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修学旅行。
「春哉!!無事か!?」
「おっさん連れてきたか!?」
「俺達、女子達と話しておっさん脱がして晒してやろうって話しついたんだ!!」
……うん、予想通りだね。頼もしいわ、本当。
「うん、もう良いから黙ろうか。君達。」
――ブラック春哉様だぞ!!
――お前ら、お荷物お持ちしてやろうぜ!!
「おいこら、俺と誠の荷物も持てよ!!つうか、春哉の荷物は俺が持ってますから結構です!!やめて!!うちの子に触らないで!!」
「ぷっ。」
お、やっと笑ったよ。皆も春哉が笑った事にほっとしているのか、話しは予約制の露天の大浴場にシフトした。どうやら、春哉の為に予約を入れたらしい。最後の時間だから、皆で寝る前に行こうって話になったそうだ。
「ありがとう。ホント、大丈夫だよ。」
「おい、つうか俺ら上着すら脱いでないんだけどな。」
誠の一言でクラスメイト達はわらわらと自分の荷解きに戻っていった。俺達も自分の荷物の所に行って、やっと一息。つっても、夕飯まであとちょっとだから着替えるだけなんですけどね。
クラスの男子全員で雑魚寝……今思ったけど、標的俺だよな。多分。うわぁ、夕飯時間来るな!!
***
……来ちゃった。夕飯の時間、来ちゃった。ついでに山口さんから、ライン来ちゃった……。
「マコちゃん……。」
「春哉、醤油取って。」
「うん。」
無視かっ!!くそぉ……色々あって、正直に言うか決めてないのに。
「……俺、便所。」
「うん。」
「頑張って。」
あ、これあれですか。春哉も知ってるパターンですか。そうですか。言ったの誰だよ!!誠にしか言ってないのに!!はっ、まさかの女子の誰かか?山口さん本人……ありそうだわ。あの2人、結構仲良いんだよな。同じ委員だし。
はぁー……そして色々考えながらも、温かいお茶を2つ買っちゃう俺ね。優しいね、俺。誰か褒めて。
なるべく時間を掛けても、結果は変わらない。俺は、お茶を2つ持って中庭に向かった。風呂入る前で良かった。
中庭に出れる場所に行くと、山口さんがいた。寒いからだろうか、ガラスの引き戸には鍵が掛かっている様に見えた。
「あの、山口さん。」
「あ、ごめんね。龍君。」
「良いよ。これ、あげる。」
「あ、ありがとう。」
「うん……あの……。」
「あ、私からで良い?」
「うん。」
中庭と言っても、歩ける広さはない。何と言うか、和風だ。小さい池と、灯篭だっけ。そんなのもある。
「あの、正直言ってしまうけど春哉君に話したの。」
やっぱりな。春哉は、相談役になるのが多いね。
「うん。」
「でね、別に諦める必要無いんじゃない?って、言われたの。私が龍君の為に諦めるって言うのは、私の押し付けじゃないかって。えっと、龍君の為にって私の自己満足でしょ?龍君の言葉は無視してるじゃない?」
「あぁ、そだね。出来れば聞いて欲しいかな。」
「うん、だからね。言い方変えるね。」
「うん。」
「龍君。私ね、龍君の優しい所がすっごく好き。誰に対しても朗らかで、優しくて、おっきくて、そんな所が好きになったの。」
ちかちか、キラキラ。山口さんが輝きだす。俺が春哉を見る時とは、違う輝き。俺には少し、眩しすぎる。
「うん。」
「付き合って欲しいなんて言わないけど、このまま、また新しい恋が出来るまで。好きでいて良いですか?」
山口さんが俺を見てる。今度は泣いてない。笑顔だ。やっぱり、女子ってすげぇや。
「……うん。良いよ。ありがとう。」
俺がそう言うと、山口さんの顔つきが変わった。キョロキョロと周りを見渡して、俺をちょいちょいと手招いた。俺は山口さんの身長に合うように、顔を寄せた。耳に手が触れて、こそこそと話し始める。
「あの、間違ってたらごめんね。」
「うん?何を?」
「龍君って、春哉君が好きなの?」
「……えっ!?」
「あ、違ってた?」
「え、いや、何で?あの、俺が?」
「だって、ずっと見てたもん。」
あぁ、マコちゃん。あんたの観察眼すげぇっすわ。あんたの勘、大当たりだよ。山口さんの勘もすげぇよ。
分かっているなら、仕方ない。山口さんが話してくれたんだから、俺も話すべきだろう。
