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文化祭。

 夏休みが終わった。宿題は……うん、まぁ、間に合ったよ。一応。母ちゃんと春哉に、頭叩かれたけど。うん。母ちゃんの方が痛かった。  今日は始業式だけ。すぐに体育祭と、文化祭の準備が始まる。まぁ、準備と言ってもね。体育祭はクラスTシャツだけだし。合唱際は放課後やるし。文化祭の方が辛いんだよね。授業が無いから良いけどさ。  あ、そうそう。無くなるんだ。うちの学校は。初日の2日前だけね。あと、その日は泊まりもOKなんだ。寛容っていうか、間に合うわけがねぇだろって諦めだよね。学校側の。  はやく涼しくなんねぇかなぁ。  そう思いながら、5・6時間目を使って文化祭の準備中。男達は内装とか雑用係で、女子達は衣装とカップケーキの試作品を作っている。まぁ、衣装つってもそれほど手の込んだ物じゃない。と、思いたい。家庭科部、マジで頼む。ちなみに、着ぐるみは持ってる奴が持参してくる事になった。……賢悟が、夢の国のやつ着るって張り切ってた。  「龍司ー、もうちょい右。」  「うーい。」  「あ、その辺。」  「よしきた。」  誠の声に従って、その位置にセロハンで仮留め。誠と並んで、画鋲を使って留めていく。何をって?黒板隠す布だよ。真っ白なやつなんだけど、そこに飾りつけしてあるんだよね。  春哉達?賢悟と辰彦は買出しで、春哉は委員会でお呼ばれ。でも、山口さんは藤崎と衣装を作ってるから、春哉1人で出動中。つうか、詳しく言うと2人で行ったら文化祭のパンフレットの内容決めだったらしく、春哉が山口さんを帰してしまったのだ。『衣装の方が大変でしょ?』って、言われたらしいよ。  教室の中はごちゃごちゃとしているが、急ピッチで進む準備は割と順調だ。トラブルは今の所ない。ちょっと不安なのは、衣装班かな。俺、キャストになっちったんだよねぇ……勿論、誠と春哉と女子2人も。そうそう、店番の班は修学旅行の班でさ。半分裏方、半分キャストなんだよね。……俺がじゃんけんして、負けました。誠には、拳骨頂きました。  「龍司と佐伯。衣装班が呼んでる。」  「来た。」  「来たな。」  「お前ら、覚悟した方が良いぞ。」  「マジで?お前なんだった?」  「……教会の牧師。」  「……おい、コスプレにも程がある。」  「ヤバイな。」  先に衣装合わせをしていたクラスの男子に言われ、俺達は衣装班が詰めている空き教室に向かった。2人で衣装がどういうものか予想しながら、こっそりと恐る恐る教室の扉を開けた。  「……何してるの?」  「っ……んだよ、藤崎かよ。」  「何それ、酷いなぁ。私とゆかりで作ったのに。」  ゆかりは、山口さんの事だ。ちなみに、藤崎は愛に理科の理でアイリだ。  告白の後?皆変わらないよ。変わらないってか、何なんだろうね。触れない様にしてるっつうか、そうは言ってもギクシャクもしてないし。……変わらないよ。ホント。  「マジか……藤崎絡むと不安しかねぇよ。なぁ?」  「俺に振るなよ……。」  「安心して。超自信作だから。」  それが怖いっつうの。な。  「ゆかりー、佐伯君と龍君来たよー。」  教室の扉を開けながら、藤崎が中へと入った。黒板の所で待っていたら、藤崎と山口さんの2人が衣装を持ってやってきた。隅っこに作られた簡易個室……つっても、天井にカーテン吊ってるだけなんだけど……そこでそれぞれ着替えて、出て、鏡を見た俺は愕然とした。  「お、おま、ふざけっ、マジか!?」  「ほらー、超可愛いって。付けて。」  「付けたくねぇよ!!なんで俺が猫耳なんだよ!!」  なんかやたらとフリフリしてるし、細長い尻尾ついてると思ったら。まさかの。猫耳。俺に。俺に!!  「……ぷふっ。」  「誠っ!!笑うな!!」  誠はドラキュラの様で、黒いマントの丈を合わせてるのか山口さんがしゃがんでゴソゴソやっている。  