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冬到来。

 あれから、本格的な冬に突入し、春哉様ご降臨の季節です。  俺は、ちょっとまともに春哉を見れないっていうか、保護者がクラス全員に増えて困ってます。  ***  「……ちょ、藤崎。どいてよ。」  「春が行ったらね。」  「藤崎さん、良いって。」  「ダメッ!!春が教室行ったら!!」  「おま、お前いつから春って呼んでんだよ!!」  「修学旅行の後。春公認ですっ。」  ぐっと親指を上げた藤崎に、俺の苛立ちマックスです。こいつ、男だったらぶん殴ってる!!  「この、やろ……。」  「藤崎さん、もう良いよ。」  「でもさぁ、前科者じゃん。」  「気にしてない。って言い方あれだけど、大丈夫だから。ちょっと、驚いただけ。」  「……そ?じゃぁ、良いよ。ごめん、龍司。」  「……おう。」  やけに素直に引き下がったな。  まぁ、かと言って2人っつうか、こうなるとこうなったで困るんだけどな!!夕べ、春哉で抜いた!!ごめん!!  「今日、蓮も来るって。」  「へぁっ!?あ、何て?」  「……放課後、蓮も来るって。」  「え、あいつ予備校は?」  「サボるってさ。というか、昨日誠の家に泊まったみたい。学校ごとサボって、花屋の手伝いしてたって。」  試験前。俺はマコママから休みを貰った。知り合いの親だと、行事とか把握してくれてるから交渉が楽だ。  「何それ。羨ましい。」  「見習っちゃ駄目だからね。」  「分かってるよ……。」  修学旅行の後、多分誠から聞いたんだろう。蓮からお怒りのラインが止まらなかった。もう、鳴るわ鳴るわ軽快な音が。弟にくそ怒られたよ。うるせぇって。  まぁ、事情を説明したら今度はミサとナオトって奴にぶち切れたみたいで、今度は誠から余計な事をってお怒りのラインが来たけど。いやぁ、あれ呼び出し食らうかと思った。マジ怖かった。つうか、誠なんか最終的に電話きたし。怖かった。声が、めっちゃ低くて。  さて、話しは違うけど修学旅行の後、席替えをしました。小憎たらしい賢悟のお陰で、俺の前の席が春哉様になりました。  『交換してあげようか?』  なんて、ニヤニヤしながらこそこそ交換してくれた。 嬉しかった。マジで。危うく、藤崎と山口さんの間に座る事になりそうだったし。  「龍司?」  「んぁ?」  「……行くよ?」  「あ、ごめん。」  まぁ、こんな感じです。はい。  ***  「……お前、進学する気あるのか?」  「夢は、お花屋さんになりたいです。」  「くっそ殴りたい。」  マンツーで、蓮のお世話になってます。つうか、結構マジな夢なんですけどね。  「やめて。マジで顔怖い。」  「お前、何でそんな授業聞かないの?」  「春哉の項で忙しぶっ!!……むー。」  「それ以上言ったら、顎外すからな。」  「……むん。」  マジで顎痛い。蓮怖い。  つうか、隣りできゃっきゃしながら勉強してる方に混ざりたい。  「隔離されてる。」  「……自分の胸に手ぇ当てて考えろ。」  「煩いやい。分かってるっつうの。ここ、わかんねぇ。」  「……俺が言うのもなんだけど、あいつ、ちょっと捻くれてんだろ。」  「主に、お前のせいでな。」  「ぐ……この式使え。」  「んー……つうか、ちょっとイラっとして暴走しただけだし。待ってるって、言ってくれたし。ごめんって謝ったし。」  じっと俺が問題を解くのを見てる蓮の視線が痛い。にゅっと、視界にシャーペンの先が入ってきて、丸書いて×書かれた。  「口に出せよ。」  「疲れた。」  「面倒臭がりが過ぎるぞ、お前と誠。」  「うるせぇ。」  消しゴムで丸ごと消して、計算をしなおした。今度は合っていたらしく、次。と言われた。  「つうか、待ってるって何?」  「トイレじゃやだって。」  「……へぇ。」  「え、何。今の間。」  「戸惑った。」  「まぁ、ぶっちゃけあの時俺もびびったけど。