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皆木から渡された錠剤と水を飲みそのまま目を閉じる。
薬が効くまでにはそれなりに時間がかかる。
その間くらい皆木も放っておいてくれるだろう。
「おい、楠本。」
「ん"、…」
「あからさまに嫌そうな顔してんじゃねぇよ。即効性だ、すぐに楽になる。」
「…わかった。」
俺を放っておく気はないらしい。
出来ればこのままここを逃げだしたいが、逃げたところで明日問いただされるのがオチだ。
かと言って今日あったばかりの人間に全て話すのはなかなか勇気がいる。
そう考えていると徐々に薬が効いてきたのか体が楽になってくる。
込み上げていた熱ももうすっかり良くなった。
「治ったか?」
「…あぁ。」
「それじゃ、さっきの続きだ。薬はどうした?」
「忘れた。」
「周期なんだ、そろそろ来ることわかってただろ。そうでなくても常に持ち歩くのが一般的だ。」
「だから、…今日はたまたま忘れた。それだけだ。」
「へぇ、……」
皆木は疑うように俺の目を見ると薬の殻を指先で摘んではクルクルと回した。
どこか一つ一つの動作がエロくて気持ち悪い。
…いや、これは発情期のせいもあるのかもしれない。
「お前、うちの学園で唯一のΩらしいな。」
「…だからなんだ。教師も俺を見下すか?」
「そんな訳ないだろ。ただ、αだらけのここじゃ生きにくいだろ?1人くらい味方を作っておくのも悪くねぇんじゃないか。」
「どういう、……」
「自分で考えろ。お前が泣きついてきたらいつでも味方してやる。…さ、身体が良くなったならもう帰れ。先生は忙しいんでな。」
自分で話を振ったくせに嫌な態度だ。
けれど、多少心配して助けてくれたってことかもしれない。
ベッドを降り椅子に置かれた鞄を手に取ると皆木へ向き直る。
さっきまで気づかなかったがよく見ると気持ち悪いくらいに整った顔だ。
「なんだ、向き直ってまで俺の顔が見たかったか?」
「違う。…一応、ありがとう。それじゃ。」
「あぁ、襲われないように気を付けて帰れよ。」
「…生々しいからやめろ。」
保健室を出て一つ息をつく。
…やっぱりアイツ、好きじゃない。
帰り道を歩きながらさっきの話を思い出していた。
この学園で唯一のΩ。
俺はそうなってしまったらしい。
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