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夏です。
完全復活ぅ。とか喜んでたら、気が付いたらすぐ期末だぜ。くそっ!! 相変わらず蒸し暑い梅雨時期だな!!
そんな昼休み、俺達はいつもの場所で春哉様降臨の儀式の最中。嘘だけど。でも、貢ぎ物は本当。
「……こんなに、貰ってもなぁ……。」
春哉の目の前には俺達の貢ぎ物。ジュースやら、朝買ってきたお菓子やら。誰だ、購買で焼きそばパン買ってきた奴。俺にくれよ。それにしても……買いすぎだろ、揃いも揃って。山になってるじゃねぇか。
困った様に笑う春哉。皆も買い過ぎた自覚はあるようで、俺も含めて皆して困ってる。
「まぁ、ありがたく貰っておくね。」
「春哉様っ!!」
「ご降臨されたぞ!!」
「……暑苦しい。」
「龍司。病み上がりは分かるが、もう少し焦りを見せろ。再来週だぞ。」
「へっ、帰り道一緒だからどっかで教わるもんねー。」
「うっざ。今日一段とうざ。」
「ひでぇ!!」
笑い声が響く。そろそろこの教室も暑くなるな。そしたら教室にあるクーラーが頼りになる。無駄に、日当たり良いんだよな、この校舎。まぁ、そのお陰で聖母マリアのステンドグラスが綺麗に見えるんだけどさ。
はぁ、期末かぁ……そうそう、面談。期末終わった次の日から始まるんだ。で、春哉は結局お兄さんの都合が上手くいかなかったみたいで、期末終わって土曜日に家庭訪問になるんだって。俺からしたら、家庭訪問の方が嫌だけどな。
しかもさ、家庭訪問。去年もそうだったんだって。これまた春哉の秘密なわけで。やっぱり家の事情は秘密にしたいらしい。
ふと、俺の携帯が鳴った。見れば隣りにいる春哉で、委員会が入ったから心ちゃんのお迎えに行ってほしいとの事だった。俺は、【おっけ。】とだけ返した。
携帯を弄る春哉を見て、1人がどうしたのか聞いた。
「うん?何か、放課後に委員会が入ったみたい。」
「え?今?何で?」
「体育祭とか、文化祭とか。決めておく事があるみたいだね。」
去年は図書委員だった春哉。災難だな。
「面倒だな。」
「ねー、大変だわ。委員長。」
「ホントホント。」
穏やかな会話はあっさり終わり、また春哉様ご降臨の儀式に戻ってしまった。どこを祭壇……基、勉強場所にするかの話しになっている。 学校近くのアーケードにあるファストフード店がどうのこうの。
春哉は1週間前になったらとか答えて、微笑んでいる。
ちかちか、キラキラ。梅雨時期の春哉は、傘に隠れて効果半減。でもまたそれが、俺の中の何かを軋ませ痛ませる。
***
約束通りお迎えです。今日は、梅雨明けが近いのか、梅雨の奴が粘りを見せているのか、道の向こうが霞む位雨が強い。制服のスラックス、折っちゃったよ。くるぶし冷てぇ。
小学校前のガードレールの前に立って、心ちゃんを待つ。すると、傘の端からビニール傘が見えた。あ、俺もだけど。名前?書いてる書いてる。その誰かは、ジーンズに作業用?のブーツらしきものを履いていて、黒い襟付きのシャツをヒラヒラさせている。そんで、茶髪。多分、マックスの明るい色。
……何だ、この兄ちゃん。
気が付けばその兄ちゃんの他にも保護者が来ていた。雨強いし、霞んでるからだろうな。そんな事を考えていたら、小学生達がわらわらと出て来た。さすがに、放課後残って遊ぶ子はいないんだろう。
保護者と帰る子、近所なのか一緒に小学生を数人連れて帰る人。ふと、最近やっと見慣れた傘が見えた。大きなヒマワリの柄がある、青い傘。心ちゃんのおニューだ。自慢して、嬉しそうに笑ってたんだ。まじ天使だよな。
ぱしゃぱしゃと、これまた新品の長靴で水溜りを踏みながら門へと向かってくる。微笑ましい。そう思っていたら、急に走り出した。
「おとーさん!!」
お、父さん!?