「無理っ……ふはっ。」  「くそ……何で、俺が猫なんだよ……女子だろ!?こーゆーの!!」  「私達は、着ぐるみ着るもん。ねー?」  「うん。私はウサギのを持ってて、愛理はクマだっけ?」  「そうそう。だから良いんですー。」  「くっそぅ……。」何て悔しがりつつ、藤崎が微調整を始めてしまった。猫耳とか、屈辱でしかない。何なんだよ、これ。めっちゃ手触り良いな。おい。手作りか、これは。  「はい、前ー。」と言う藤崎の声に、体の方向を変えたら春哉がいた。めっちゃ見てる。  「……おい、何か言えよ。」  「え?言って良いの?」  「良いよ。さっき笑われたからな。」  「そうなの?笑う程変じゃ無いよ。じゃぁ、えっと……先に謝る。ごめん……可愛い。似合うね、そういうの。」  微笑み付きですよ、奥さん。まじかよ。照れちゃうよ。  「……猫耳でもなんでも持ってこいやぁああ!!」  うひょー!!やる気出て来た!!  ***  「……あー……その、何だ。似合ってたじゃん。」  「嬉しくない。」  「体毛薄いから、狙われたな。」  「……夏生に、見せたくない……。」  春哉、ファストフード店にて撃沈中です。  いつものメンバーで夕飯を食べつつ、文化祭の話しをしています。蓮は、予備校だから来ません。  「いやぁ、春がメイドって……滾るね。」  「滾らないの。ほら、これ食べてちょっと黙って。」  「あーい。」  そう、メイドさん。春哉が、メイドさんになるんです!!めっちゃ、似合うんだよ。ほっせぇから余計に。真っ白な腕と脚が、黒と白のメイド服から伸びて……今晩のオカズだわ、これ。  「……蓮にチクルからな。」  「あ、すいません。」  誠にバレました。つうか、あっという間に春哉の保護者が増えてる気がする。  「そういえば……龍司。お前、暇人なんだからバイトしねぇ?」  「暇人だと決め付けるな。暇人だけど。バイトって?」  「うちの母親、花屋やってんだけど1人バイトが辞めるんだよ。実家の家業を手伝うとかで。」  「ふぅん……。」  あ、でもお迎えデート出来なくなるじゃん。あれ、結構楽しみだったのに。あ、付き合ってません。俺の完全妄想。  心ちゃん会いたいしなぁ……でもなぁ、金欠なのは否めないしな。最近、出かける回数多くなってるし小遣いっつってもなぁ……花屋か。花屋。そういえば、春哉花好きだったな。心ちゃんと眺めてるって言ってたな。それに、結構知識持ってるんだよな。  「土日だけでも良いって言ってたけど。」  「先に言いなさいよ。やるわよ、アタシ。」  「……うざい。」  「ひでぇ!!」  「似合わない。」  「おい、賢悟君。お前の頭に花飾ってやるから待ってろよ。」  「何それ、可愛い。」  辰彦よ、期待の目で見ないでくれ。  ぐだぐだと話しをして、夜の9時解散。俺は春哉とバスに乗る。時間帯的に、住宅街に行く人々で俺達2人は入り口辺りで吊革に掴まる。今日は、夏生さんが休日出勤したから休みらしく、心ちゃんはお任せだそうだ。  「花屋かぁ。」  「結構肉体労働らしいよ。」  「そうなの?じゃぁ、辞めたのって男なんかな?」  「かもね。土日にやるの?」  「うーん……平日も相談してみようかな。心ちゃんのお迎え、気に入ってるんだよね。楽しいしさ。」  「……僕も、楽しいよ。」  おぉ?素直ちゃんが顔を出してきたよ。やべぇ、にやける。  「ぁ……っと、俺次だわ。その、水曜日に入れる!!土日は1日頑張る!!」  「ちょ、バスの中だから。」  「はっ……す、すいませーん。」  超恥ずかしい。  春哉に「また明日。」と伝えて、俺はバスから降りた。そのまま家に向かいながら、俺は誠に聞いておいた家の電話の方に連絡を入れる。のんびりとした声に、俺は自分の名前を名乗ってバイトの件を伝えた。水曜日と、土日は朝から1日。早速、明後日から来るように言われた。  空を見上げても、ここでは星は見れない。