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花火。
今まで、花火は夏生と心としか見たことが無かった。それに心が小さかったから、遠くから眺める事しかなかった。
でも、今年は違う。
皆と、一緒に見れる。皆のおかげで。
それが、とても嬉しい。
***
「あ、賢悟と辰彦浴衣じゃん。」
待ち合わせ場所に夏生さんと、誠と蓮で行くと2人が浴衣で待っていた。ベースの色は一緒だけど、柄が違うやつ。
「うん。俺のおばあちゃんが送ってきてくれたんだ。」
そう答えたのは辰彦で、それから俺は夏生さんを紹介した。まぁ、本人が「やっほー。」みたいなノリで自己紹介したんだけど。心ちゃんの人懐っこい所は、夏生さん譲りなんだろう。
「で、うちの弟と娘は?」
「あ、心ちゃんがお腹空いたみたいで。一足先に屋台に……あ、春ー!!心ちゃーん!!」
夏生さんの質問に賢悟が答えつつ、後ろを見ると当の2人は袋を手にこちらに戻ってきていた。心ちゃんが手を振っている。それから走り出して、夏生さんに抱きついた。
「何買ったの?」
「たこせん売ってたから、それにしたよ。こぼすと困るしね。」
「たこせんあるんだ。どの辺?」
「参道の真ん中辺りかな。」
「辰彦、たこせん買おうよ。」
「うん。あ、でもお好み焼き食べたい。」
「あ、俺も。」
そんな会話が浴衣組みで繰り広げている横で、俺達は心ちゃんと誠と蓮の遭遇を眺めています。
「……い、いけめんっ!!」
「……おい、お前らお面買って来いよ。金やるから。そんで顔見せるな。」
「夏生、横暴。」
「悔しいんだよっ!!絶対お前らには嫁にやらねぇ!!」
一瞬で誠と蓮に懐きました。俺も心ちゃんに「イケメン!!」って叫ばれたかった。口には出さなかったけど。
と、ここまでは良かった。普通に集合して、心ちゃんは190近い辰彦の肩車が気に入って、誠がゲームのモンスターのやつで蓮が魔法少女のやつのお面を本気で買って、皆で笑って、縁日回って食べ歩きしたりして、さて花火の時間が近いんじゃね?って頃。去年と同じ場所に春哉と夏生さんと心ちゃんを案内していたら、急に人が増えた。それで――。
あ。
と思った瞬間、春哉が俺の隣りから離れてしまった。
***
「ご、ごめん……。」
「仕方ないよ。去年もこんな感じだった。だから、辰彦が賢悟の事見張ってた。」
「そうなんだ。僕達は、少し離れた所で見てたんだ。」
「ふぅん。」
人波に攫われ、仕方なしに参道の方に戻った俺達。春哉には怪我は無い。俺は誠に、春哉は夏生さんにラインを入れた。
「春哉。俺、喉渇いた。」
「何か買おうか。」
花火が始まったとはいえ、参道に広がる縁日を楽しむ人は結構多い。俺達は1度その場から離れて、近くのコンビニでお茶を買おうかと話している時だった。
「……ん?」
「龍司?」
「……子供の泣き声、聞こえね?」
「え、ちょっと……シャレにならないよ……。」
春哉は自分の肩を抱いて、そう言った。
まぁ、場所柄笑えないよなぁ。
「いや、マジだって……。」
「えー……。」
春哉の腕を掴んで、屋台の裏側を見る。いた。もの凄く泣いている男の子が。屋台の明かりではっきりと姿が見える。でも、花火の音や屋台で食べ物を焼く音、色々な音に男の子の泣き声は掻き消されていた。
聞えたよ、俺には。
2人で男の子に近寄り、目の前にしゃがむ。びっくりさせてしまったが、その辺は春哉に任せた。
「こんばんは。僕は春哉、こっちは龍司。高校生です。お名前、言える?」
男の子の目の前にしゃがみ、春哉は自己紹介をした。春哉の声は、心ちゃんと話している時位優しい。
「……シュン。」
「シュン君。お父さんと、お母さんは?」
「ぼく、はな、はなれちゃっ――。」
おぉう。号泣。よしよしと春哉が男の子を慰め、少し落ち着いた頃を見計らって俺に抱っこしてやれと言ってきた。良いけどね。心ちゃんより、少し軽いな。
「よし、とりあえず……本気で喉渇いた。」
「そうだったね。シュン君、ジュース飲む?」
頷いた。肩がやわっこい。つうか、いくつか違うだけで、こんなに変わるのか。体重とか、身長とか、体格とか。子供、繊細過ぎる。
コンビニは諦め、屋台の裏から参道に出て、傍にあった屋台でラムネを2本と小さいパックのジュースを購入。春哉がストローを指して、シュン君に渡した。
「ありがと。」