どれだ!!と思いながら走る心ちゃんを眺めていたら、まさかの目の前にいる茶髪の兄ちゃん。その人に駆け寄り何かを話している。そんな心ちゃんが、俺に気付いてその人越しに俺を見てきた。
「リュウジ君だ!!」
心ちゃん、それ多分ダメな反応だよ!!
心ちゃんの声に、茶髪の人が俺を振り返って見てきた。めっちゃ睨まれてる、俺。
「リュウジ……?」
「あ、えっと……こんにちは。」
無視ー。めっちゃ睨まれてるー。
「リュウジ君!!心のお父さん!!」
えぇ、そうでしょうとも。嬉しそうに叫んでたの見てたからし、聞いてたしね。
「お前が、リュウジか。」
いそいそと、それでいてとても嬉しそうに傘を畳む心ちゃん。それをビニール傘を傾けて雨から守る、お父さん
。つうか、春哉のお兄さん。
傘を畳み終わった心ちゃんは、ニコニコとお父さんを見上げながら小さな手でお兄さんの手を握った。
「はい、伊崎龍司です。」
「ふぅん……。」
ぎゅっと心ちゃんの手を握り、俺を足元から全身をじっと見てくる。それから、俺に一歩近寄った。
「上田夏生。夏に生まれるで、夏生。春哉の兄貴で、心の親父。2人が世話になってるな。」
「いえ、こちらこそ。です。」
こわっ。何この人、めっちゃ怖い!!横にいる心ちゃんと対称的過ぎる!!あ、春哉に似てるなぁ……当たり前だわ。兄弟ですから!!
「あのね、リュウジ君はね、春にぃの代わりにたまに来てくれるんだよ。」
心ちゃんがそう笑顔で言うと、お兄さんの顔が溶けた。いや、まじで。ふにゃーっと。それから心ちゃんを見下ろして、「そっかぁ、良い奴だなぁ。」なんて、握られた手を揺らしながら言ってる。それがまた、逆に怖いっていうね。
「で、弟はどうしたんだ?」
「ぁっと、委員会です。」
「委員会……あの面倒なやつな。俺は仕事が雨で中止になってな。昼過ぎに帰ってきたんだ。」
「あ、そうなんですねぇ。」
無言。傘に当たる雨の音が、耳に痛い。
「……ちょっと、面貸せよ。」
「あ、はい。」
春哉様!!ご降臨して下さい!!
***
委員会の最中。隣りに座る同じクラスの女子である山口京子が、配られたプリントを滑らせ俺に見せてきた。
『龍君って、彼女いるの?』
生徒会長の話しを聞きつつ、隣りに座る山口さんの顔を見る。俺を見ていた。さりげなく。
俺は視線をプリントに戻し、女子らしい字の下に『僕は聞いてないよ。』と書き付けた。それからまた山口さんを見ると、また何か書き付けていた。
『本当に?』
『本当に。』
『そっか。』
『告白、するの?』
『いつか、したいなぁ。って。』
『そう。頑張ってね。』
『ありがとう。』
ちらりと彼女を見ると目が合い、彼女がにっこりと微笑んだ。
何度かやりとりをこっそりとして、生徒会長の話しを聞いて、挙手で多数決を取って、委員会は終わった。
俺はプリントでのやり取りの最中から、嫌な汗が背中を撫でるのを何度か感じた。
***
「飲め。」
「あ、りがとう、ございます。」
春哉の家。お兄さんは俺の目の前に胡坐で座り、心ちゃんを足の間に乗せている。心ちゃんは、この気まずい雰囲気を知らないまま、ニコニコとオレンジジュースを飲んでいる。
「心、それ一杯だけだからな。あんま飲むと、春が怒るから。」
「うん。」
朗らかな親子を眺めながら、俺はお兄さんがくれたお茶に口をつけた。気まずい。むっちゃ、気まずい。
