千円札を間に、蓮と春哉が睨み合っています。……微笑みながら睨む春哉が、無茶苦茶怖いです。俺と誠は春哉の両隣りに立って、成り行きを見守りつつお客様をご案内差し上げておりますです。女子2人？接客してくれてるよ。 　「10枚。」 　「馬鹿か、君は。看板をよく見てくれ、1人1枚だ。」 　「……ところで、下は女物を――「おいおい、俺様蓮様。それを言ったら、俺の鉄拳がお前の顔に真正面からぶつかるけど？」……猫、あとで撫でてやるから黙れ。」 　「猫じゃない!!猫だけど!!違う!!」 　「あー、よしよし。」 　「……君、本性が表に出てるよ。」 　「そこの吸血鬼のお陰だろ。」 　「俺に振るな。あ、いらっしゃいませ。こちらにどうぞ、愛らしいお嬢様方。」 　誠は慣れた様子で私服姿の女子を3人、席に案内をする。その姿を見た蓮の目、めっちゃ怖い。なんというか、嫉妬の炎に俺は見える。まさか、あの時気になるって言ってたの、誠のことだったのか？ 　「……今のは、何だ。」 　「あぁ……格好に合わせて台詞を決めてあるんだよ。」 　「お前は？」 　「……席に、座るのか？」 　「さっきっからそう言ってる。」 　「……いらっしゃいませ、ご主人様。」 　「それだけ？」 　「ぐっ……今日1日、日頃の疲れを癒せるよう懸命に尽くさせて頂きます。」 　スカートの裾を摘み、少し膝を折って頭を下げる春哉。可愛い過ぎだろ。 　「顔が怖い。」 　「てめぇ……踏むぞ。」 　ブラック春哉様、ご降臨です。 　「撫でて欲しいの間違いだろ？龍司は？」 　「俺？いらっしゃいませ、主!!席案内してやるから、撫でて!!……蓮にやると屈辱。」 　「そうかよ。まぁ、良いんじゃないか？どう聞いても、考えたのは女子って分かるな。」 　「分かるか!!ありがとう!!辛い!!」 　「龍司。」 　「あ、はい。仕事します。」 　逃げるが勝ちだぜ。 　＊＊＊ 　「ホントに、君と誠の間に何があったんだ？」 　「そうだな……いかがわしいのは、間違いないな。」 　「……僕と同じ様な事を？」 　「まさか。今度は、お互い同意の上だ。」 　「つ、付き合ってる、のか？」 　「……さぁ？」 　「目を逸らすな。君、何も言ってないのか？」 　「そもそもの始まりが、爛れてるんだ。仕方ない。タイミングがな、中々……。」 　「相変わらず、クズというか優柔不断というか。」 　「随分な言い方だな……誠を呼んでくれ、あいつの母親から伝言を預かってるんだ。」 　「……かしこまりました、ご主人様。」 　「……良いな、これ。」 　「ふざけんな。」 　＊＊＊ 　「……はぁ……。」 　「うぜぇ。」 　「どんまい。」 　春哉はシフトを終えるとさっさと着替えて、実行委員の手伝いに行ってしまった。俺は、誠と蓮と一緒にいる。賢悟と辰彦は、接客真っ最中だ。最初に言ったけど、子供人気が凄かった。 　俺たちは、人の少ない渡り廊下の隅っこで屋台で買ったものを食べてます。割と美味いよ。 　「そういえば、蓮の学校の文化祭はいつ？」 　「……来ても、つまらないぞ。あそこは、あまり派手にはやらない。」 　「そうなの？」 　「あぁ。展示が主立っていて、俺達だって適当に教室で喋ってるだけだしな。」 　「何それ。つまんねぇ。」 　「だな。文化祭じゃない。」 　「それがうちの文化祭なんだよ。他校生なんて来ないしな。来ても、中学生が学校見学のついでに来てるって位だ。」 　なんつーつまらない文化祭か。俺だったら、その文化祭の準備からばっくれるな。しかも、蓮のクラスの展示テーマがまた。経済的ななんちゃらーとか、まじ無理っすわ。 　話は変わり、その後は下らない話をしていた。あとは、修学旅行の事について。まぁ、定番の場所だから。蓮もピンポイントでお土産要求してきたよ。 　「お？」 　俺の携帯が鳴ってますよー。あれ？辰彦からだ。 　「もしもし？」 　『龍司っ!!そこに誠と蓮いる!?』 　「いるけど……どうした？」 　『うちの教室で喧嘩!!春哉と賢悟が!!』 　「……すぐ行く!!」 　誠と蓮に伝え、俺達は教室へと向かう。 　「あ、でも……。」 　「蓮？」 　「大丈夫だろ、あいつ喧嘩強いから。」 　「は？」 　走りながら蓮はそう言ったが、俺と誠は信じられなかった。口では春哉で負けるけど、辰彦のあの感じは腕っ節の喧嘩だった。……でも、夏生さんいるしなぁ……アドバイスとかは、聞いてそう。怖。 　教室の傍に行くと、野次馬が沢山いた。歓声が上がっている。人ごみを分けて進み、教室の中へと入る。