16 / 34
修学旅行。-2
「重い。」
「失礼だな!!」
気が付けば手を繋いでる事を忘れる位歩き回り、あっという間に30分は過ぎていた。手汗って言うよりも、心臓がやばかったです!!
さて。次に王様を引いたのは、辰彦。
『じゃぁ……5分ね。2番が、4番を背負う。』
めっちゃ良い奴。
『げ。俺、2番なんだど。』
『よし、しゃがむが良いマコちゃん。』
『……賢悟、後で覚えてろよ。振り落としてやる。』
『あ、すいません。痛いの嫌だ。』
とかやりとりしつつ、ちゃんとしゃがむんだから誠は優しいよな。まぁ、そこまでは良かったんだけど俺達の中で小柄と言っても賢悟だって男子高校生なわけで。165はあるわけで。誠はずっと重いとしか言わない。
「歩けねぇよ。」
「歩いて。」
「……お前、辰彦。今日はSだな。」
「王様だもん。」
一応、落ちても平気な様に俺と春哉が後ろに控えてるけどね。
よたよたと、誠が賢悟を背負って歩いてる。まぁ、うん。仕方ないよねぇ。
次にアトラクションに着く前には5分も過ぎ、並んでる間にも王様ゲームをする。ファストパス?取った取った。2時間後だから、別の並んでるの。
「っしゃ!!俺王様!!」
来たよ!!俺の時代!!
皆が番号の確認をするのを待つ間、指示を考えた。
「良いよ。」
春哉の声に、俺は指示を出した。
「じゃぁ、1番と2番が30分手繋ぎで。ってだけだとつまらんので、その2人は会話を耳元でして下さい。俺は、その様子を写メります。」
「マニアック。」
賢悟の言葉は無視です。
「はい、1ばーん。」
「またかよ。」
誠が1番。
「はい、2ばーん。」
「僕。」
春哉かよ!!イケメン同士かよ!!女子に売ってやる!!
「……これはこれで。」
賢悟がそう言うと、誠が無言で頭を叩いた。辰彦は、苦笑い。つうか、辰彦に指令いってないな。王様引いたくせに。
「ん。」
「うん。」
あー、そうなるぅ。普通に恋人繋ぎしちゃうんですねぇ。もう、腕くっつくくらい寄り添っちゃって。誠、覚えてろよ。俺見てニヤつきやがって。くそぅ。
「やだぁ、何してるの?」
何て、女子の声。振り向けば携帯を構える藤崎。めっちゃニヤニヤしてる。
「おぉ?藤崎じゃん。王様ゲームしながら、回ってるんだ。」
「え、何それ。楽しそう。」
とか言いつつ、カシャカシャ言ってる。
「他の女子は?」
「前の方だよ。私は、ゴミ捨てに行ってた。佐伯君、春君。写メ良い?」
藤崎の無意味な質問に、誠は春哉の耳元で何か囁いている。
「……え、何で内緒話?」
「あ、俺王様なんだけど。手繋いでる間は、耳元で会話って言ったの。」
「あー、成る程ぉ。」
「誠が、もう撮ってるじゃねぇか。拡散はするな。って言ってるよ。」
「あ、じゃぁ噂だけ流すね。」
また、誠が耳元で囁いている。
「王様ゲームしてるって事は言って良い。って。」
「了解。はー、眼福。イケメン揃うと、何か良いね。」
「腐女子。」
「違う。面食いと言って。」
それもどうかと思うぞ、藤崎。
俺の心の声は届かないまま、藤崎はそろそろと言って前の方に戻っていった。きっと、女子達にはすぐに伝播するだろう。
それにしても、ちょっとジェラシーですよ。王様と2番って言えば良かった。正直、まだ春哉の手の感触の残ってる。だって、恋人繋ぎだよ?ぎゅってしちゃったよ、俺。嬉しいとかほざいちゃったよ。
目の前で、仲良さそうに手を繋いで耳元で話し合う2人。自分で言っておいてなんだけど、イラっとする。
「なぁ、何話してんの?」
そう声を掛ければ、2人は振り返って誠の香水の話しをしていると春哉が答えた。
「あー、今日良い匂いだよね。」
そう言ったのは辰彦だ。
「だろ?貰いもん。」
「そうなの?」
「あぁ。」
そう言って目を細めた誠に、おや?と思った。
「……誰から?」
「蓮。試供品、貰ったんだと。でも、あいつこういうの嫌いらしい。」
あー、予想通りのお答えで。
「そうなんだ。意外。」
