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冬休みとクリスマス。
「え。」
「俺の勘違いだったら申し訳ないんだけど、修学旅行の後のお前。雰囲気変わったよな。吹っ切れたのか?」
テスト期間が終わり、12月。他校より少し早めの冬休み前。
「……まぁ、はい。色々、ありました。」
その放課後。帰りのHRが終わり、先生に職員室に寄る様に言われた。行ってみれば進路相談室に通され、この話し。
本当は、誠の家に行って皆で冬休みの予定をと言っていたが、先に帰ってもらえば良かった。まだ、待ってくれているんだろうか。
「だから、冬休み明けの三者面談な。お兄さんと姪っ子、連れて来たらどうだ?」
「……まだ、クラスの皆に話してません。」
「そっか。でも、まだって事は話す気はある感じか?」
「はい。というよりも、気付かれ始めてる様です。何となく、みたいですけど。山口さんには、話しました。流れで、ですけど。」
「山口か……まぁ、口堅いから大丈夫だろ。それに、あのギュウギュウ詰めになってるの見たら、心配して損した気分になるけど。」
先生が指差した方を見れば、扉の小窓から誠達が覗いていた。
「……あの。」
「ん?」
「先生が僕なら、どうしていましたか?」
「んー……聞かれたら、言うかな。」
先生は、僕の中学の頃の話しは知らない。
ただ、入学式の後。呼ばれて、兄と姪を紹介してこれからの事を相談しただけだ。
俺が黙っていたら、先生は話しを続けた。
「お前にとっては、伊崎か?最初の友達ってのは。」
「そう、ですね。」
「なら、伊崎から家の事を聞かれない限り言わないな。」
「……そうですか。」
「でも、俺は良いクラスを持ったと思うよ。小さい学校だし、最初は小さいからこそ3年ぶっ通しで担任って聞いて、面倒事が多いかと思ってたけど。お前ら良い子だったわ。」
にっと笑った先生は、雰囲気が少しだけ龍司に似ていると感じた。
「だからさ、連れて来いよ。イケメン兄弟、自慢してやれ。」
「……はい。」
夏生は、きっと喜ぶだろう。
***
「え、夏生さんに言ったの?」
「言ったというか、バレた?花束、持ってたし。」
改めて、誠の家で報告会。相変わらず、我が物顔で蓮がベッドに陣取って雑誌読んでるけど。
「あー、そうね。」
「心ちゃんは?」
「言ってない。心に言って、学校でどうこうなるのは避けたいから。」
「まぁ、それはそうだな。」
そう、心ちゃん。あの日、夏生さんから連絡が直接来た。心には言わない。バレる様な事も、しない。そう約束させられ、春哉を宜しくと言われてしまった。まぁ、もの凄く嫌そうな声してたけど。
「……やめっ!!暗い話しやめよう!!クリスマスだよ!!年末だよ!!そっち決めよう!!」
賢悟がそう叫びながら立ち上がり、ベッドに陣取っていた蓮を引きずり下ろそうとしている。
「痛いって。」
「蓮も参加決定してるから。冬休みの予定、出せ。今すぐ。」
「は?あー……ん?昨日、お前に送っただろ?」
そこで誠が来るのか。マジで妻だな。
「え?……あぁ、昨日聞いたんだった。ほら、こいつの暇な日について。」
「ありがとー。」