良い子過ぎて泣いちゃうよねぇ。」  「喋ってるから、間違うんだろ。」  「ぬ……ちょっと待てよ先生。」  そうそう、先生で思い出した。先生の嫁が、クラスに来たんだよ。放課後。ちょっと待てって担任が言って、俺達が教室で待ってたら嫁参上。  お土産ありがとうね。だって。皆に手作りクッキー配るし。また嫁が美人で。担任は担任で、あげたパーカー速攻着てたし。超目立つの。  「これでどーだ。」  「……合ってる。」  「っし。」  「じゃぁ、次。」  それにしても、本当にどうしよう。待ってるって言われてもさぁ……もう、冬休みだよ?期末だよ?また長期休暇で、その後俺達3年生だよ?忙しさが増すよ?どうすんのよ。  「……気ぃ抜いたら、またやりそう。」  「誠に殴ってもらえ。」  「死んじゃう。」  だってさ、項。超見えるの。後ろだから。真っ白くて、細くて、すらっとした項が。噛み付きたい衝動がもうね。  ……やばいな、本格的に。  「蓮。」  もやもや考えながら問題を解いていたら、すっと影が差して見上げれば誠がいた。  「あ?」  「泊めてくんない?」  「飯は?」  「お前ん家で食う。あと、金下ろしたい。」  「……金は、今行って来れば良いだろ。」  「生活費だし、後で良い。」  「なら、明日にしろよ……お前の両親は、本当に自由人だな。」  「親父の休みが不定期だから、仕方ない。ってわけで、龍司。バイトは暫く無いからな。帰ってきたら、母さんから連絡するって。」  「ツッコミどころが多すぎて受け止めきれない。分かった。」  「ツッコミどころなんて無いだろ。」  「あるよ!!会話が通い妻だよ!!」  「……ある意味そうだな。」  生々しい言葉が誠の口から出てきた。思わず蓮の腕を叩いた。  「いって、何でだよ。」  「生々しい関係性が嫌だ!!」  「……誠に言ってくれ。」  「何で俺だよ。事実だろ。」  そう言い捨て、颯爽と席に戻る誠様。  「……蓮、お前尻に敷かれてる系?」  何かを言い掛けて、蓮が俺から視線を外した。  「おい、今すげぇ生々しい事言い掛けたろ。」  「飲み込んだ。」  「偉いと思う。俺は、お前の味方になるよ。」  「そりゃどうも。」  どうやら、修学旅行で言っていた爛れた関係が続いているらしい。誠は待ち続け、蓮は悩み続けてる。そう考えると、俺の方がましか。だって、俺の覚悟と俺達のタイミングが分かれば良いんだもんね。勢いとはいえ、告っちゃったし。  「難しいよなぁ。」  「……男同士だからな。」  そんなしみじみとした言葉を交わして、俺は問題に集中した。赤点は、免れたい。冬休み中、毎日補習とかやってらんねぇよ。  ***  まだ11月だと言うのに、クリスマスに浮かれる街中……期末です。蓮様、オラに力を。  「……龍司?」  「今回良かったかもしらん……。」  「それで、何で机に突っ伏してるの?」  「春哉を直視出来ないかいでっ!!」  突っ伏して額を机にくっ付けていたら、後頭部にチョップが落ちてきた。マジで痛い。  「何で!?」  「君、最近ダダ漏れだよ。」  「開き直りは得意技。」  今日は、お勉強会は無しです。俺と、春哉以外は用があるそうだ。家の用事だったり、バイトだったり。蓮は、予備校だけど。  え?何で一緒にいるのって?同じバスだし、勉強教わるからね。ちょっと避けようかと思ってたけど、春哉が傍に来るから開き直った。良いじゃん。男同士。好きなんだから。  だから、今日は俺ん家で勉強。心ちゃん?社長の奥さんが迎えに行ってるって。夏休み前と一緒。まぁ、うちの母ちゃんが連れて来いって煩かったから、冬休み入ったらって約束はした。うん。  「日誌、書くから待って。」  「うん。」  部活も委員会も無い。あったのは、春哉の日直位。日誌を書く春哉の背中を眺めながら、もそもそと筆記用具の類を仕舞う。教科書は、明日の分が鞄の中にあるよ。あとはロッカー。  髪が流れて見えた項が、夕日でオレンジになってる。  