「この前、おかずありがとな。」
「へ?……あぁ、いえ。洗って直接返しに来たのに驚いてました。」
そう、来たのだ。俺の家に。つうか、一緒に帰ってきたんだけど。持ち帰ってすぐ、鍋に移したんだって。だから、俺が休んだ翌日。返しに来たのだ。
あ、また静かになったよー。やだよー。辛いよー。
そう思っていたら、心ちゃんがその空気を壊してくれた。
「お父さん。今日、学校は?」
「ん?行くよー。ちょっと時間あるんだ。」
心ちゃんの頭に頬ずりしながら、そう答える姿に微笑ましく思った。
それにしても、デレデレじゃねぇか。これが親バカか。もうね、火ぇ出るんじゃねぇの?って位頬ずりしてる。それを心ちゃんはきゃっきゃと笑いながら受け入れてるっていうね。俺、帰って良いんじゃないのかな、これ。
それにしても、まじ心ちゃんエンジェル。
ふと、それを見ていた俺とお兄さんの目が合った。睨まれてはいないが、何だか探られているような気がする。
「お前、春哉の友達なんだろ?」
「あ、はい。バスも、クラスも一緒で。」
「ふぅん……リュウジって、どういう字?」
「えっと、難しい方の龍に、司会者の司です。」
「カッケー字だな。で、他に仲良い奴いるのか?」
「え、あー……大体は、俺といますよ。あとは、休み時間に集まる奴らとかっすかね。」
「へぇ、昼休みは?どうしてる?」
「どうって、俺とその集まる奴らと、旧校舎で食べてますよ。」
「旧校舎?……あぁ、あれか。そっか、あの中で食ってんのか。見学に1回行った時見たけど、やっぱり造りが丈夫だと、木造でも結構もつもんだなぁ。」
そう言ってお茶を飲みながら笑って、それからも春哉の事を聞いてきた。俺は、春哉の学校での様子を思い出しながら答えた。
「いつも、一緒にいてくれてありがとな。」
急に、そんな事を言われた。俺はお茶を飲もうとしたまま動きを止めてお兄さんを見た。だけど、視線は俺じゃなく、リモコンを取ろうとしている心ちゃんの方に向いていた。
テーブルに乗ったリモコン。だけど、膝の上から降りたくないようで、懸命に腕を伸ばしている。それを微笑みながら見ていたお兄さんは、微笑んだまま心ちゃんの代わりにリモコンを取った。
テレビの画面にニュースキャスターが現れる。それに視線を向けたまま、お兄さんは言葉を続けた。
「あいつ、自分からあんまり学校の事話さないんだよな。勿論、聞けば答えるけどさ。今日はどうだった?こうだったってな。」
そんな感じは、した。家の事を話さない春哉だ。自分から何か言う事が、苦手なんだろうか。
「だからさ、4月?だったか?心から、あいつの友達が来たって聞いて、ちょっと安心した。」
つらつらと、テレビに目を向けたまま話し続けるお兄さん。その手は心ちゃんの頭を撫でている。
「高校入って、制服の着方が変わって……どういう生活してんのか知りたくて聞いたら、普通。しか答えなくてさ。」
「ん?制服の着方が違う?」
あれ、俺心当たりあるんだけど。
「うん。中学の頃は学ランでな。でも、あいつ詰襟苦手みたいでさ、いつも前開けっ放しだったんだ。それが今は、きっちり着てるし……まぁ、夏場はさすがに中学と同じ様な着方してたけど。だから、どうしたのかと思ってた。でも、お前の話し聞いて分かった。」
夏場……それ、俺じゃね?