「どういたしまして。」
俺にも、ラムネを開けてくれた。
「さんきゅ……あぁ、生き返るぅ……。」
ラムネのしゅわしゅわ感とか、夏っぽい所とか、最高だよな。
3人で一息ついて、俺は春哉に声を掛けた。
「春哉、どうする?」
「んー……どの辺ではぐれたか分かる?」
「んっとね、おめんがね、いっぱいなとこにね、おといれあるんだよ。そこでね、ぼく、はなれたの……。」
「……便所って、奥のか。」
「かもね。」
もう少し詳しく聞いてみると、一緒に来たのはお母さんらしい。お父さんは一足先に、花火の場所取りをしていて、そこにお母さんと一緒に行こうとしていた様だ。
ただ、お母さんがお手洗いに行く間、扉の前で待っていたけど音楽と人の話し声に釣られて扉の前から離れたらしい。すぐ戻るつもりだったんだけど、丁度花火客とエンカウント。あれよあれよと離れてしまい、結果迷子になったという事だ。多分。まぁ、仕方ないよな。神社のトイレって言っても狭いし、子供と入れる便所でもねぇし。それに、楽しそうな声聞えたら気になる気持ちは凄く分かる。
つうか、こうして子供抱えて歩いてるとあれだよな。ちょっと、夫婦っぽいって言うかさ。いや、男同士で何言ってんのお前ってなるけど、俺からしたらねぇ。妄想しちゃうじゃん?好きな子と結婚して、子供とか、一軒家とか?良いなぁ、って思っちゃうよねぇ。この場合……養子?って事になるのか?
「……ん?春哉?」
ふと、春哉が立ち止まって屋台の方をじっと見ていた。そこには、店員さんと何か話し込んでる女性の方。
「あの人、お母さんじゃない?」
「何で?」
「さっきから、屋台片っ端から回ってる。」
そっちの方を見ながら、春哉はそう言った。
「よく見てるねぇ。」
「まぁ、人を見るのは得意かな。」
春哉の表情は、困った様に笑っていた。多分、それが癖になってるんだろう。色々あった時に身に付けた、処世術。家族や、自分を大事にしてくれている人達に心配させない為のに、自分を隠す為に。
「……それ、もういらなくね?」
「……役には立つよ。」
俺が言いたい事を察した様で、ふっと笑った春哉の表情はいつものキレイな微笑みだった。ちなみにシュン君、泣きつかれたのか眠ってます。ジュースは、一気飲みでした。
俺達は人波を避けつつ、その女性に近寄って春哉が声を掛けた。
「すいません。」
「は……シュンっ!!」
今にも泣きそうな人は、やっぱり母親だった。眠っているのに気が付いて、すぐに手で口を覆った。
主に春哉が状況を説明した。母親は絶えず話し掛けていたらしいけれど、途中から返事が無く焦ったらしい。お手洗いから出て驚いたそうだ。捜しても捜しても見つからず、場所取りしていた父親もさっさと片して2人で捜していたらしい。
「シュン君、お母さんだよ。」
「……ま、ままぁ!!」
感動の再会。あー、ホント良かった。あっさり見つかったから良かったわ。この状態で放送流れても、絶対聞えないもんな。
シュン君は、お母さんにしがみついてまた号泣。そのお母さんは、俺達に何度も頭を下げながら父親に連絡を取りつつ行ってしまった。
花火は、そろそろ終わりそうな時間。
俺達は参道の入り口に移動しつつ、空を見上げる。花火はデカイし、キレイだし。それに照らされて赤くなったりする春哉の顔も、何か……あれ。あのー、夢っつうか、そう。幻想。幻想的。祭りの提燈の明かりとか、屋台がひしめいてる感じと合わさって、幻想的に見える。
「何?」
「何が?」
「じっと見てるから。」
「あー、この後どうすんのかな?って。」
よく出た、俺。
「そうだね……今更、向こうで捜すのも面倒だしね。何か食べる?」
「だなぁ……射的やりたい。」
「急だなぁ……良いよ。」
暇潰しに、射的したり水風船釣ったり、じゃがバターとかたこ焼き食ったり。そうこうしていたら、クライマックスの柳の花火が上がって――散った。
「……終わった。」
花火が終わると、何故か夏の終わりを予感してしまって切なくなるよな。まぁ、実際もうすぐ9月になるんだけどな。
「だね。」
「どうする?入り口で待つ?」
「うーん……コンビニの方が良いんじゃない?入り口だと、また人が……。」
「あぁ、何かすいません。」
「いやいや、僕の方こそ。」
「いやいや。」
「いやいやいや。いつまでやんの?」
「くっそ、笑わないか。」