「……髪、伸びたね。」  「そう、かもね。」  「切らないの?」  「うーん……夏生位にしようかなって。」  「あー、あれ?えー、染めるの?」  「染めないよ。伸ばしても、もう少しだけだよ。」  「何で?」  「……中学の頃の髪型、気に入ってたから。戻そうかなって。誠みたいな感じだったんだよ。」  目を瞑って、誠の髪型を春哉に合成する。イケメンって、何やっても似合うな。肩に付くか付かないか位で、ワックスでさらっと流してる感じ?うん、イケメンが揃ってる。  「中学、荒れてた?」  「いや。ただ、夏生が同じにしようって言っただけ……転校してから、今の髪型にしたんだけど……もう、良いかなって。」  「……そっか。」  「何?」  風に靡いて、揺れる黒髪が好きだとか。  さらさら流れて、キラキラしてるのが好きとか。  口に出したら、止めてくれるんだろうか。でも、それは俺のワガママになるんだろうな。せっかく、春哉が髪型変えようとしてるのに。しかも、自主的に。  「……イケメンって、得だなぁって。」  「褒めても何も出ないよ。」  そうは言いつつ、おれの方を向いて笑ってくれるんだから、俺からしたらご褒美以外の何物でもない。  「……春哉が笑ってくれんなら、それで良い。」  あ、耳赤い。照れてる。  「君、本当に開き直ったね。」  「まぁね。」  「日誌、終わったよ。」  「うん。」  ガタガタと椅子を引いて、一緒に教室を出る。校内に生徒は殆どいない。同じ様に日誌を書いてる生徒位しかいないんだろう。静かだ。あと、廊下クソ寒い。  「さみぃ。」  「冬だからね。」  冬休みも、いつものメンバーで遊ぼうかとか。クリスマスはクラスで何かやりたいとか。初詣行こうとか。今から色々計画してる。多分、3年になる前の思い出作り。俺は、未だに進路を迷ってる。迷ってるというか、短期が専門か決めかねてる。  「春哉。進路決めた?」  「就職。」  「そっか。」  「……君は?」  「うーん……花屋がさ、結構楽しいんだよね。多分、接客が向いてるってマコママに言われた。あと、花って色々あるじゃん?花束とか、作れる様になったし。とにかく、楽しいんだよね。」  「暇潰しで始めたくせにね。」  「本当は、春哉が花が好きって言ってたから始めた。」  「……は?」  あ、やべ。外見ながら歩いてたら、言っちゃった。振り向けねぇ。  「は、春哉が……花が好きって言ってたの、思い出して。その、いつか、俺が作った花束を貰って欲しいなとか、そういうの思ったり、なんか、しちゃったり、してぇへへ……。」  そう言いながら、ゆっくりと春哉の顔を見た。  廊下のど真ん中。俺は窓際で、窓枠に手を付いたまま振り返った。  真っ赤な顔で、日誌を持ってない手の甲で口元とか隠していて。日誌は胸に抱いてすげぇ力入ってるのか、血管浮いてるし。何これ、笑い堪えてるって言うよりガチで恥ずかしいって顔じゃん。  「……ば、馬鹿かよ!!」  「バカだよ!!うるせぇ!!仕方ねぇだろ!!」  「顔真っ赤にして言うな!!」  「春哉も真っ赤だろうが!!」  「お前が恥ずかしい事言うから!!」  「はっ、はず、ちょっとぼーっとしてたら本音が出たんだよ!!素直に受け取れ!!」  「お前ら!!喧嘩は余所でやれ!!」  「っ!?……あ、パーカー。」  「先生だ。パーカーは俺の名前じゃねぇ、トレードマークだ。」  「先生……。」  「日誌遅いなぁって思ったら、お前ら廊下で喧嘩すんなよ。」  呆れた様な顔で、パーカーもとい担任が立っていた。  「だって春哉が!!」  「なっ、龍司だろ!!」  「やーめーろーって!!ほら、日誌寄越せ。」  「すいませんでした。」  「はい、じゃぁ回れ右して帰れ。」  「ぐ……さよなら先生。」  「失礼します。」  「はい、さようなら。また、明日な。」  俺達の頭に乱暴に手の平が乗り、日誌を丸めて手の平叩きながら担任は行ってしまった。  「……帰ろうか。」  