「……あの、そう、ですね。うん。合ってます。」
「あ、そうなんだ。」
「うん。つっても、自覚したの最近だけど。」
「そうなの?いつも一緒だったのに?」
「んー?だからかねぇ?誠に言われて気付いたくらいだし。」
「そうなんだ……意外。」
「何が?」
「だって、春哉君と私達女子が話したりしてると、龍君何か……捨てられた子犬?みたいな顔してたから。」
「……は?俺が?マジで?」
「うん。だから、本当はね?脈無しなんだろうなぁとは、思ってたの。でも、春哉君に言ったら応援されちゃったし、龍君の片思いかな?って思ってたんだ。だから、告白したの。結局は、ダメだったし最初は辛くて泣いちゃったけど。」
「分かってて、告白したの?何で?」
「だって、好きだもん。気まぐれでも良いから、一緒にいれたら良いなぁって思っちゃったの。だからね、龍君が私と付き合っても私を好きになれるか分からないって言った時、衝撃だったよ。私の浅はかな考えが見透かされたみたいで。」
「……女子って強いなぁ。」
ホント、強い。好きだから、相手に伝えたいと強く思ったから。だから、山口さんは俺に伝えたんだ。
「強いよー。愛理と春哉君だって、いつも通りでしょ?」
「あー、そうだねぇ。」
「だからさ、龍君も頑張ろうよ。私ね、春哉君なら良いよ。」
「良いよって?」
「あー、春哉君かぁ……なら、しょうがない。ってなる。」
「マジか。寛容すぎるだろ、山口さん。」
くすくす笑う山口さん。その後少しだけ、何故か俺の恋愛相談になってしまった。男同士なのに、山口さんはうんうんとちゃんと聞いてくれた。あと、何故か春哉の良い所を言い合うなんて事にまでなった。
「……本当に、好きなんだね。」
「……俺、分かりやすい?」
「んー、普通かなぁ。多分、私は特別。ずっと、見てたもん。あ、ストーカーみたいだけど、違うからね。」
にっこりと笑った山口さん。俺が買ってきたお茶は、もう冷たくなっていた。夕飯の席に戻る間に、山口さんに口止めをした。
***
賢悟から、山口さんのリベンジの話を聞いた時。正直、関心が最初に起こった。諦める為に、伝える。女子が何を考えているかは分からないが、こういう恋愛事に関しては尊敬出来る。俺には出来ない事だから。
「遅いな、龍司。」
「そうだね。」
「……蓮に聞いた。」
「……そう。」
「俺は、龍司側だから。」
「……今回僕は、前原側かな。君、ちょっとアレだよ。」
「どれだよ……お互い敵か。」
「そうだね、敵だ。」
龍司は、断る。誠はそう言った。理由はさすがに聞かなかったし、誠も教えるつもりは無かっただろうけど。それを知ったところで、俺にはどうしようも出来ない。ただ、龍司に想われている人に羨望の眼差しと、嫉妬の眼差しを送るだけだ。
「やべー、超寒い。」
「露天が気持ち良さそうだね。」
「だな。」
「ねー、俺に構ってー。」
「クラスの男子が寝る前覚悟しておけって言ってたが。」
「マジかよマコちゃん。助けて春哉!!」
「僕には無理かなぁ。」
僕は、このままが一番なんだ。
***
「……ですから、お断りをしました。」
「バカなの?山口さんだよ?山口さん可愛いよ?」
俺、オンザ、布団。ナウ。
周りはクラスメイトの輪です。俺は勿論正座です。そろそろ痛い。
「聞いてんのかー!!」
「聞いてますー!!」
「本命誰だー!!」
「秘密!!」
こういう時、率先して俺をいじめるのは勿論賢悟だ。辰彦と、誠。それから春哉は、遠くから傍観。つうか、それパンフレットかよ。明日の回る順番か?ふざけんな。俺も混ぜろ。
「はぁ……君達、そろそろ寝ない?僕疲れたよ。」
「だってさぁ、春。本命気になるじゃん!!」
「……君、好きな子いたら辰彦に話す?」
「……はな、し、ま……すん……。」
「君達も。本命が誰であれ、とりあえず。今は先生の見回り対策をしようね。」
ナイス春哉。
皆「はーい。」とか、良い子の返事しやがってぇ。くそぉ。
「あっ、寝る前に!!」
賢悟が布団に入り、飛び起きた。
「うちの担任、結婚してるって回ってきた?」
――来たー。
――中学生の娘だってよ。
――え、マジで?
