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龍司と龍太と春哉と年末。

 「手袋、ありがとうございました。お礼が遅くなって、申し訳ありません。」  「あらぁ、良いのよぉ。」  「心と夏生も、喜んでました。」  「本当?お父さんに言っておくわ。」  春哉と帰宅して、母ちゃんに春哉の後ろから顔と背中を見せると呆れた様な顔をされた。それからソファーに寝転んで、背中にシップを貼られた。その後は、俺の足側に座ったままの母ちゃんと、1人掛けのソファーに座った春哉の世間話を聞いている。  「お願いします。」  「……ごめんなさいねぇ、うちの息子が。」  「いえ。心は、ちょっと驚いてましたけど。」  「そう、春哉君は?平気?」  「兄が学生の頃は、毎日の事でしたから。」  「あらあら、何となく光景が浮かぶわねぇ。」  のんびりとした世間話が続く中、そういえばと俺は母親に聞いた。  「あいつ、今日部活だよな?」  「そうよ。年明けに、練習試合だから。」  「よーやる。」  「応援、一緒に行く?」  「行かねぇよ。春哉が、弟ちゃんと見たいって。病院からそのまま行ってくる。」  「あら、そうなの?」  「はい。」  「そろそろ行こうぜ。」  「あ、待って待って。行くならついでに、これ。持って行って。」  そう行って、バタバタと母親は移動した。目の前にぶら下がったのは、あいつが部活の時に持ち歩くデカイ水筒。  「……俺に持って行かせるつもりだったろ。」  「あら、さすがね。ほら、持って行きなさい。」  「わーったよ。」  春哉を連れ、弟も行っているらしい病院に行けと母親に言われ2人で最初は病院に向かってから中学校に向かった。  背中は、単なる青痣らしく。特に問題は無かった。ただ、苦しくなったりする様だったら内科の方かもとは言われたけど。今の所は無事だし、中身の方だったら朝飯残さず食べ切ったりなんてしないだろう。  「良かったね、何ともなくて。」  「歩くとまだ、響く感じあるけどなぁ……あ、ここだよ。あいつの学校。」  正門から堂々と入って、事情を説明する。出掛けに母親から高校の生徒証持ってけと言われたが、こんな所で役立つとは思わなかった。  「場所は分かる?」  「だいじょぶっす。」  事務のおばちゃんに生徒証を見せて、春哉は連れだと言って。スリッパを借りて校舎内を歩く。この学校は、校舎の隣りに体育館がある。渡り廊下を歩いていると、掛け声が聞えてきた。  時間は、12時少し前。丁度良いかもしれない。  ふと、笛の音が聞えた。  「……休憩かな。」  「かもな。」  「機嫌悪いね。」  「そりゃな。昨日の今日だぞ?悪くもなる。」  「そうだね。」  開け放たれた入り口から、中を覗く。顧問だコーチだか男の人の前に、男子生徒達とマネージャーらしき女子生徒が数人と舞台側に集まっていた。何か話して、すぐに解散になった。わらわらと広がり、こちらに向かってくる。その中に、顔に痣を作った弟の龍太がいた。  「……君、思い切り殴ったね。」  「はっ、自業自得だろ。」  向かってくる龍太が、俺達の方を見た。男子生徒達が、誰だと言って騒いでいる。多分、説明をしているんだろう。とうとう顧問だかコーチまでもがそれに混じった。  俺達に挨拶をしながら、横を通り過ぎる生徒達。龍太も、顔洗ってくるから。と一緒に通り過ぎてしまった。  「……やっぱ似てる。」  「兄弟ですから。」  「違くって、怒った感じ。」  「はぁ?俺、あんなスかしてない。」  「静かに苛立つよね。」  「……それ、お前だろ。」  「……そうかな?」  「うん。何か、黒いオーラ出す。」  そんな話しをしていたら、顧問だかコーチが目の前にやって来て軽く挨拶をした。勿論、顔の事も聞かれて兄弟喧嘩は今の内だと笑われ、自分も昼飯だからと颯爽と立ち去った。何だ、あの嵐みたいな人は。  「……え、何あの人。」  「知らないよ。」  2人で小さくなる背中を見ていたら、入れ代わりに女子の声がした。龍太の兄だと言えば、春哉の事を聞かれ年下にもモテるのかと少しイラっとした。  