「……春哉。」  「聞かない。やめろ、本当に。」  「待ってるって言った。」  「言った、けど……せめて、人がいるいないを確認してくれ。」  はい、イラっとしましたー。何かちょっと、捻くれてる春哉にイラっとしましたー。待ってるって言ったくせに、いざとなったら避ける春哉にイラっとしましたー。  俺達は下駄箱で靴を履き替えて、バス停に向かう。隣りで座ってるうちに、がしっと腕を掴んで春哉を捕獲。  「ちょっと。」  「降りる。」  「え?」  商店街まで下りたバスから、バイト先まで春哉を連れて行く。仕方ないから、電車です。勿論、掴んだままチャージさせて乗り込みました。  「離せ。」  無視します。  無理矢理外そうとしてるけど、二の腕を掴んでいるからか上手く力が入っていない。  「……降りるぞ。」  春哉は、諦めてくれた。  ***  龍司に腕を掴まれたまま、誠のお母さんの店にまで連れて来られた。衆目に晒されているのと、掴まれた部分が熱いのとでとてつもなく恥ずかしい。  「こんちゃーっす。」  「あら、2人共。テスト期間でしょう?どうしたの?」  店先で掃除をしていた誠のお母さん。平日の昼は、来客が少ないからと1人でやっているらしい。  龍司は俺に鞄を渡してきて、そこにいろ。と言った。そのまま誠のお母さんに近寄り、何かを話している。逃げたくても、龍司の荷物があるから逃げられない。  話しが終わった様で、誠のお母さんが、一緒にストーブに当たっていようと俺の手を入り口の傍まで引いた。多分、掃除の間だけ出しているんだろう。小さいストーブが店先に、邪魔にならない様に置いてある。  「……可愛いストーブですね。」  「でしょ?パパからのお誕生日プレゼントなの。」  焦げ茶色の小さなストーブ。薪ストーブの様な形をしているが、普通の灯油ストーブらしい。  「……龍司は、何て言ったんですか?」  俺の質問には答えてくれず、何故か誠の話しをし始めた。  「マコちゃん、蓮君が好きみたいなんだけど……あんな感じでしょう?この先どうするんだか心配で。」  「……よく、分かりましたね。」  「マコちゃんのママだもの。自分の息子の事は、分かってるつもりよ?でも、彼は分かりやすくて良いわねぇ。」  彼。そう言って、龍司に視線をやる。  「そうなんですか?」  「えぇ。春哉君を見る目が、ちょっと違うもの。」  「……気付きませんでした。」  「見られてる側は、分からないわよ。多分、慣れちゃって。」  にっこりと微笑む誠のお母さんは、少し幼く見える。元々若く見えるせいだろう。  「マコちゃんも、あれだけ素直になれば良いのにねぇ。」  「そうですね。」  「蓮君も、悩んでるというか……気になって仕方ないわ。あの2人。」  「親公認ですか。」  「あ、パパは知らないのよ?さすがに恋愛には疎い……やだ、パパに似たのかしら?そういう所。やぁねぇ……あれだけくっついているのにねぇ。」  手の平を口元に当てて、くすくす笑っている。大部分の事に気付いているんだろう。彼女を見つめて、黙っていたら再び話し始めた。  「一度ね、パパが急に帰って来た時があってね?その時、マコちゃんったら蓮君連れて帰ってきて。首にね?キスマーク付けてるもんだから、蓮君に注意してあげたの。そしたら、あの子真っ赤になっちゃって。」  「あいつが?」  「えぇ。パパったら、全然気付かないの。もうおかしくって。蓮君に絆創膏渡して、マコちゃんに渡すよう言ってあげたの。面白かったわ。」  誠と蓮の話しをする彼女は、本当に楽しそうで幸せそうで。もし、俺の母が生きていたら、こうして受け入れてくれていたのだろうかと、考えずにはいられない。夏生は、受け入れてくれているが。  「男同士には、反対しないんですか?」  「私は、しないわ。息子が幸せなら、それで良いの。パパは……きっと、悲しむわね。孫が見れないって。でも、時代よね。そういう方達も受け入れられ始めてる。養子を引き取ったりする人達もいる。