「でね、うちの班の女子とちょっと話したんだけどさ、俺達の学校ってクラス替え無いから担任も変わらないじゃん?だから、俺達あいつに3年世話になるわけだ。だからさ、何か買ってやらない?あと1年ちょっと、宜しくってさ。」
「良いね。」
「うん、良いな。」
「お、誠と春哉も賛成?じゃぁ、細かい事は朝。早起き頑張ろうぜ。」
やれやれ。よーやっと俺解放か。隣り春哉だから、ちょっと寝れるか不安だけど。
風呂?風呂は……うん。やばかった。つうか、正直ちょっとね。ちょっとだけ俺の息子がね、やんちゃになりかけたよね。大丈夫だった。と、思う。思うよ、ホントに。うん。
だってさ、真っ白い湯気の向こうに、真っ白い肌で色っぽい体の春哉がいるんだよ?そりゃもう、たまらんわぁってなるじゃん。なるじゃん。誠に背中叩かれて、びっくりして萎えたけど。めっちゃ感謝した。
「野郎共、ちゃんと寝てるのか?」
暗い室内に、担任の声が響いた。数人クスクス笑ってたり、返事したりしてるけど。
「うん、寝てるんだな。俺はもう酒盛りして寝るから、静かに騒げよ。」
何それ、担任の言葉かよ。静かに騒げって、無理だろ。
「じゃ、おやすみ。」
襖の閉まる音がして、1度シン――となった。俺はもう、瞼が重いっすわ。皆もなんだろうか。少しずつ笑い声と話し声が消えていって、完全に静かになった。俺ももう、限界だ。 あぁ、春哉が眠ってる。俺の方向いて。可愛い顔だ――。
***
――春哉の寝起き最悪だな。
――イケメンは得だな。
そんな声が、目覚ましの代わりになった。
「ぐっ――ふわぁあ……おはよーござーます。」
朝の挨拶が返ってきて、早速春哉の寝起きの話しになった。内緒にしてるわりには、こうしてボロ出るよね春哉君。
「知ってる。ホテルでもそーだったし……眠い。」
「俺が眠気を覚ましてやろう。」
そう言ったクラスメイトが見せてきた携帯の画面には、健やかに眠る春哉と誠。がっとクラスメイトと肩を組んで、隅っこで取引開始。
「……何が望みだ。」
「藤崎。」
「まだ無理だな。春哉をまだって感じだ。」
「くそっ、整形してくる!!」
「早まるなっ。まだ時間はある。ゆっくり行こうぜ。」
「……そうだな。では、これは事前契約として。」
「受け取るぞい。」
契約成立ですな。……プリントアウトして、部屋に隠しておこう。
さて、今日は荷物はこのままです。今夜も泊まって、明日の朝からバスと新幹線です。朝食を済ませて、わらわらと着替えをして、面白いパンツ穿いてる奴にどこに売ってるのか聞いて、賢悟の提案については女子と男子で1つずつになりました。女子はぬいぐるみだって。男子?今ねぇ、春哉に正座させられてる。春哉は俺達の前で、仁王立ち。
「何で俺まで。」
「それを言うなら、俺もだよ。」
誠と辰彦の声が聞える。でも、春哉はお構い無しに話し始めた。
「君達、浮かれるのは分かるけどね?さっさと着替えて、考えるって事分からない?集合時間まで30分ないんですけど?何で皆、下着1枚なのかな?」
――すいません。
――だって、なぁ?あのパンツは駄目だわ。
――なぁ。
うん、お説教だよね。いやぁ、あれはないわ。だって、社会の窓がマジで窓の絵になってんだもん。しかも、こう、開けてんのよ。女の人が。笑うしかないでしょ。ケツはケツで、ゴムの所にぶら下がってるんだよ、おっさんが。笑うってそりゃ。
「はいはい、パンツは後で。ちょっと面白かったけど、担任に贈り物するんでしょう?僕達は何にする?女子はぬいぐるみだって。」
挙手制で各々意見を出し合う。同じぬいぐるみ。食い物。筆記用具。服。俺的には、服に1票だな。
「……服か。服は良いね。パーカーあげたら、喜びそうだね。」
確かに。担任、基本パーカー着てるし。
賛成の声が多数上がって、だったら親子分お揃いでストラップも良いじゃん?って意見が出た。
「それは、女子と男子合わせてカンパにしようか。山口さんには、今ラインするから。君達は、即刻、着替えてね。」
お気づきでしょうが、俺達パンツ1枚です。辰彦と誠と春哉はとっくに着替えてます。春哉ったら、細身のシルエットがくそエロいっすね!!ポロシャツと、七分丈のシャツ。細身のジーンズ。腕には厚手のコートと、マフラー。夏生さんに借りたと言っていた、黒い鞄。しかも、ブーツですって!!この日の為に、夏生さんが買ってくれたんだって!!もう、その話しをしてる時の春哉の笑顔ったらないね!!可愛すぎか!!って位だったよ。
「キモ。」
「はっ……ニヤけてた?」
「思い切りな。」
誠もかっけー私服だな。お似合いだぜ、イケメン滅べ。俺?俺普通だよ。あ、でも、バイト代で新品買ったよ。
「女子達からOK出たよ。とりあえず、山口さんに1人100円ね。」
……結構良い物買えるんじゃないか?