記憶の棚を漁っていたら、夏生さんはすっと俺を見て、「あいつ、学校じゃ猫被ってんだろ。」と言った。
その言葉に、初めてこの家に来た日の事を思い出した。いつも【僕】と言う春哉が、1度だけ、【俺】と言った日。ぎしぎしと、俺の中の何かが軋み始めた日。
「俺は、知りません。」
「あー、そりゃそうか。」
困った様に笑い、視線をテレビに戻してしまった。多分、あそこで「はい。」何て答えたら、後で春哉に何を言われるか……。
「あの。」
「うん?」
「お兄さんって、おいくつなんですか?」
「急だなぁ……夏生で良いぞ。お兄さんって、あんま言われないから。」
「あ、はい。」
俺も何で歳を聞いたか分からない。ただ、心ちゃんのお父さんとして、興味が少し沸いた。幼い子供を持つ若い父に、親友の兄に。
「歳は、25。今年っつか、この夏に26な。心は……知ってるか。俺が19の時の子供。今は、仕事しながら定時制の2年生やってる。」
「はー、そりゃ若いはずっすね。」
「はは、ありがとな。」
へらりと笑った顔を見て、兄弟でもこんなに微笑みの顔が違うのかと思った。とは言え、じっと見るのも失礼だろうと俺はもう1度お茶を飲んで視線を誤魔化した。
「それにしても、あいつ帰って来ねぇな……。」
夏生さんが言った。確かに。心ちゃんの見ている番組が終わり掛け……おい、サスペンスドラマを小学1年生の女子が観てるってどういうこっちゃ。
「なぁ。」
「はい。」
「悪いんだけど、時間平気ならこのまま留守番してくんねぇ?俺、学校行かないと。」
「あ、はい。大丈夫っすよ。」
「悪いな。」
そう申し訳無さそうに笑った夏生さんは、膝の上から心ちゃんを下ろし「学校行くから、龍司と良い子にしてろよ。」と微笑みながら心ちゃんの頭を撫でた。
「じゃ、俺行くわ。」
そう言って立ち上がり、そばに置いてあった白いトートバッグを肩に引っ掛けた。薄手の白いセーターを羽織って、玄関へと向かう。その後ろを心ちゃんが追って、玄関で手を振って見送っている。
「いってらっしゃい!!」
元気な声だ。雨とか、梅雨とか、鬱陶しい物が全部どっかに行きそうな明るく元気な声。
……なぁ、春哉。お前が内緒にしてる事全部、俺に話してはくれないんだな。重かったら、半分背負う位は優しいつもりなんだけど。でも、多分お前は拒否るんだろうな。
でも、いつか。いつか、話してくれる時がきたら俺は、お前の荷物を半分無理矢理にでも奪って背負ってやるからな。
***
夜。心が眠った後。夏生が返ってきた。鍵を開ける音を聞きつけ、台所にいた俺は、玄関のまん前に立つ。
「ただい……え、何?怒ってる感じ?」
「自分の胸に手ぇ当てて、考えろ。」
靴を脱ぎながら、俺を見てくる。ニヤついてる顔面に、拳を叩きこんでやりたい。
「はいはい。龍司君と会いました。心に聞いたか?」
「良い笑顔でな。」
「そっか。仕方ないだろ?雨強くなって、現場中止になって、早く帰ってきて……悪かったよ、連絡しないで。」
「だから入って良い?腹減った。」と聞かれ、俺はその場から退かずに夏生を見つめた。
夏生は基本的に家で食事をする。夜は食堂でも使えば良いのにと言えば、好みのものがないのと、味が合わない事を理由に出す。我侭な奴だ。
「何を話した?」
「何って、学校でのお前の事。あと、俺が定時制の2年って事。」
「……入れ。」
「どーも。」
俺はそのまま台所に移動し、夏生は鞄を下ろさないまま冷蔵庫の前に立ちビールを取り出した。それを片手に、いつも通り俺の隣りに立つ。
「……家の事、話してないからな。」
無視。
「なぁ、機嫌直せよ。」
無視。
わざとらしい溜息と、プルトップを開ける音。夏生の視線が俺に刺さる。
「……なぁ。」
「何。」
「今日は、悪かったよ。」
俺は1度火を消し、夏生と向かい合った。腕を組み、少し上にある夏生の目を見る。俺も長身の部類に入るだろうけど、春生の方がほんの少し上だ。
春生は真面目な顔から一転、にっと兄らしい笑顔を見せた。
「あとは?何か話したのか?」
「……あ、お前の制服の着方。」
肩に拳を叩き付けた。ビール持ってない方だ。
「っ!?てぇ……まじかよ、それもダメなのか?」
「黙れ。レンジ。」
「……はい。」
すれ違い様、「ごめんな。」と、頭を撫でられた。
今はまだ、話したくない。ギリギリまで、俺はなるべく多くを隠して、そのまま彼の前から消えたいのに。
その日の夜に見た夢は、龍司と山口さんが俺の目の前で微笑み合う夢だった。
朝になり、目が覚め、顔を洗おうとしたら、俺の頬に何かの跡が残っていた。何も、見なかった事にした。
***
例年より早い梅雨明けです。
そう言っていたお天気お姉さん。ちょっと暑過ぎやしませんかね!?まじで!!あっつい!!暑がりな俺には、もう、堪んない!!