いつか、皆で星を見に行けたらとふと思った。  ***  『ちいちゃいお店だから、あまり気負わないでね。』  そうは言われましても、まーきつい。やっぱり辞めたのは男の人だったみたいで、力仕事の量がパネェっすわ。でも、確かに小さい店だ。採算度外視ってわけでもないけど、結構狭い。あと、場所が駅の近くだから、割と買っていく人が多い。文化祭の準備が響きます。  「ぁ、いらっしゃいま……うへぇ。」  「客にそんな顔すんな。」  視界にスニーカーが入ったから、声を出しつつ顔を上げてみたらまさかの人物。蓮様です。  「だってさぁ……つうか、何でこんな所にいんの?」  ここは、誠の家の近くにある駅で。学校からだと少し遠く、俺の家からチャリだと20分位の所。駅とロータリーが傍にあって、仕事帰りの人がよく買っていく。らしい。水曜日は、電車で帰ります。  「予備校、そこ。」  そう言って指差した先には、確かに予備校の文字。わぁ、CMでよく見る所だぁ。  「でも、学校遠くね?」  「まぁ……でも、一番近くはここしかなかった。」  「あー、成る程。」  「で、お前はバイトか?」  「あれ?聞いてない?」  てっきり、誠が面白半分で話してるかと思ってた。  「うん。ここが、誠の母親の店ってのは知ってる。」  「あー、今日初出勤。」  「ふぅん……まぁ、頑張れ。」  「さんきゅ。お前もな。」  「……うん。」  それじゃ。そう言い合って、蓮は歩いて行ってしまった。あー。これ腰やりそうで怖い。  ***  「……うーん……あと衣装が3着と、外看板と廊下に置く看板?合唱際の練習か……。」  怒涛の9月はあっという間に過ぎてしまった。文化祭まであと2週間です。  バイト?結構順調。筋肉つくよ、あれ。心ちゃんもね、俺が花屋でバイトしてるって言ったらめっちゃ笑顔で応援されちゃった。あと、似合うって。頑張りますよ、俺は。  今は、祭間近の最終打ち合わせみたいな。5・6時間目を使って、クラスで相談です。去年やったお陰か、準備はもう殆ど終わってる。去年は苦労した。泊まりはしなかったけど、かなりきつかった。慣れって怖い。  あ、クラスTシャツはついさっき配られました。どピンクです。イラストは美術部監修で、3パターンの内で多数決。夢の国最強説は、永遠ですね。背中はクラス皆の名前が入ってるんだ。  合唱際については、まぁ、ちょこちょこと練習してるよ。放課後にきっちり1時間。結構出来上がってるんだ。  「……衣装は任せるしかないよね?」  「そうだね……もう少しだから、頑張ろうね?言ってくれれば、材料調達は男子でやるから。」  ……残りの衣装班、撃沈。くそ、俺何かほぼ毎日微笑んでもらってるもんね!!  「えっと。カップケーキとクッキーについては、前日に目標数焼いてもらって、合唱際はまぁ問題ないか。……あとは看板かぁ……インパクトがなぁ……。」  教卓にいる春哉と山口さんの所に、クラスの生徒が入れ替わり立ち代りする。それ以外は待機で、担任はいつの間にかいなくなってる。  真剣な顔も、可愛いな春哉……はっ、いかんいかん。催す所だった。静まれ俺。  「……悶絶してるな。」  「……マコちゃっだ!?いった!!何で!?」  「あぁ、すまん。空耳だったか。どうした、頭抱えて。」  「ぐ……澄ました顔しやがって……あ、この前花屋に蓮来た。」  「ん?……あぁ、予備校の近くか。」  「知ってた?」  「まぁな。ついでに言うと、俺のバイト先も近い。」  「そーなんだ。」  最近、誠は昇給したらしいよ。羨ましいね。  誠は俺の机に寄り掛かって、俺とぐだぐだとお喋りを始める。気が付けば、5時間目はそれで終わってしまいそうになっていた。  「うん、あとは合唱際の準備だけだね。去年やってると、やる事の順番が分かって良いね。」  「そうだね。」  なんて、朗らかに話す山口さんと春哉。微笑ましい半分、羨ましい半分。  ……まぁ、俺の心の中に仕舞っておかないとね。  ***  「……へぇ……。」  「あのさぁ、そんな真面目に見ないでよ。」  「だって、春が女装って。似合いすぎて違和感ねぇよな。」  「やめろ、ホントに。」  「あー……現場無かったらなぁ……休み返上なんて、苦痛だ。」  「だからこうして見せてる。」  「……ちなみにさ、下着は?女物?つうか、エロいな。ミニスカメイド。」  そう言いながら、夏生が俺の携帯を傾けている。見えるはずがないだろうに。  「……ハゲろ。変態。」  「あ、その呪文やめて。ごめんなさい。で、それは?」  「当日までにやる事。」  「ふぅん……結構あるんだな。」  「俺個人のだから。当日は、実行委員と一緒に駆けずり回る。」  「店は?」  「走るのはシフト外の時だよ。」  「……メイド服で疾走。」  「馬鹿か。着替えるに決まってんだろ。厚底の靴履くんだから。」  「厚底、ねぇ……。」  また、携帯を傾けている。  「ちょっと、下着に固執すんな。」  「……いやぁ、お前が楽しそうだからさぁ……あっ、ガーターちらっと見えた!!」  「してない!!」  「……なんだ、ボクサーかよ。つまんねぇ。」  「……ビール、全部捨ててやるからな。」  「まじすんません。楽しみを奪わないで。」  ***  季節はいつの間にか寒さが増してきて、街路樹は殆ど茶色く散り始めてしまった。真っ青な空は、どこか寒々としていて、でも夕日はキレイに橙に染まるからプラマイゼロだ。  今日は、体育祭の前日の水曜日。明日木曜日に体育祭。金曜日は文化祭初日で、校内だけ。土曜日が文化祭の一般公開で、日曜日は合唱際。月曜日は振り替え休日。つうわけで、バイトは来週水曜日まで休み。  「お疲れ様でーす。」  「はい、お疲れ様。毎日元気ねぇ。」  「それが取柄っすから。」  土日は9時に入って、閉店まで。休憩は、3回計3時間。まぁ、つっても殆ど人は来ないし店番と自転車で配達だから休憩しまくってるけどね。お昼ご飯は、誠ママお手製のお弁当。これがまた、美味しいんですよ。  水曜日は時間は決まってない。知り合いが雇い主だと、融通がきくね。学校から電車に乗って、構内のトイレで着替え。それからお店に行く。で、閉店の9時まで。  「じゃぁ、今日は大きい花束の続きねぇ。」  「うっす。」  結構きついけど、楽しいです。花束、小さいのなら作れるようになったし。  それにしても、寒くなってきた。冬になると、さらにきついらしい。温かくして来る様に言われた。あと、手袋とかハンドクリームとか、とにかく寒さ対策はしっかりねと言われた。防寒グッズは置いて行って良いって言われたしね。荷物の多さについては、問題ない。  「……下手くそ。」  「うわっ!?……誠かよ。おどかすなよなぁ……。」  大きい花束を作っていたら、誠の声に驚いてしまった。気配消して来るから、めっちゃ怖い。  「ダメよぉ、マコちゃん。」  「そうだよ、マコちゃん。あ、痛い痛いごめんなさい。マジすんません。ギブギブ。」  首絞められた。  「仲良しねぇ。それで、どうかしたの?」  気が付けば、誠はバイトの制服姿だ。白いシャツに黒のベスト、腰に巻くタイプの黒いエプロン姿。  「父さん、帰ってきてる。電話しても出ないって、こっちに連絡来た。」  「あら、本当?」  やだぁ。と言いながら、バックヤードに行ってしまうマコママ。どうやら休憩時間に置いたままにしていたらしい。向こう側から楽しげな声が聞える。  「じゃ、俺戻るわ。」  「あ、うん。」  「……なぁ。」  「うん?」  「俺が言うのもなんだけど、結構脈アリだと思う。」  何の事かと考えてしまったが、心配の表情から俺の疚しい感情の事かと思い至った。  「……まさか。でも、良いんだ。こじれて、この距離感がダメになるの怖いし。」  「そうか。」  髪の毛をぐしゃぐしゃにされました。  