誠の携帯を受け取った賢悟の顔が、みるみる強張っていく。それから、その顔のまま俺に誠の携帯を差し出してきた。
「へ?」
「見て。俺はもう、耐え切れない。」
よよよ。と、ベッドに崩れ落ちた賢悟。俺は、誠の携帯画面を見て納得した。
「……頭おかしい。」
「進学校なんだから、普通だろ。」
誠との会話の中で、【三が日以外予備校。】と蓮が送ってきている。【さすがだな。】と誠が返せば、【進学校だし、3年だしな。追い込み掛けてんだろ。】なんて、人事のような返事。しかも、教科によっては学校に補習を受けに行くとかなんとか。
「普通じゃない!!無理!!俺には無理!!」
「ねっ、ねっ。無理だよね!!」
「進学校っつっても、あるだろ!?休み位!!」
「でも、申請しちまったし。仕方ないだろ。」
「申請かよ!!」
「龍司、賢悟。ここ人様の家だから。」
穏やかな春哉の声で、俺と賢悟は大人しく座った。つうか、俺立ってた。驚きすぎて。
いや、でもさ。冬休みなのに、わざわざ勉強する?そりゃ、2年だし。もうすぐ3年だし?分かる。分かるけどさぁ。
「だってさぁ、せっかくこうして集まれるようになったんだから、もうちょっと楽しみたいじゃん。」
……あれ?俺、何か変な事言った?めっちゃ静かになったんだけど。
「……今、確信した。龍司、お前人タラシだな。」
「は?何を言ってんですか、マコちゃん。」
「何も考えて無いだけだよ。」
「え、春哉のが酷いってどういう事?」
誠と春哉からの攻撃に、ちょっとショックです。
そんな俺に向かって、蓮が口を開いた。
「……申請つっても、予備校も行ってるしクラスも特進に入れるから、誘ってくれれば行くけど。って、締めてるはずだが。」
「……え、自慢?デレ?どっち?」
「自慢。」
「俺やっぱ蓮ちゃん嫌い!!」
部屋の中に、笑い声が満ちていく。
そうそう、やっぱりこういう雰囲気が一番良いよな。
***
「……寒い。」
「はい。」
「……え、嫌だ。」
「何でぇ。」
「人前では、嫌だ。」
とか言いながら、マフラーに顔埋めちゃう感じ?くっそ可愛いね。言っとくけど、プラトニックなお付き合いですよ!!
誠の家の帰り道。散歩がてら、疲れるまで歩いてみようって事になった。まぁ、多分一駅分位は歩いたかな。で、今バス停でバス待ち。人なんていないのにね。え、電車じゃないのかって?それは、バイト先からね。誠の家から通りに出ると、バス通ってるんだよね。ややこしいね。俺も、最初に誠の家行った時すげぇ迷ったもん。
「……でも、寒いんでしょ?」
「寒い。」
寒がりで、乾燥肌とか。可愛い要素ばっか見つかる今日この頃です。
「ハグする?」
「……馬鹿なの?」
「心配そうに見ないで、辛い。」
携帯で時間を確認すれば、あと2分位。もうそろそろ来るかな。
「……春哉。」
「うん?」
「……変なかっ!!叩いた!!」
ほっぺにちょこっとくっつけただけなのに!!平手が飛んできた!!顔真っ赤にしてさぁ、何だろう。春哉が天使に見えてきた。心ちゃんと並べたら、俺、天国に連れて行かれるかもしれない。つうか、行っても良いかも。
むっつりとしてしまった春哉と、ようやく来たバスに乗り込む。いつも通り、窓際に春哉が座ってくれるから、あぁ座って良いんだ。って思って、頬が緩んだ。……はっ、これがツンデレか?
