹減ってたのか。」 「お粥しか食べてなかったらお腹もすく。ハンバーグ食べたい。」 「退院したらたらふく食わせてやるよ。とりあえず、病室戻って昼飯待つか。」 俺がそう言うと、皐月は少し恥ずかしそうに顔を半分手で隠すとコクリと頷いた。 てっきり何か重要な発表でもされて傷付いてるのかと思ったが腹が減った、なんて拍子抜けだ。 …まぁ、こういう人間らしいところを見ると少し安心する。 「そうだ皐月。医者は何って?」 「え?」 「何か言われたんだろ。残れって言われたのに何も言わないってことは無いだろ。」 「あぁ。体調悪くなったらすぐに言えよって。」 「なんだ、それだけか。こっちも大したことは無かった。何度か通院はしてくれって言ってたがそれ位だ。後、いくつか薬を飲めって。」 「何の薬?」 「あー…胃薬と、あと栄養剤みたいなやつ。」 「ん。苦いのはヤだな。」 「それは知るか。」 そんな話をしながら廊下を進む。 本当は、精神安定剤だとか睡眠薬だとかそういう類の物だが本人には言えなかった。 医者も本人には言うなと言っていた。 知れば変に気が滅入る可能性があるし、皐月はそうなりやすいタイプらしい。 それには俺も同感だった。 世の中には、知らない方がいい事もある。 「明日、昼頃に退院だ。良かったな。」 「………ん。」 「なんだ。あんまり嬉しく無さそうだな。」 皐月は、その場に立ち止まる。 着せられたパジャマの裾をギュッと握りしめて動かない。 振り向くと皐月はポツリと呟いた。 「皆木は、ずっと一緒にいてくれる?」 「……当たり前だろ。」 「それじゃ。退院したら、皆木の家に行ってもいい?」 俯いたままそう言う。 声は床に落ちる。 いつだって不安に襲われる。 何度確認したって、不安になる。 10分前は良くても今は本当にいいのかわからない。 典型的な不安定の証拠だ。 俺は手を伸ばして、そんな皐月の頭を抱き寄せる。 「うちに帰ろう。一緒に。」 「……面倒で、ごめん。」 「これくらい手がかかる方がいい。だから、いつでも不安になったら聞いていいからな。」 「ん、………ありがと。」 そう言って手を離し、前へ歩こうと足を上げる。 が、前に進む前に後ろにクイ、と引き戻された。 その弱々しい力に振り向くと皐月はまだ俯いたままだった。 ただ手の先には俺のシャツを握って。 「どうした。」 「もし、……俺が…変、でも?」 変ってどんな風に? そう聞こうとしてやめる。 皐月が求めてる答えはそうじゃない。 どう変か、それを言えないからきっと聞いてるんだろう。 「どれだけ変でもいい。今更、手を引く奴に見えるか?」 「……見える。」 「見えるのかよ。何があるのかは聞かない。でも、…お前がもしエイリアンだろうが宇宙人だろうが臓器が何個無かろうが俺は嫌わない。」 「本当に?」 そう言って皐月は真っ直ぐに俺を見つめた。 まさか、今言った中に答えがあるのか? …宇宙人なんて言われたら流石に少し戸惑うかもしれない。 いや、でも。 「あぁ。本当に、嫌わない。」 俺の答えに満足したのか、皐月はようやく俺のシャツから手を離した。 クシャリとシワになったシャツを優しく叩きながら皐月は笑った。 「ありがと。」 「……いい。帰って飯食って寝たら明日だ。やったな。」 「ん。そしたら、もっと一緒にいられる。」 「その通りだ。」 俺のシャツを伸ばす皐月の手を握って廊下を歩く。 少し皐月は恥ずかしそうにしたが、俺は手は離さなかった。 番同士、恋人同士。 何も偽ることなく愛し合えばいい。 隠し事も、秘密も もう、何もしなくていい。

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