「……君達、龍太君とは仲良いの?」  「普通、だと思いますよ?」  「でも、顔のあれびっくりじゃない?」  「あー、ね。どうしたの?って聞いたら、兄貴と喧嘩した……って言うんで、私達もびっくりです。」  「そうそう。しかも、ちょっと恥ずかしそうだったよね。」  「うんうん。」  何が恥ずかしいんだか。  きゃっきゃと春哉と話す女子達。俺は横で、ただ眺めていた。もう、この子達に渡して帰りたい。  そんな考えを見透かした様に、春哉は腕を組み俺の方に体を向けそのまま耳元で囁かれた。  「それ、この子達に渡したら怒るよ。」  怒りのお言葉でも、俺にはご褒美です!!  「……しねぇよ。」  「なら、良し。君達、ありがとう。お昼時間でしょ?僕達の事は、気にしないで。」  その言葉と、春哉の微笑みで1発KO。キャーキャー言いながら、女子達はバタバタと行ってしまった。  「……春哉ぁ。」  「ん?」  「お前、あんまり人前で笑わないで。」  「……愛想笑いは?」  「ダメ。」  「それは、困るなぁ。」  そう言いながら微笑むんだから、性質が悪い。  「……冗談だよ。でも、あんまり良い子しないで。」  「分かった。気を付けるよ。」  そう話していたら、男子生徒達が戻ってきた。シャツの色が違っていたり、さっぱりとしている所を見ると着替えもしてきたんだろう。龍太もそうだ。さっきは黒い長袖シャツだったのに、今度は白い半袖シャツでアンダーシャツが黒になってる。  「で?」  「おい、こっちに挨拶しろよ。」  「……どうも……。」  そう挨拶した瞬間、隣りで春哉が纏う空気が変わった。  「こんにちは。1度……見たよね?」  「……あぁ、兄貴が寝込んだ時。」  「そうそう。上田春哉です。」  「龍太です。兄貴がお世話になってます。」  「お世話してます。」  「ひでぇ……あ。おい、これ。」  「……あぁ……。」  ありがとうも無しかよ。そう思ってたら、春哉が口を開いた。  「ありがとうは?」  「は?」  「持って来たのに、お礼も無いの?兄弟云々より、人としてどうかと思うよ。喧嘩していようがなかろうが、礼儀でしょう?」  おぉっと、ここでブラック春哉様ご降臨ですか。良いぞ、もっとやれ。  龍太と春哉が見詰め合っている。睨んではないけど、何だろう……不穏。  「ありがとうは?」  もう1度、春哉が聞くと龍太は俺を見て「ありがとう。」と言った。分かる。春哉がこういう時、何でか逆らえないんだよな。  「おー、どう致しまして。」  と答えたは良いが、何となく立ち去り難い空気になってしまった。そう思っていたら、春哉が口を開いた。  「ねぇ、龍太君って龍司が何でバイトしてるか知ってるの?」  「え……何で、って……。」  「理由。知ってるの?」  「……小遣いじゃ、足りないからじゃないんすか。」  「あぁ、知らないの。最低だね。」  「ちょ、春哉君っ!?」  春哉の腕を掴んで、止めさせようとしたけど逆に俺と龍太の間に入る様な格好になってしまった。  「こんなに君を思っているのに、君は何も知らないんだね。」  横顔はにっこりと笑っているのに、纏ってる空気が黒い。春哉様、これ以上悪化させないで下さい。  「あんた……春哉さん、何が言いたいんすか?」  「別に?こんな良いお兄さんがいるのに、勿体無いなって。」  「良い、お兄さん?こいつが?」  「そうだよ。」  ふっとこちらを見た春哉が、突然行くよと言った。  「は?」  腕を掴まれ、春哉は歩き出す。驚いた顔をして俺を呼ぶ龍太と、気にせず歩く春哉の背中。交互に見ながら、一応手だけ龍太に向かって振っておいた。  「っとと、おい春哉。」  「あの子、君が好きなんだね。」  「は?どこが?」  「喧嘩、殴り合う位したのに君の手から水筒受け取った。」  「……そりゃ、受け取るだろ。」  「本気で嫌ってるなら、顔洗いに行くとか言わないし、マネージャーの子達に対応をお願いするでしょ。待たせてまで、君の手から受け取ったんだからあまり長引かないと思うよ。」  「……そうかなぁ……。」  とか疑うけれど、春哉は人を見るのが上手い。