隣りに座って、俺は足元の暖かさにぼんやりとする。ふと、ひやりとした手が触れた。小指にだけど。
見れば自分の太腿に乗ってる俺の手の小指に、春哉の指先が触れていた。
あぁ、きっと。俺も、春哉も顔真っ赤だろうな。
そう思って、顔は見ないで。春哉の手を握って、2人の間に隠した。少しだけ動いて、膝がぶつかったけど気にしなかった。春哉も、何も言わなかった。
***
花束を持って帰った日。心と一緒に帰ってきた夏生は、花瓶に生けたそれを見て、俺を見て。そして、何も言わなかった。ただ、心は綺麗だと喜んでいた。
心を寝かしつけて、夏生の夕飯を用意をしていたら、やっぱり夏生はビールを片手に台所へとやってきた。
「あれ、誰から?」
「……龍司。」
「何て花?」
「スプレーマム。菊の一種だよ。」
「……お前なら、花言葉も知ってんだろ?」
「……私は、アナタを愛する。」
「あいつ、見た目と違ってロマンチストだな。」
「……そうだね。」
「それで?お前は?」
「一輪だけ、返した。」
「あー、やだやだ。青春ですねぇ。眩しいねぇ。」
そう言いながらビールを煽った。それから、頭に手が乗った。
「……今、楽しいのか?」
「うん。凄く、楽しい。」
「俺もさ、定時制とか勉強とか嫌だなって思ってたけど、学校って楽しいな。」
「うん。」
それでも、俺は不安だ。
今からも、この先高校を卒業したその先も。もっと、もっと、ずっと先まで。
***
はい。来ました、冬休み前の三者面談。俺の進路?あぁ、専門にした。学校によっては、フラワーアレンジとかの授業もあるんだって。だから、専門。短期だと、植物の専門的なことしかやらないらしいんだよね。まぁ、俺が調べただけなんだけど。それに、短期に入れるほどの脳みそなのかっつうね。マコママの所でバイトも続けたいしさ。
母親と先生の挨拶も済んで、帰ろうかという時。俺はちょっと、春哉が心配になってきた。
「どうしたの?」
「……俺、1人で帰っても良い?」
「良いけど、どうかしたの?」
「春哉が、夏生さんと心ちゃん連れてくるんだ。心配でさ。」
「あら、そうなの?なら、夏生さんにご挨拶しないと。」
「何で?」
「だって、家族になるんでしょう?」
我が母親ながら、この思考回路。単純過ぎて引くわぁ。
「あ、来たわね。」
「え?」
窓の外を眺める母親が、そこだと指を差す。確かに、作業着とデカイ荷物を持った人と小さな女の子が2人手を繋いで歩いている。
春哉は、俺の次。最終日の、最後。多分、先生が気を使ったんだろう。人気はあまりないが、誠と賢悟と辰彦は残って下駄箱にいる。
あ、ほら。心ちゃんが走り出した。
「龍司。」
「何?」
「春哉君、難しい子ね。」
「……うん。だから、大事にしたい。」
「そう、あんたたまに暴走するから心配ねぇ。」
「しない。もう、しない。」
あぁ、笑ってる。心ちゃんを、多分辰彦が肩車してるんだろう。
「……俺、バイトしながら専門通うつもり。マコママも、時間調整してくれるって。」
「そう。」
「だから、もうちょっと家にいるけど。」
「息子でしょ、気にしないの。」
「うん。ごめん。」
窓の外。春哉の姿は、もうなかった。
***
「就職、で良いんだな。」
「はい。兄の職場で、事務でもと言ってくれてます。」
「そうか。まぁ、資格とか取るって手もあるな。」
「はい。」
「お兄さんは、それで良いんですか?」
「まぁ、こいつ見た目の割りに頑固なんで仕方ないっすよね。俺的には、大学行って欲しいんすけど。勿体ないじゃないっすか。」
「確かに。成績から見ると、奨学金は確実に貰えます。ですが、結局は返さないといけません。弟さんは、どうやらそれが嫌みたいで。」
「それは、知ってます……それに、こいつ優しいっすから。心の為にもって思ってるみたいで。いらねぇって言ったんすけどね……。」