一瞬きょとんとした春哉。でも、すぐに笑ってくれた。目を細めて、心ちゃんに向けるような微笑み。俺の一番好きな顔。
「……あ、アイス食いたい。」
「まだ食べるの?」
「食べますとも。成長期ですし。」
「それ以上成長したら、邪魔だろうねぇ……。」
「ひでぇ。」
けらけら笑いながら、くすくす微笑みながら、コンビニに入る。俺はアイスを買って、春哉はお茶を買って隅っこにある座れる所で並んで座る。俺は、春哉の左隣り。
外を眺めながら春哉が夏生さんに電話をした。穏やかな声で、今コンビニにいるとか話しをしている。
やべぇ、ちょっと、眠いかも。
***
夏生と電話でどこにいるとか、何をしていたかを話していたら肩が急に重くなった。携帯は右手で、左手でペットボトルを弄っていたから携帯を落とし掛けるだけで済んだ。
『どうした?』
「何、でもない。」
何でもあるけど。左肩に、何故か龍司の頭が乗っかっている。 そろそろ祭が終わり人が多くなるというのに、こいつは何なんだ。急に。子供か。いや、一応高2だから年齢的には子供なんだけど。違う、そういう意味じゃない。
『おい、本当に大丈夫か?』
「あ、ごめん。大丈夫。出てすぐのコンビニにいるから。」
『おー、分かったー。』
ぷつんと電話が切れて、俺は動けないまま携帯をテーブルに置いた。さて、どうしよう。はしゃぎすぎて疲れたとか、心じゃあるまいし。ブラインドを下げたくても、動けないし。本当に、どうしよう。夏生に見られたら、絶対に何か言われる。そうじゃなくても、多分暫くは笑いの種にされてしまう。
外は暗く、鏡に変わっている。それで龍司の寝顔を見れば、学校でもよく見る健やかな寝顔だ。安心しきった、無防備な顔。頬が、緩む。正直、ほぼ全体重が俺に掛かっているようで左半身が重い。何キロって、言ってたかな。俺よりはあったはずだ。それと、少し暑い。それは、まぁ、仕方ないんだけど。どうしよう。起こすのも何だか、悪い気持ちになる寝顔だ。
そう考えていたら、ちらほらと浴衣姿の人達が目の前の道を通り過ぎていくのが見えた。多分、花火が終わったからと帰る為の客だろう。とすると、夏生達も来る。
……駄目だ、混乱してきた。落ち着こうにも、状況的に落ち着けない。まぁ、うだうだ考えていてもなぁ……多分、ネタにされて終わるだろう。夏生は、多分しつこく笑ってくるだろうけど……仕方ない。
今日は楽しかったから、大目に見よう。
***
「……ちょ、俺にこれ送って!!」
コンビニで、俺はどうやら春哉の肩に頭を乗せて、眠ってしまったらしい。なんつー勿体ないことをしたんだ、俺。起きてりゃいちゃこら出来たんじゃねぇの!?コント的なノリでさ!!
賢悟に見せてもらった写メの中には、ガラス越しのせいで少し反射していたけど困った様に笑いながら手を振ってる春哉と、春哉の肩に頭を乗せてぐっすりの俺がいた。
「良い「駄目。」……だめだってぇ。」
賢悟の後ろで、春哉は眉間にシワを寄せている。隣りには蓮がいて、「俺も欲しい。」とか言ってる。また春哉が「駄目。」と言った。
「まぁ、後で拡散しますけど。」
……賢悟は、いつも一言多い。ほらぁ、ぱしんって頭叩かれてやんの。
「賢悟、いつも一言多いよね。」
辰彦に言われてやんの。
「だって、可愛いじゃん。これ。」
「可愛くはないでしょ?」
「可愛いよ。つーわけで、そーい。」
俺の携帯が鳴った。誠や、蓮。夏生さんの携帯まで。夏休みに入ってすぐに作ったグループ。そこに、今の写真が送られてきた。春哉、むっちゃ賢悟の肩を叩いてます。じゃれてます。入れろ!!俺を!!
それにしても、まだまだ夜は蒸すな。じわっと汗かいてるのが分かる。傍から見たら、俺達ってコンビニの前ではしゃぐバカにでも見えるんだろうな。でも、こういうの良いよな。……高校生、続けば良いのになぁ……。あぁ、あとあれだ。将来考えないとなぁ。もう周りは決めてるし、誠も大学行くのに半分出そうと思ってバイト始めたって言ってたし。蓮は予備校で、賢悟と辰彦だって将来の夢とか決めてるし……俺と、春哉だけか。いや、春哉は決まってるんだけど悩んでるんだよな……つうと、俺だけなんだよな。何にも考えてないの。って、前も考えてたな。諦めたけど。
……バイト、探してみようかな……その前に、宿題どうにかしよう。
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