多分、本当に長引かないんだろう。  「そうだよ。兄弟なんだから、ちゃんと話せば大丈夫だよ。」  「……んー……。」  ぴたりと、春哉が止まった。  人のいない校舎。廊下の途中。振り向いた春哉は、いつもの微笑みを浮かべていた。  「君、弟の事好きなんでしょ?」  「そりゃ……弟だし。嫌えねぇだろ。」  腕にあった春哉の手が、俺の手に触れた。  「なら、君から話し掛けなよ。さっきの事だけどって。」  「……さっきって……あの挑発、わざとか。」  「半分ね。もう半分は、ちょっと態度が気に食わなかった。」  ぎゅうっと、手を握られる。  「うちは、3人きりの家族だから……派手な喧嘩はしないけど……やっぱり、仲直りは早い方が良いよ。家が、暗くなるから。」  「……うん。」  ふっと笑った春哉が、俺の手を持ち上げ指先が春哉の唇に触れた。  「お、まえ……。」  「……僕の口にしたかったら早く仲直りして、もう1度僕に紹介してね。」  「恋人って?」  「まさか。そこまで望まないよ。友達で良い。」  「ん……。」  「むくれない。お昼、どうする?」  「何も、考えてない。」  「そう……。」  どうしよっか。相談しながら並んで歩いて、中学校を後にした。  今まで、合宿の荷物を持ったりしても学校の近くで別れていた。頑張れって言っても、頷くだけ。勝てよと言っても、頷くだけ。何言っても、出るのは文句か唸る様な返事だけだった。親とは、話してる癖に。  本当に、喧嘩した日が久し振りって位にまともな会話だった。  「……龍司。」  「ん?」  「大丈夫だよ。」  「うん。」  まぁ、久し振りに話し掛けてみるか。  ***  「……龍司、そろそろ帰ったら?」  結局。中学を後にして、近くにあったファストフード店で簡単にお昼を済ませた。その後、どうやら歩くのも乗り気じゃない龍司を連れ俺の家に帰った。それから龍司は黙ってテレビを眺めていて、そろそろ日が暮れる頃。俺は龍司に、そう声を掛けた。  「んー……。」  「聞いてる?」  「聞いてる。」  「帰りたくない?」  「いや……んー……ちょっとな。」  「帰りなよ。大丈夫だって。」  「……うん。」  のろのろと仕度を始める龍司を眺めていたら、彼がマフラーに顔を埋めて訥々と話し始めた。  「バイト……。」  「うん?」  「バイト、さ。遊ぶ金とか、春哉が花好きだからとか、そんなんも理由に入ってはいるんだけどさ……。」  「うん。」  「でも、最近は……春哉ともうちょっといれたらって思って。それで、飯とか奢れたら奢ってやろうって思って。それに、いつか一緒に暮らせたらとか、夢見てて……。」  「最近奢ってくれるの、そのせいなの?」  飲み物やら、昼間の昼食も。俺も半分出す事もあれば、いらないって言われる事も最近多かった。急に誘われた時は、ほぼ必ず龍司が出してくれる様になっていた。  「だって、飯食ってる間は一緒じゃん。急に誘ったら、お前ダメな時あるじゃん。」  「まぁ……そうだけど……でも、一緒に暮らしたいって思ってくれてるなら、その分貯めれば良いじゃない。」  「先は、先だ。俺は、今春哉といたい。だって、3年になるし。就職したりだし……。」  前も話した事なのに、何となく気恥ずかしくなって龍司が顔を埋めてるマフラーを無理矢理剥がした。  「……何、むくれてるの。可愛くない。」  「うるせぇ。」  思わず、溜息が出た。  「……あのさぁ、そう思ってくれてるのは嬉しいけど、正直俺と暮らすために貯めてくれた方がもっと嬉しいよ。」  何か言いたそうな目をしているが、マフラーを巻いてやると黙ってくれた。  「勿論、今も一緒が良いってのも嬉しい。でも、奢る奢らないはやめろ。そういう所で女扱いされるの、俺は嫌だ。」  「そんなつもり「黙る。」……はい。」  「君が、俺に望んでることは分からないけど、なるべく要望は聞くから。だから、バイトの給料は自分の為に使え。」  もごもごと、飯はやめると龍司が言った。それから少し間が空き、俺に尋ねてきた。  「……放課後、お茶したいって思ったら?」  「心を一緒に迎えに行って、3人で行こう。