「……お兄さん、もう弟さんは大人になろうとしている段階です。というか、今もしっかりしていて俺も凄く助かってます。貴方は、弟さんをここまで育てたんです。もうちょっと、頼っても良いと思いますよ。」
「先生……。」
「それに、聞けば職場の方々も良くしてくれてるそうですね。大丈夫です。3人きりの家族でも、頼って良いと言ってくれているのなら。少しずつ、他に頼ってみましょう。」
「……はい。ありがとう、ございます……。」
「委員長も、それで良いな?」
「はい。」
「お父さん?だいじょうぶ?」
「うん。だいじょぶ、だよ……。」
***
三者面談は、何事も無く終わった。まぁ、あったとしたら――。
「心は……クッキーとか、アイスが好きだよ。夏生は、お酒かな。ビールとかチューハイとかが好きみたい。」
クラス全員が、春哉に両親がいない事と、兄と姪の3人暮らしだという事を知った事だろう。
何となく、俺達だけの秘密でもあったから……いや、少し前に進んだって事だから、喜ばしい事なんだ。うん。
「こらー、お前ら席つけー。」
さて、今日は終業式でした。これから、帰りのHRです。いやぁ、1年あっという間だったわぁ。特に、今年は無茶苦茶濃かったわ。色んな事ありすぎて、爆発すんじゃねぇの?って位、パンパンに詰め込まれてた1年だったな。うん。
さて、心ちゃん。誕生日が近いです。クリスマスも相まって、誠が粋な提案をしました。
『心の誕生日なら、俺の家でやれば良い。ついでに泊まっていけ。母親が張り切ってた。』
なので、クラス全員でのクリスマスパーティーは明日の23日。土曜日になった。
問題は、この先だ。
夏生さん。まさかの地方出張。
『……地方に、泊り込み……。』
『……ふはっ。』
『おぅ、龍司。てめぇ、うちの春に手ぇ出したら承知しねぇからな。』
『し、しませんよぉ。』
なんて。わざわざ面談最終日の夜に夏生さんから電話が来た時は、びっくりした。しかも、面談終わって直ぐ行ったらしい。あのデカイ荷物、着替えとか入ってたんだって。
だから、何日か春哉と心ちゃんは泊まりが続くらしい。貴重品は、金庫に入れて社長宅に預けたんだって。あと、分散した分は春哉が持ち歩くって。恐ろしい事この上ねぇよな。
しかもさ、夏生さんが言ってたんだけど、現場主義の社長なんだって。だから、奥さん1人ぼっちになるんだって。可哀想じゃん?俺、誘えなかったよねぇ。23日泊まれば?って。
とにかく、そのまま24日は社長宅で過ごして25日に誠の家で泊まりです。心ちゃんの誕生日の日にち?過ぎてるよ。12月15日なんだって。
ちなみに、夏生さんの帰宅は26日。もうね、掛ける言葉が無かった。
「起立。」
はっ、ぼけっとしてたら終わってた。
今日は、普通に帰ります。勿論、心ちゃんのお迎えも行きます。
すれ違うクラスメイトや同級生達と挨拶を交わしながら、2人で下駄箱まで行く。付かず離れず。下らない話しをしながら一緒に歩く。
「あれ?」
「あ。」
「よぉ。」
「蓮じゃん。誠待ち?」
「そう。」
この寒空の下、正門にいたのは蓮。一足先に学校が終わったのか、私服で手にはデカイ荷物もある。そういえば、また誠の家に泊まるとか言ってたな。こいつ自身、すげぇ自由人だな。
「誠なら、もうすぐ来るよ。」
「そうか。」
「じゃぁ、お先に。」
「あぁ。」
「また、あー……25日に。」
「25日に。」
さくっとお別れをしてバス停に向かうと、丁度バスが来た。春哉と一緒に乗り込んで、温かさにほっとする。早速春哉は本を読み始める。
ふと、来年になっても、この光景は変わらないのだろうかと考えた。
春哉は就職先を決め、俺は学校を決める。その間は、多分春哉とか誠達が勉強を教えてくれるかもしれない。でも、その先は?