「同じ事言った。何か、鼻が痛くなるんだと。」
少しずつ列が進む中、30分は来た。
「何か、今更だけど耳元で話すって恥ずかしいね。」
何て、春哉が照れるもんだから俺達の方が照れてしまった。という事は、また耳元で話すという恥ずかしい要望が増えるという事だ。
「よし、次ね。」
ほら、ここにいるよ。悪戯っ子が。
またアミダクジを作って、王様を決める。
「お、俺だ。」
うわぁ、誠と言う完璧なる暴君来た。
意地悪そうな笑みを浮かべて、俺達を見る誠。何にしようか。何て、笑いながら見ている。
「……うん。3分ハグな。あー、4番1番。」
「なん、なんで僕ばっかり……。」
「何番?」
「1番。」
「4番は?」
「俺だよ。」
「……クマに襲われる春ちゃん。」
「え、酷い。」
とか言っても微笑むんだから、辰彦は本当に誰にでも優しい。デカイけど。マジでクマみたいだけど。だって、賢悟と30cm?近くは差があるもんだから、軽く親子だよね。
「はい。」
「……ん。」
「春哉、細いねぇ。」
「そうかな……?」
わー、微笑ましいー。そこ代わって欲しいー。とか思いつつ、残された俺達は写メ撮ってるけど。
そんなゲームをしつつ列に並んでいたら、あっという間に順番が来た。さっきやった王様ゲーム。今度の指令は簡単。王様が指名した人1人だけで、乗る。
はい、俺でした!!しかも、一番前とか言うね!!
「……雨合羽すげぇ……。」
「はい、荷物。」
「ありがとう。」
この寒空に、びっちゃびちゃにならずに済んだ。春哉の耳?あれは、アトラクション乗る時だけ取ってるよ。それ以外は、付けてくれてる。何だかんだ、約束はちゃんと守ってくれてる。
「はー、面白いねぇ。」
でも、背負うのはちょっと危ない。とか。
列の中は、手を繋ぐに近い事にしよう。とか。
ルールを追加しつつ、じゃぁ、次行ってみよう。と、パスを取っておいたアトラクションに向かう。今度は、賢悟と春哉が手を繋ぐ。王様は、誠だった。
慣れてきたのか、賢悟と春哉は普通に手を繋ぐしケラケラ笑ってるしで、ちょっと悔しいです。次!!俺来い!!
「お前かよ!!」
「残念だったな、俺で。」
なんて、耳元で良い声で囁かれてみてみ?
「めっちゃはずい!!」
でしょ?なんて笑う、王様春哉様。まじ恥ずかしい。楽しそうで何よりだよ!!その写メ後で夏生さんに送るらしく、賢悟が嬉しそうに俺と誠にポーズはこうだとか言ってくる。
列は、パスのお陰であっさり3分の2位まで。なので、多分乗る前には終わるだろうとそれまでこのまま。ふと、俺の携帯が鳴り見ると藤崎からのライン。
「藤崎達も、同じ事してるって。」
「いい暇潰しだよねぇ。」
「っ、あ?……一々良い声で言うなよ。誠が、他の男子混ぜようとか言ってる。俺は拒否!!多くなったら面倒そうだから!!」
「あー、それはあるねぇ。エンカウントしたらって事にする?」
「あ、良いかもね。」
「お、春が乗ってくれた。」
「珍しいね。」
「楽しいからかな。」
ほんわかと微笑んだ春哉に俺達は癒されつつ、アトラクションに乗り込んだ。
***
【指令】俺達5人組にエンカウントしたら、強制的に王様ゲームに参加させます。
***
「春哉って、指ほっせぇのなぁ。」
「そうかな?」
「うん。つうか、全体的に細い。食ってる?おじちゃん心配。」
「その癖喧嘩強いとか。何なの。」
「そ、その話し掘り返すのやめようよ。」
クラスメイトの男子が、本気の心配の目で俺を眺める。エンカウントした別の男子達。他の男子達も、最初はあからさまに嫌だという顔をしてたけど、やってみると面白いと言った。
ちなみに。王様は賢悟だ。
賢悟を入れて10人。指令は5番8番が1番挟んで手繋ぎ5分。2番が王様背負うが3分。俺は、1番だった。
「賢悟、暴れないで。」
「辰彦!!お前すげぇな!!久し振りに乗ったけど、めっちゃ高い!!」
うろうろ、ふらふら。園内を歩きながら、色々な所で写メを撮る。龍司が不服そうな表情をしているのが、よく分からない。