誠が行ってしまって暫くしてから、マコママが戻ってきた。  「ごめんなさいねぇ。パパが、2人で食事でもって言うの。今日は……お休みって事でも良い?」  「はい、大丈夫っすよ。来たばっかだし。」  「急にごめんなさいねぇ。パパ、あんまり帰って来れないから……。」  「気にしないで下さい。俺も、来週まで来れないっすから……そっちが心配っす。」  「大丈夫っ。他の子達もいるしね。文化祭、見に行くわね。」  「はい。カップケーキ美味いんで、是非。」  「あらぁ、楽しみねぇ。」  ***  秋晴れです。キレイな空の下、体育祭。……全体で2位でした!!担任が全員分のジュースを奢ってくれて、文化祭で評価1位を狙う事をクラス皆で誓いました。やるぞ。客引き任せろ。え?春哉の活躍?……まぁ、あれだよ。仮病っていう最終兵器使ったからさ。代走?俺に決まってんだろ。ぶち抜いてやったぜ、去年負けた奴が相手だったからな。  あ、クラスTシャツ?……あれねぇ……。走って暑くなってジャージ脱いだらさ、落書き班にとっ捕まって落書きされたんだよね。まぁ、良いんだよ。そういうもんだよ、クラスTシャツって。たださぁ、下ネタばっか書くから家に帰ったら母親はゲラゲラ笑うし、弟に変な目で見られるしでさぁ……親父?親父は真面目な顔で、俺と弟に性教育始めるもんだから寝る前に弟に蹴られたよ。まじ痛かった。ハイキックが背中にどーんだよ。息止まるかと思った。……同じ事してやったけどな。  「おはようございます。お前ら、昨日は惜しかったな。でも、今日と明日はイケると俺は思ってる。なんてったって、カワイコちゃんとイケメンが多いからだ!!」  ぐっと拳を握り、担任が血迷った事を言っている。  「優勝すれば、文化祭の費用が全部チャラだ……金を掛けてないとは言え、費用は費用だ。タダに勝る物はねぇ……稼ぐぞー!!クラスの取り分は、クラスのもんだー!!」  いや、皆取り分ないから。単純に費用がちゃらになって、余りが俺達に戻ってくるだけなんだよ先生。クラス全員のジュース代位だよ、きっと。  さて、春哉の衣装ですが。鼻血堪えるのに必死です。真っ白なニーハイとか、クツのせいか脚線がもう……犯罪的だろ女子!!良くやった!!スカート掴んで、必死に隠す姿が最高です!!  「へぇ、委員長似合うじゃん。」  「ちょ、やめ……。」  「先生訴えるぞ!!」  春哉のスカート捲くってんじゃねぇよ!!  「おぉ……猫だ。俺猫派なんだよなぁ。」  「知るか!!撫でるな!!」  「で、佐伯はドラキュラ?……イケメンくたばれ。」  「教師と思えない台詞だな。その手の中にある分の代金、分捕るぞ。」  しかもこいつ、真っ先にカップケーキとクッキー食べてやがる。先生のくせに。  「……まぁ、何だ。朝一はお前らか。ま、頑張れ。いやぁ、委員長ナイスだわ。」  誠の言葉をスルーだと。  「だから、やめて下さいってば。」  「髪長くなると女子だなぁ。中身見せろよ。」  「先生!!私達の傑作を汚さないで!!」  山口さんと藤崎が、春哉に抱きついて隠そうとする。おい、代われそこ。  「……着ぐるみも良いねっ!!」  この男、ダメだ。親指立てて、ニヤけてんじゃねぇよ。  「クズ教師。」  「変態教師。」  「男ってのは、そういうもんだ。」  俺と誠が言うと、開き直りやがった。クズだ、まじで。  「じゃ、敵情視察してくっから。委員長、色気振りまけよー。」  「冗談じゃない。」  そんな感じで初日です。つっても、校内だけだし。身内だからね。問題と言えば、春哉が獲物にされてるくらいですかね。明日になったらどうなる事やら。もう。  「んだよ……らっしゃーせー。」  「おい、龍司。やる気出せよ。」  「うるせぇ。さっさと注文して、さっさと帰れ。もしくはお客様を連れて来い。」  「ひっでーなー。あ、いたいた。春哉ぁ!!」  あ、クラスメイトですよ。シフト外の。  