俺は受かればだけど学生のままで、春哉とは生活のリズムがまったく別になる。休みだって、俺はきっとレポートとやらで忙しくなるんだろうか。バイトも、多分増やす事になる。一部とはいえ、学費は払おうと思ってるし。それを、マコママは知ってる。両親には、言ってない。多分、止めろと言われるから。
「……龍司?」
「え?」
「次、降りるよ?」
「あ、うん。」
降りてから、春哉は俺に声を掛けてきた。
「どうかしたの?」
「何が?」
「何か、考え込んでる?」
「……そんな事ないよ。」
「君、そういうの似合わないよ。」
「うるせ。」
「言ってみなよ。多分、同じ事考えてるから。」
「ホントか?」
そう聞くと、春哉は肩を上げた。
「……俺は、専門行くだろ?で、お前は就職じゃん?こうして、並んで歩くって事が、なくなるかもしれないじゃん。」
「うん。」
「俺は、嫌だなぁって。」
「僕も、嫌だよ。でも、仕方ない。」
「そうだけど。」
「……でもさ、2人共街を出るわけじゃないでしょ?」
「うん。」
「なら、僕が君の家に行くし、君も僕の家に来れば良い。バイト帰りの君を、迎えに行くよ。だから、仕事帰りの僕を迎えに来て。そう考えるとさ、どうにでもなりそうでしょ?」
「うん。」
「考え方の違いだよ。僕は、少しの時間でも逢ってくれると嬉しい。君は?どう?」
「俺も、嬉しい。」
「なら、それで良いじゃない。少しだけでも、こうして歩けるなら。」
「……うん。そうだな。俺が頑張れば良いんだよな。レポート?とか、バイトとか。時間の調整上手くやれば良いんだよな。」
「そうそう。」
にっこりと笑いながら隣を歩く春哉の腕を、俺はぐっと掴んで止めた。
「龍司?」
「春哉、一緒に暮らそう。いつとか、ちゃんと決められないけど、心ちゃんの事もあるし決められないけど……いつか。いつか、俺が独り立ち出来たら。一緒に暮らそう。」
「……龍司。」
「はい!!」
「場所、考えて。」
そう言われて気が付けば、まだバス停の近くで。人はまばらといえども、ちょっとこれは。やらかした。
「おぉ……。」
「……考えとく。」
真っ赤な耳が見えてますぜ、春哉さん。
「うん。」
いつになるか分からないけど。確かに、俺が逢いに行けば良い。逢いに来てくれたら、素直に迎え入れれば良い。春哉が逢いたいと言われたら、俺もって言って逢いに行けば良い。
何だ、すげぇ単純じゃん。
「春哉!!」
「っ……重い……。」
「うはは。」
「馬鹿か、君は。」
「今、超機嫌良いから何とでも言えよ。」
変な奴。そう言って、笑ってくれる春哉がすげぇ好きです。
***
「……春にぃ、顔真っ赤だよ。」
「気にしないで……。」
「リュウジ君も、ほっぺた赤いよ?」
「名誉の負傷ってやつだよ。」
「?よく分かんない。」
「うん、男の勲章だよ。女の子は、分からなくて良いの。」
「そうなの?」
「そうそう。」
「ふぅん?」
「心、帰ってすぐ出ないと。」
「あ、うん。」
***
「……えっと?」
春哉が固まる。inカラオケ店室内。
テーブルの上には、ごっちゃりと置かれたお菓子達。クラスのほぼ全員が集まり、その全員が春哉に買ってきた。いや、正確に言うなら心ちゃんと夏生さんにだ。
「あー、ありがとう?」
春哉が困った様に言うと、皆はそれで良い。とか、うんうんと頷いたりとかしている。つうか、誰だこのビール瓶。酒屋の倅って言ってたあいつか?
――でさ、結局お前らどうなってるの?