夏生さんとの邂逅から、あっという間に梅雨明けが来た。7月入ったばっかだぞ、おい。そして、期末の1週間前……はぁ。
冷房が教室にあるとはいえ、温度は固定。生徒が勝手に弄らないように、業者に頼んだのかは知らないがちっちゃい南京錠付き。そして、クラスには体温を持った人間が、40人程。もうね、あんまし冷房の意味ない。じわじわ暑い。……訴えたら、1度だけ下げてくれた。担任が。
それでも、旧校舎よりはましだと最近は教室で昼休みを過ごしている。その間に、春哉に勉強を聞いてくるクラスメイト達。その波が途切れてから、いつもの面子の1人。佐伯誠が口を開いた。
「春哉。」
「うん?」
「今日からだからな。」
「分かってるよ。あんなに貢がれて、ご降臨なんて言われたら断れないよ。」
くすくすと笑う春哉に、ふっと微笑む誠。何この2人。ちょっと、青春映画のワンシーンみたいだな。イケメン太陽の熱で熔解しろ。
昨日、春哉には心ちゃんをどうするのかを聞いた。当分は知り合いに任せると言われた。俺が熱で休んだ時に頼んだ人らしい。でも、誰だかは教えてもらえなかった。まぁ、もう待つしかないかなって、思ってるけどさ。
「あ、ねぇ、新しいシェイク飲みたい。」
勉強場所について話している最中、言い出したのは土屋賢悟。
新しいって、あれか。CMでスイカ味とか言ってたな。
「それ賛成。」
そう手を挙げたのは山岡辰彦。
この3人に俺と春哉が入って、いつもの旧校舎の面子になる。
「なぁ、それってCMでやってるやつ?」
俺がそう聞くと、賢悟と辰彦がうんうんと頷いた。この2人、中学が一緒らしい。
「あー、なら俺もそこが良い。」
俺も賛同し、あっさりと勉強場所は決まった。
それにしても、暑くなった。
春哉はベストを脱いで、黒か白のシャツの上にYシャツを着てネクタイを緩く締めている。これでも、ましになったんだ。夏生さんが言ってた制服の着方。特に夏の話し。変えさせたのは、俺なんだ。
だってさ、去年。1年生の時の夏。こいつ、ベストに半そでのYシャツにネクタイきっちりとか、もうクソあっついのに何着てんだよ!!って俺思わず怒鳴っちゃってさ。そしたら、どうすれば良い?って顔してくっから、ベスト脱がせてネクタイ緩めて、スラックス腰で履かせてシャツはインのままで『明日から、長袖シャツの袖を巻くって来い。』って俺が言ったの。それからずっと、夏はこれ。あの時は何も考えなかったけど、白いね。肌。申し訳ないと思ってるけど、後悔はしていない!!見た目重要!!暑い日は特に!!
でも……夏生さんが言うには、中学の時はこんな感じだったんだろうな。こいつ。想像つかない。
ちなみに、俺と誠は普通のTシャツ。その辺に売ってる、私服のね。他には、俺も誠もポロシャツ着るよ。便利だよね。1枚で済むし。で、俺はスラックスの裾を捲くってる感じ。
賢悟と辰彦は、同じく私服のTシャツにYシャツ羽織るだけ。スラックスは何もしてないけど、賢悟はたまに折ってるね。
何が言いたいかって?言って良いの?俺、嫌われたりしない?女子の視線について話して良い?