春哉、早速囲まれてる。  「ちょっとお客さん、お触りなしで。」  「ケチるなよ龍司ぃ、2人一緒で良いから撮影頼む!!」  「金取るぞ。」  「まぁまぁ……1人じゃないなら、僕は良いよ。」  「さっすが委員長!!」  「カンケーねぇだろ。」  「龍司。」  「……ちっ、お前ら。1枚だからな。」  「っしゃぁ!!後で何か買ってくるからさ。」  「だったら、ここで買いなよ。」  ……ごもっともな意見だぜ、春哉。2人並んで写真とか、初めてかもしれないな。……あとで送ってもらわないと。  それにしても誠は誠で、女子生徒に大人気だ。あ、1年生までいるじゃん。すっげぇ、キャピキャピしてる。誠は、無茶苦茶困ってるけど。  「……山口さん、撮影300円取ろうか。どうせ校内の人間だけだし。」  あ、春哉が変な事言い出した。  「300円?私達の傑作が?1000円取ろうよ。」  山口さん、目が商売人の目です。  「さすがに怒られるから、500円で。事後承諾して、売り上げ全部渡せば文句言われないでしょ。」  「勿体ないなぁ……でも、決まりだね。校内中の生徒達から、搾り取ってやろうよ。喫茶店でカップケーキとクッキー馬鹿にされた恨み晴らしてやるわ。1位になって、余ったの費用は頂いたわ。」  「……藤崎、山口はいつもあぁなのか?」  「委員会で実際の権限持ってるの、あの2人って噂だよ。」  「やべぇ。」  我がクラスに、可愛い顔した悪魔が2人いる。  ***  「やってくれると思ってた。良くやった!!売り上げぶっちぎりだぜ!!見たか、三島ー!!」  「……三島と賭けてるらしいよ。」  ひそひそと後ろから賢悟の声が聞えた。振り返れば、まだ夢の国着ぐるみのままの賢悟。春哉?とっくに着替えてるよ!!午後は実行委員と、駆けずり回ってたよ。一緒に回りたかったけどな。  さて、数学の三島。メガネ野郎。担任とは正反対で、インテリくそメガネだ。……授業中に雑誌没収されたんだよ。読んでますん。つうか、2人仲良いのか。意外。  「マジで?数学の三島?」  「大学一緒なんだって。」  「あ、そういう。」  「焼肉かな?」  「功労賞で俺達全員連れてかないかな?」  「2人共。先生調子に乗っちゃうから、抑えて。」  春哉が人差し指を口元にあてて、シーと言った。また笑顔で。くっそ可愛いな、ちくしょう。  「ともかく。明日が勝負だ。写真についてはな、せめて100円にしろって言われたからそこだけ直してくれよな。俺は、1000円取っても良いと思うけど。」  うわぁ、クズ教師がいるー。  「ま、明日は親御さんも来るだろう。ぜっっっったいに連れて来いよ!!解散!!」  担任の一声で、教室の床に座っていた俺達は帰り支度を始める。いつもより下校時間が遅い。空はもう夕方で、橙色が広がっている。  「じゃ、また明日な。」  寒い季節に入ったからか、生徒の大半は歩いて帰る様になっていた。俺は、春哉と一緒にバスに乗る。疲れた春哉は、少しうとうとしていて不安だ。  「……なぁ、大丈夫か?」  「うん?うん……平気。」  平気には見えないんだけどな。まぁ、良いか。このまま送っていこう。心ちゃんは、社長夫人が迎えに行ってるらしい。そこから、学校帰りの夏生さんと帰ってくるそうだ。  ……春哉、寝ちゃった。  最近、春哉は元気すぎる気がする。積極的になるのは、別に悪い事じゃない。むしろ、良い事だ。でも、どことなく空回ってるというか、焦ってるというか。そんな風に、俺には見える。  黒髪に、夕日の色が映ってる。  ふと、誠の言葉を思い出した。脈アリなんじゃって言葉。そんな事、あっちゃダメなんだ。だって、男同士なんて。報われないだろ?色々さ。  想ってるだけで、俺は満足しなきゃ。あと……うん、これは俺の心の中にしまっとく。

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