「あ、5分経ってた。」
賢悟の声で、それぞれ目的の場所に向かう為に解散しようか。となった時、声が聞えた。
「春ちゃん?」
「え?」
「……あ、やっぱり春ちゃんだ。」
にっこりと微笑むその顔で、あの日の事がフラッシュバックした。
初めての、相手。
「……ミサ?」
「そうだよ!!わー、覚えててくれたの?」
「あ……。」
俺は抱きついてきたミサを受け止め、後ろを向いた。誰だ。という視線に、どう説明しようか困ってしまった。
「えっと……中学の、同級生……。」
やっとそこまで言って、ぐっと眉を歪めたのは誠と龍司だった。
「友達?」
俺に抱きついたまま、ミサが斜め後ろにいる皆を見た。
「親友です!!」
「下僕だろ!!」
「クラスメイトです!!」
俺の事情を知らない奴まで、そんな答えを投げてきた。
「……楽しそうで良かった……。」
「ミサ、1人?」
「うん。列は、ナオト達が並んでくれてる。」
「……ミサ、お前まだ付き合ってんのか?」
思わず、素の口調が出てしまった。斜め後ろから変な空気を感じたが、俺は仕方ないと話しを続けた。
「うん。別れたり、付き合ったりだよ。」
「やめろって言っただろ。」
「うん……でも、好きなんだ。幼馴染だし、お互い理解し合えてるっていうか……切っても切れないんだよね。結局、別れて他と付き合っても戻っちゃうの。」
照れと、苦笑い。相変わらず、ミサはあいつに優しい。あいつも、ミサにだけは優しい。ミサと付き合い始めたから、あいつは俺に飽きた。いや、手を引いた。でも、その前に1度だけ。ミサは俺の為に、あいつの言う事を聞いた。
「でも、あいつは……。」
「良いの。私もね、春ちゃんだったら良いかなって思ってたから。」
だって、優しいから。そう言って、ミサは笑った。
あいつの要望で。1度だけ、俺はミサと寝た。他人が寝取られる感覚を知りたい。そんな事に、ミサは付き合った。前原も知らない、俺とあいつ――ナオトと、ミサの3人の秘密。
「そんな――。」
「良いんだって。結局は、私だけになったしね。そうしないと、バカだから分かんないんだよ。きっと。」
「……ミサ。俺、今凄く楽しいよ。クラスメイト達も、良い奴だし。前原と、仲直りもした。」
「本当?あれから、蓮には逢ってないの。ナオトも、逢ってないんだって。喧嘩したみたい。」
多分、夏休み前のあの時だろう。
「そう……ミサ、お前がいたから俺は解放されたんだ。ありがとな。ずっと、言いたかった。」
「でも、蓮とは……。」
「良いんだ。それは、もう。言ったろ?今、俺と前原友達になったんだ。」
「……うん。良かったぁ……。」
ぎゅう。と俺を抱き締めるミサに、俺は心を鷲掴みにされた気分になって思わず俺も抱き締め返した。あの頃は同じ位だったのに、今は俺の方が断然大きい。すっぽりと、ミサは俺の腕の中に入ってしまう。
この子は、あの頃から俺をどうにかしようとあいつに。ナオトに少しずつ諭す様に口を出していた。その結果があれで、凄く申し訳なかった。それでも、あの後もミサは俺に話し掛けてきた。ナオトは、それを黙認して俺から手を引いた。
「ミサ……あの、そろそろ後ろからの視線が痛いから、離れてくれないか?」
「あ、ごめーん。」
ケラケラ笑う様は、賢悟と少し似ている気がする。
「ん?ミサ、携帯鳴ってないか?」
「ホント?……あ、あー、やば。列進んでるっぽい。」
「……早く、行ってあげな。」
「……私は、前の春ちゃんも今の春ちゃんも良いと思うよ。」
「え?」
「バイバイ。また、いつかね。大丈夫、会ったって言わないから。」
ふわりと甘い香りと、頬に触れた柔らかい感触に一瞬思考が止まった。
「……ミサ!!」
「あははっ!!またねー!!」
ミサが走り去ると、俺の周りには恨めしそうな表情をしたクラスメイト達が立っていた。
帰りのバスでは、大変な事になりそうだ。
ともだちにシェアしよう!