私は、どちらでも良いの。今のマコちゃん、楽しそうだもの。」  「……うちには、兄と姪しかいません。」  「……知ってるわ。保護者会でたまに会うから。」  「母が生きていたら、貴女の様に受け入れてくれたでしょうか。」  「春哉君が優しい様に、お母様も優しかったはずよ。お母さんっていうのは、子供を想って生きて死んでいくのよ。」  「……はい。」  「大丈夫よ。私も、お兄様も、マコちゃんも、皆春哉君の味方よ。」  「ありがとうございます……。」  寒空のした、誠のお母さんは笑顔で言ってくれた。そのすぐ後に、龍司の高らかな声がした。  「出来た!!」  2人で龍司の方を見るが、俺にはまだ見せたくないらしい。さっと背中に隠してしまい、誠のお母さんを呼んだ。  「ちょっと、待っててね。」  「はい。」  2人の背中が見える。ギリギリまで、見せないつもりらしい。何かごそごそとしてから、2人揃って俺の方を向いた。龍司が手招くので、店の中に入る。  「……やる。」  ばさっと、俺の胸に押し付けたのは色とりどりのスプレーマムの花束。花言葉は、【あなたを愛する】。  胸に花束を押し付けたまま、龍司が口を開いた。真っ直ぐ、俺を見ながら。  「その……入学してからずっと、隣りにいて気付くのが遅くなった。っつうか、誠が気付かせてくれたんだけど……あー、あれだ。すっげぇ好きです。中学の事とか、家の事とか、嫌な事とか全部俺が……ん?俺とか誠達とかで全部消してやるし、俺が守ってやるから、これからも、その、傍にいて、俺とか皆に笑っていて下さい。あの、だから……俺の恋人になって下さい。」  俺の中にしまった箱が、消えてしまった。一瞬で、消えてしまった。  嫌な事も、良い事も。全て、新しい綺麗な箱に仕舞われていく。色とりどりの、スプレーマムが降ってくる。黒いものが、流れていく。  「……あら。」  「えっ、ちょっ、ここで泣く!?」  「あり、がとう……。」  「……うん。」  俺は一輪、黄色いスプレーマムを選んで龍司の耳に引っ掛けた。やっぱり、龍司には明るい色が合う。  「……ありがとう。傍にいてあげるよ。」  「まぁ。」  「ぐふっ……やべぇ、マコママ。鼻血出そう。」  「分かるわ。でも、落ち着きなさい。お店だから。」  そんな2人のやりとりに、何がどうしたのか分からないまま俺は胸に抱いた花束を抱き締めた。  ***  ありがとう。傍にいてあげるよ。  そう言って、花束を抱えた春哉が笑った。これ以上ないってくらい、優しくてキレイだった。鼻血がね、出るかと思ったよね。  まぁ、その後だからかね。  電車の中なんだけど、めっちゃ気まずい。気まずいっていうか、俺の家行くんだけど緊張がやばい。一言もあれから喋ってないし、誠からラインがすげぇ。鳴り止まない。何か、電話しろってスタンプすげぇ来る。マコママ、速攻誠に話してるし。つうか、誠バイトどうしたんだよこいつ。  花?あぁ、春哉が耳に掛けてくれたやつ?そのまんまだよ、嬉しくてな!!電車の中だろうと、春哉が花束持っていようと、俺は気にしないね!!バカだと?バカだよ!!つうか、これくれたって事はあれだよな!!良いように取っていんだよな!!傍にいてあげるよって、そういう意味だよな!!  「あー、俺ん家。どうする?」  「……龍司が留年したら、困る。」  ちらっと、隣りに座る春哉を見る。ぎゅっと花束抱える感じ、くそ可愛いな。  「ですね。俺も困るわ。」  「目、赤い?」  「……ちょっとな。」  「そっか。君のお母さんに、何て言われるかな。」  「とりあえず、俺が殴られんじゃね?」  「そこは、止めてあげるよ。」  「頼むわ。」  あんまり人がいない車内で、俺達は隣同士で座ってる。そのまま、前を向いて窓の向こうを眺めながら会話してるんだけど……まー、この空気。むず痒いっ!!  最寄で降りて、あとは歩き。春哉はずっと花束抱えてて、俺は耳に一輪引っ掛かってて。傍から見たら、バカップルにでも見えるんかね。