あのね、春哉と誠ってさ、イケメンなんだよね。で、この季節じゃない?もうね、女子の目が怖い。
まず、誠ね。誠、見た目はちょっと怖いけどイケメン。無愛想っつうか、クール系?みたいな。で、またシャツ一枚で来るからこう、背伸びするじゃん?へそとか、見えちゃうじゃん。俺もだけど。まずそこね。へそチラ。気持ちは分かる。分かるよ、とっても。でもねぇ、もう、女子の視線そこだよね。
で、誠に言うじゃん?
『知ってる。気にしても仕方ない。減るわけでもないしな。』
だって。ばれてるよ!!女子!!あいつただ単に気にしてないだけだからね!!
で、春哉。こっちは細身で、すらりとして色白だからかな。ぎらついてるんです、女子の目が。特に、袖から晒されてる腕と、シャツに隠れた腰な。細いからさ、目が行くの分かるよ。薄いしな、腹。たださ、ヨダレ垂れんじゃねぇのって位見てる女子がたまにいてさ。ぞわっとしたよね、俺が。
でさ、こう夏場の格好が格好だから、この時期の春哉って鞄を左肩に掛けてポケットに手ぇ突っ込んで、右手で本読んだり、もしくは両手突っ込んで歩いてんの。袖が無いのが落ち着かないらしいよ。それがまた、モデルか!!って突っ込みたくなる感じでさ。それをまた女子が、見てるわけですよ。
で、春哉にも言ってみたわけさ。
『そうなの?……まぁ、僕で良ければ見て良いよ。実害ないし。でも、あからさまだったらお金取ってもいいかもね。実害あれば、尚更請求しようかな。』
はい!!注目!!ブラック春哉様ご降臨!!微笑みながら金要求してくんぞ!!女子共!!財布構えておけよ!!
ってまぁ、こんな感じの2人なわけで。女子の目が怖いんだよね、まじで。
「じゃ、放課後はそこで。」
あ、気付いたら誠が仕切ってる。俺は弁当を食べながら頷いて、クラスをちらりと見た。ほら、見てるー。女子見てるー。
俺はすぐに視線を戻して、春哉を見た。夏になって、晒された腕。視線いく気持ちは分かる。
休んだときに触れた感触を思い出して、思わず左手を握り締めた。何もしていない天然物の色白。細い、でも男の腕。夏の光に晒されて、ちかちかキラキラが一層増してる気がする。それと比例して、俺の中の軋みとか痛みも増している。
俺は、そんな事をぼんやり考えながら、春哉が他の3人と笑っているのを眺めていた。
***
放課後になって、5人揃ってバスに乗り込み1つ目で下車。何でって?俺達の学校、ちょっと高い場所にあるんだ。山の中ってわけでもないよ。ホント。歩いてもいけるけど、この時期辛いからさ。殆どの生徒はバスに変わるんだよね。チャリの奴は、殆ど着替え持参だし。尊敬するわ。
そっから少し歩いて、アーケードへ。活気溢れるそこは、近隣の他校の生徒もいる。そうそう、あとアーケードの奥ね。奥の方に歩くと、おっきい……商業施設?みたいなのがあるんだ。それ目当ての方が多いかな
で、俺たちは今、何をしているか。
「じゃん、けん、ぽんっ。」
誰がジュースを買いに行くかを、決めています。
うわ、負けた。
「俺、コーヒー。何にもいらない。」
誠の声。大人か。
「俺達はスイカ。」
賢悟が言って、辰彦が頷く。俺もスイカにするつもりだ。
「僕は、アイスティー。」
はいはい、ミルクでしょ。
「あ、ミルクで。」
ほらな。
いやぁ、面倒な注文されるかと思ったけど、暑いから皆まずは飲み物って考えらしい。良かった。
財布を持って、レジに行く。携帯を弄りながら待って、注文。飲み物はすぐ来るから良いね。トレーに乗せられた飲み物を席まで運んで、配って、料金分捕って、勉強会の開始です。……はぁ。
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