賢悟ではなく、別の男子が春哉と隣りに陣取った俺を交互に見ながら聞いてきた。
「どうって……こう?」
俺は、持って眺めていたお菓子をテーブルに置いて、春哉の肩を抱き寄せた。咄嗟の事で反応出来なかった春哉の体が、俺の体に触れた。
――あー、そうなるよね。
――はーい、目線こっちねー。
「あ、ちょっと撮影禁止で。」
何て、芸能人の真似事みたいな事をしていたら、春哉が俺を押し返し始めた。
「何で。良いじゃん、クラス公認。」
「良くない!!離せ!!」
「おいおい、そんな拒否られると燃えちゃう。色んな意味で。」
「馬鹿言ってんな!!離せよ!!」
もがく春哉をギュウギュウ抱き締めてると、後ろから誠に頭を叩かれた。春哉は立ち上がって、俺の足を踏んで誠の後ろに隠れた。
「調子乗り過ぎ。」
「……ふぁい……。」
ちらりと春哉を見れば、俺をじっと見てくる。
「……ほらー、おいでー。怖くないよー。」
――龍司が面白い。
――春可愛い。愛でたい気持ち分かる。
「……お前ら全員、ぶん殴る。」
あ、春哉が怒った。それを見て、また室内がキャッキャし始める。
「ん?あ、俺抜けるわ。これ、誰か回しといて。」
そんな中。急に誠が言い出した。ブーイングが起きる中、誠は賢悟に携帯の画面を見せていた。賢悟、今日の幹事なんです。
「……呼べば?」
「何で。」
「え、別に良くない?逆に、何でって何で?」
「他校生だろ。一応。」
あ、察し。蓮だ、相手。春哉と辰彦も気付いた様です。あ、春哉戻ってきた。
「……他校生1人入っても、問題ないでしょ?」
賢悟が回りに聞くと、誰の友達かと返事があちこちから返ってきた。賢悟が簡単に、そして、余計な事を省いて春哉の中学の同級生で、俺達の友人だと説明をした。
――良いよ。なぁ?
――うん。その学校の学生、どんなのか見たいし。
――1回、学校の前通ったけどメガネ率すげぇよ。
「ほら。」
「……つくづく思うけど、お前ら適応する速さが尋常じゃねぇな。」
それが強みだとか何とか。誠は少し考え、やれやれみたいな感じで電話を始めた。あ、部屋入って30分位だけど1曲も歌って無いってね。まぁ、事前に予約して4時間取ったらしいから。1時間はプレゼント交換って事にした。つうか、4時間ってすげぇな。
『何?寒いんだけど。』
「お前、こっち参加しねぇ?」
『何だよ、急に。』
「連れて来いって騒いでる。」
『何で。』
「抜けようとしたら何か、そんな事になった。」
『他校生なんだが。』
「気にしないらしいな。」
『……手ぶらでもか?』
「んなもん、別に良いだろ。気になるなら、少し多めに金出せば?」
『それで良いのか?』
「良いんじゃね?」
『……まぁ、俺は良いんだけど。お前に早く会いたかっただけだし。』
「……あー、そう。はいはい。来るんだな。」
『春哉達もいるんだろう?』
「いる。」
『……お前の隣りなら。』
「……で?来るんだよな?」
『あぁ。』
「分かった。お前、今駅前?」
『そうだ。』
「おっけ、迎え行くわ。」
興味深々といった視線が、誠に集まっている。
「来るって。」
ふと、俺の耳元で「あいつ、ここ座るから。」と言ってきた。
俺は頷いて、誠に聞いてみた。
「何で待ち合わせしてたん?」
「あいつ、今日この辺に用事あったんだと。で、俺もいるから一緒に帰るかって。」
「用事?」
「詳しくは聞いてない。ただ、時間が分からないから連絡するって言われてた。」
「あー、それで。結構早いね。」
「だよな。俺も想定外だった。」
そう話してから、向かえ行って来ると言って出て行った。その間、蓮がどういう奴か聞いてきたけど、俺達は来てからのお楽しみだと隠しておいた。もみくちゃにされれば良いよ。
それから少しして、本当に来た。誠がドアを押さえて、蓮は顔だけ出した。
「……え、多くないか?」
「クラスのほぼ全員だからな。いないのは、帰省組だけ。」
「へぇ……あ、どーも。前原蓮です。」
シン――となってからの、歓迎ムード。メガネじゃないとか言ってるの誰だよ。笑うわ。
「あー、何か邪魔して悪いな。」
そう言いつつ、俺の隣りに座ってそのまた隣りに誠が座るのね。
「全然。その荷物は?」
「これか?25日のだ。」
「は、早く隠せ!!俺は見ない!!」
「龍司、アホっぽいよ。」
「春哉酷い!!」
「ははっ。」
さて、23日の現在17時45分位。クラスのパーティー開始です。
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