教室の真ん中では、床に倒れた男達を踏みつけ見下す春哉と賢悟がいた。……着ぐるみで看板下げたままじゃん、賢悟君。 　春哉と言えば、後ろに女子生徒達を庇っていて、その女子生徒達は春哉にしがみついて倒れた男達を蹴り付けている。でも、うちのクラスとそうじゃないのが混じってるな。まて、蹴ってるのはうちのクラスの女子だし、チャイナドレスじゃね？あれ。 　「君達、ポケットを漁ってくれますか？」 　「うん!!」 　「あ、はいっ。」 　春哉にしがみついていた女子生徒が、倒れた男達のポケットを漁り手帳らしきものを取り出した。他校生が入るときは、生徒手帳か身分証がいるんだ。犯罪対策ってやつでね。 　「ありがとう。しがみついていてもらって、構いませんよ。」 　あ、戻った。代われ!!いや、ぐ……今は譲る!! 　「さて……学生証ですね。高校1年生ですか。それにしても、羽目を外すにはやりすぎだと思いませんか？ましてや、他校の女子生徒に、先輩にセクハラですか？チャイナドレスだからと言って、お触りOKではありませんよ。それとも、喧嘩が強いという自負ですか？負けないという過信ですか？舐めてもらっては、困りますよ。賢悟、ガムテープを。」 　「はいっ!!あ、やる事は分かってます!!」 　「では、良しなに。君達、触られただけですか？」 　「うん。私は、お尻触れたんだよ!!酷くない!?あ。あと、この子他校生っぽいんだけどどうする？」 　「連れがいるでしょうから、捜してあげて下さい。ですが、事情を聞くはずですから教室から出さない様に。」 　「はーい。」 　「賢悟、背面ではなく正面で縛って差し上げて下さい。」 　「えげつな……はーい。」 　「では、先生を呼んできます。お来校の皆様、お騒がせ致しました。何か問題がありましたら、遠慮なくお申し付け下さいませ。」 　……やだ、カッコイイ。何あの春哉。踏んで下さい!!って言いたい。多分、叩かれるけど。 　「……ほらな。運動音痴のくせに、器用だし人をよく見るから結構痛い所突くんだよな。」 　「怖……龍司？」 　「……惚れた。惚れ直した。カッケー!!」 　「……バカだ。」 　「バカなのは、元々だ。春哉!!」 　「誠……皆一緒だったんだ。丁度良かった。お客さんの整理手伝ってあげてくれる？あと、蓮はあの騒いでるの見張ってて。僕、先生呼んでくるから。」 　3人で頷いて、廊下を颯爽と立ち去る春哉を見送る。聞いて。あれ、俺の親友で俺の好きな人。超カッコ良くね？ 　「ほら、立ち去る所見てないで手伝え。」 　「おぉ？おー……。」 　教室の中に入ると、春哉の話しで持ちきりだった。また、ファンが増えるかもなぁ……やだやだ。 　喧嘩騒動は、春哉が連れてきた我がクラスの担任のおかげで一段落。2日間で1位だったのは良いけど、合唱際は2位だった。ほら、数学の先生ね。担任が無茶苦茶悔しがってたけど、文化祭は春哉の喧嘩騒動のお掛けでぶっちぎりだったからイーブンって事になったらしい。 　「さて、お前ら。行事の次は修学旅行だ。気ぃ抜いて、旅行先で変な事起こすなよ。」 　そんな言葉で、文化祭はあっけなく終わってしまった。掃除の時間が超切ない。でも、同じくらい修学旅行が楽しみだ。 　打ち上げ？やるに決まってるでしょうが。でも、春哉は来ないそうだ。騒ぎを起こした事を蒸し返されたくないのと、夏生さんから連絡が入っていたらしい。急に夜間工事に借り出されたそうだ。まぁ、仕方ない。 　「……春哉。」 　「うん？」 　バス停の前。生徒達に混ざって、バスを待つ。ぱたんと本を閉じて、俺を見た。最近気が付いたんだけど、こうして立ってる時はこうして見てくれるんだよな。 　「……打ち上げ、来年は出れると良いな。」 　「そうだね。」 　「来年はさ、全部優勝しような。体育祭も、合唱際も。」 　「うん。」 　「修学旅行、楽しもうな。」 　「うん。」 　いつもの通りの微笑みを見せてくれたすぐ後、バスがやってきた。春哉の読書タイムだ。 　＊＊＊ 　「……龍君。」 　「ん？あ、山口さん。どした？」 　「あの、今度もう1度だけ。もう1度だけ、告白しても良い？」 　「……俺、断っても良いの？」 　「うん。私が、諦めつかないだけなの。これで、諦めるから。」 　「そっか……良いよ。待ってる。」 　「……ごめんね。」 　「んーん。好きになってくれて、ありがと。」 　「うん。じゃぁね。」 　「気を付けてね。」 　「……モテ期か？」 　「おぉ？賢悟か。かもね。」 　「で、本命誰？」 　「なーいしょ。」 　「ケチ!!」