通りすがりの人が、すっげぇ見てくる。  別に良い。良いよ。俺、今、最高潮にご機嫌だから。  「ただいま。」  ……あれ?  「いないの?」  「多分?とりあえず、上がれよ。」  「うん。お邪魔します。」  2人でそのままリビングに行く。寒い。買い物かなとか考えていたら、テーブルの上にメモがあった。  「……何て?」  「友達とセール行ってくるって。鍋につゆと、冷蔵庫に麺があるから温めて食べろって。」  「そう。」  いつも通り、俺の部屋に荷物を置いて。手を洗ってリビングに行く。耳に引っ掛けてある花は、花瓶なんて上等な物は無いのでつるっとしたガラスのコップに差しておく。  「……鍋、僕がやろうか?」  「うん。俺、ちょっと充電してくる。」  「うん。」  ついでに、コップに差した花も持っていく。携帯?落ちたよ、主に誠と蓮のせいでな。  自分の部屋にある充電器に繋いで、電源を点ける。誠と蓮は、後で電話しろ。で終わってた。他には1件、藤崎からラインが入っていた。  「……マジか。」  内容は、SNSに俺と春哉らしき事が書いてあるという事。腐女子、やる事はやいな。しかも、どうやら簡単なマンガになってるそうで、特徴が俺と春哉だったからラインをしたそうだ。ご丁寧にどの人のこれだまで。  「……あれ?あー、パスワードなんだっけな。」  あまり使わないSNS。苦労してパスワードを思い出し、例のやつを探す。  「あ、あー……俺だわ。」  茶髪と黒髪。黒髪ストレートが花束を持っていて、茶髪の癖っ毛は花束と同じ花を耳に引っ掛けてる。男子高校生。あー、でも情報そん位か。顔っつか、のっぺらぼうだし。よく分かったな、藤崎。そのまま送れば、タイミング的に考えた事と。見た目らしい。  【そんなん、他にもいるだろ。】  そう返せば、【でも、何だろう……女の勘?ってやつかな。】とか、曖昧な返事がきた。  俺は諦めて、藤崎に俺と春哉だけど言いふらすのやめてと釘を打っておいた。  【おっけ。で、上手く行ったの?】  【まぁ、多分な。】  【へぇ、ほー、そうなんだぁ。】  ニヤついた兎のスタンプ付きで返ってきた。  【んだよ。】  【別にぃ?良かったじゃん。おめー。】  【……春哉は、俺のだからな。】  【取らないよ。そこまで嫌な女じゃないし。分かってるでしょ?1年から一緒なんだから。】  【まぁな。】  【それに、もう私からしたら2人はもう2コ1なんだよね。セットっていうかさ。】  【セットねぇ。】  【だから、違和感無いんだよね。あー、そーなんだー。みたいな。あっさり受け入れちゃった。】  また、兎。親指立てて、笑ってる。俺は、持ってるやつでお礼を言った。  【春の事、高校の春しか知らないけど、いつか話してくれるよね?】  【多分な。】  【なら、良いや。クリスマス、賢ちゃんが本気で何かやるつもりらしいから空けといてね。】  【おけ。】  【じゃ、また明日。】  【おー、明日な。】  「……賢悟、あいつの行動力すげぇ。」  ノックが3回。それから、春哉の声。  「龍司?」  開けっ放しの扉の脇から、顔を出した春哉。  「……これ、見てみ。」  手招いて、さっきのSNSの画像を見せる。  「何……え。」  「まぁ、顔とか学校とか路線とか?全部無いから、大丈夫みたいだけど。藤崎にはバレてた。」  「藤崎さん?何で?」  「女の勘だって。」  「……え、怖い。」  「な。昼飯出来た?」  「うん。あ、あと、冷蔵庫漁っちゃった。」  「あー、別に良いよ。」  あの修学旅行の取引、ちょっと進めてみようかね。  だって、春哉俺のだし。  とか、ジコチューな事考えるの、春哉嫌うんだろうな。  「龍司?」  「……お前は、優しいもんな。」  「は?」  「腹減った。」  「あぁ、うん?」  こういうのも、独占欲と言うのだろうか。

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