皆元気に返事をして、集合時間まであと少し。俺達は早歩きで旅館の玄関まで向かった。途中、山口さんを見つけて皆100円を渡していた。
「おはよー。」
「あ、おはよう、龍君。」
「はい、100円。宜しく。」
「任せて。良いの買えると思うから。」
うん、普通だ。
「龍司、僕の分渡せない。」
「うぃっす。」
春哉に向かって手を差し出すと、春哉はそっと100円玉を俺の手の上に置いた。おれはそのまま、山口さんに渡す。
「うん、これで全員だよ。」
じゃぁ、後でね。そう言って、山口さんは足早に行ってしまった。
「龍司、歩いて。」
「あ、ごめん。」
背中に触れた春哉の手の平が、温かい。俺は、ちょっと切ない感傷を誤魔化したくて、わざとその手に寄り掛かりながら押してもらった。
春哉の批難の声に、俺は素直に笑えた。
***
約束とは言え、ウサギの耳を付けるのはどうかと思ったが評判は良かった。お世辞だとは、分かってはいるが。
「うん、俺のチョイス完璧!!」
何て笑ってる龍司を見たら、文句は言えなくなった。心から楽しんでいる様で、俺まで嬉しくなる。
「白いウサギの耳って。」
「俺、春哉は猫かと思ってた。」
「でも、春と誠に耳付けたら女子が歓喜するよね。」
最後に賢悟がそう言いながら、俺の姿を携帯で撮影している。俺はそれを好きにさせたまま、目の前に立った龍司を見た。
「何?」
「んー?売ってたからさ。うん、超絶可愛い。」
満面の笑みでそう言いながら、ウサギの耳に何かしている様で。賢悟は「春ちゃん可愛いー。」とか言いながら、撮影をしている。見せてと言えば、どうぞと見せてくれた。ウサギの耳を付けた自分。そのウサギの耳に、真赤なリボンがついていた。
「……まぁ、仕方ない。龍司の好きにしてよ。」
自分から言い出した約束だ。今日位は、好きにさせよう。
――って思った数時間前の自分を思い切り引っ叩いてやりたい!!
少し早めに昼ごはんを済ませようと、11時半頃に皆でレストランに入った。そこで、急に賢悟が背負っていた小さめのリュックから紙とペンを取り出し何かを書き付けた後、俺達に見せてきたのはアミダクジの縦線だった。
『帰ってからの話しのネタが欲しい。っていうか、弄りたい。心行くまで。』
そう言った賢悟は、目からキラキラと星を撒き散らしながらそう言った。常識の範囲内で、迷惑を掛けない要求でと5人で約束し、要求を答える時間の上限を30分と設定して皆で横線を加えていった。
名前を書いて、1人ずつ下の方を辿り隠しながら線を辿る。
『やべぇ、俺様王様。』
そう言ったのは、悪魔の微笑みを浮かべた賢悟だった。
その賢悟は、『じゃぁ、2番さんと4番さんは店出たら30分手ぇ繋いで歩いてね。』
4番と言われ、ドキリとした。
そして――。
「おーい、春哉ぁ。」
「っ、ごめん。何?」
店を出てから龍司と手を繋いで歩いている。
『はい、2番さん。』
『はーい。』
『……龍司かよ。誠じゃないのか。』
『暴君!!』
『じゃぁ、4番さーん。』
『……はい。』
『キタコレ!!』
しかも、普通に手を繋いだら違うと怒られ指を絡める様な、所謂恋人繋ぎにされてしまった。
……ホント、暴君だよ。
「だいじょぶ?」
「うん。」
時折引き止められるクラスメイト達の、シャッター音が無ければな。
「ほら、あと20分もあるよー。」
嬉々とした笑顔で携帯を構えている悪魔な賢悟が、俺達を手招いている。さっきは誠まで携帯を構えていて、誰に送るのかと分かりきった質問を思わずしてしまった。
『誰って……蓮だけど。』
分かってた。分かってたけど。
「次どこだっけ?」
「絶叫系。」
「おぉ。好き好きー。」
隣りで笑う龍司の笑顔は、冬でも暖かくなる笑顔だ。愛おしい。
「……春哉も、楽しそうで良かった。」
「え?」
「へへ。笑ってるからさぁ。」
だらしの無い笑顔で、俺の手を引く龍司も。馬鹿な提案をしてくる賢悟も、それを嗜めつつも受け入れてしまってる辰彦も。僕を分かってくれる誠も。大事にしたいな。
「楽しいよ。これ以外は。」
繋がれた手を上げると、龍司は「俺は嬉しいよ。」と言った。どういう意味か聞いても、龍司は笑うだけで早くと俺の手を引っ張るだけ。
「あんまり、考え込むなよ。」
「……誠。」
「楽しめ、今は。」
「……そうだね。」
今日は、精一杯楽しもう。
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