それで、心の分を出してあげて。」  「うん。」  「不服そう。」  「2人になりたいって思ったら、俺の家に来てくれんのか?」  「……心連れてくよ。」  「母ちゃんが喜ぶ。」  「……課題、ちゃんとやればね。」  「ん。」  マフラーに顔を埋めた龍司の視線が、揺れた。何か他にあるのかと黙って待っていたら、俺の目を見た。  「なぁ。」  「うん?」  「キスだけして良い?」  「ダメに決まってんでしょ。」  「……じゃぁ、俺も手にしたい。」  「……良いよ。」  龍司が一歩近寄り、俺の腕を掴んで下へ下へと滑り俺の手を取った。強く握られたが、すぐに力は緩み持ち上げられた。それから指先が、龍司の唇に触れた。  そういえば、龍司はこれ以上を要求してこない。多分、俺の中学の頃の事を気にしているんだろう。そう考えていたら、見透かした様に龍司が口を開いた。  「……春哉。」  「ん?」  「俺、2人で暮らせるまで最後までは望まないつもり。」  「何で?」  「中学の事とかあるし、俺がお前を大事にしたいから。あっ、でもイチャイチャはしたい!!」  いつもの調子が出てきた様で、少し安心した。  「……ありがとう。でも、仲直りしたらね。」  「頑張ります……あぁ……よし、帰るっ!!」  「うん。」  バス停まで一緒に行き、こっそりと小指を絡めてバスが来るのを待った。  ***  家に帰ると、弟はまだ帰ってなかった。時間は19時過ぎ。母親に聞けば、今日は遅くなると連絡があったらしい。詳しく聞けば、明日が最後の練習だから今日明日は21時までなんだとか。  「だから、後で迎えに行くから。」  「はいはい。」  「そういえば、母さんちゃんと報告されてないのよ。」  「……何を?」  「春哉君の事。雰囲気は感じてたから、何も言わなかったけど。」  そういえば、言ってないな。何か、知ってる風な話し方だから気にしてなかった。  「花屋で告白した。付き合ってる。」  「あ、そう。」  いつから感づいていたのか聞くと、俺の部屋に花が一輪置いてあったのを見た時だと言った。母親は、珍しいなと思ったのよ。と、ケラケラ笑った。  あぁ、だから三者面談の時家族になるとか言ってたのか。  「つうか、良いの?息子が男と付き合うのは。」  「構わないわよ。龍太がいるし、春哉君良い子だし。綺麗だし。家事出来るし。良いお嫁さん貰ったわぁって思ってる。」  まぁ、でも。親父はパニックだろうな。いや、逆に納得されるかも。つうか、マジで俺の母親懐広すぎ。  「さいですか……親父に言うべき?」  「そうね。母さんは、あんたの味方するから。」  「さんきゅ。」  「さ、ご飯食べちゃって。」  「うーい。」  晩飯を食べて、風呂に入って、部屋に戻ろうとしたら親父が帰ってきた。  「あ、親父。おかえり。」  「ただいま。母さんは?」  下駄箱に置いてあるはずの車の鍵が無い所を見ると、多分早めに迎えに行ってるのだろう。  「龍太迎えに行った。今日明日は、遅くまで練習だって。晩飯、置いてあるよ。」  「そうか。ありがとう。」  そう言いながら、リビングに行く親父の後ろをついていく。何か用かと言われ、直球を投げてみた。そのまま、春哉と付き合ってると。  「……あぁ、あの子かぁ。良いんじゃないか?」  「……俺の両親、寛大過ぎる。」  「そうかぁ、春哉君かぁ。あの子は本当に気が利く子だよねぇ。手袋のお礼だって、手紙を出してくれたんだよ。」  親父がそう言って、そそくさと固定電話が置いてある小さな棚から葉書を持って来た。見せてもらうと、確かに春哉の字で。隣りに心ちゃんの字と、夏生さんの字でお礼の言葉が書いてあった。  「知らなかった。」  「そりゃそうだろう。」  それに、夏生さんから家に電話があったんだよ。と、嬉しそうに言うので拍子抜けした。土産は袋のまま手渡ししたのに、まさかの葉書と電話。すげぇな、夏生春哉兄弟。  「……部屋、行くわ。」  「えっ、もうちょっと父さんに構って!!」  「やだよ!!なんかさり気なくうちの嫁感出されたら居た堪れない!!」  「……?事実だろう?」  「……はっ、そうだった……俺の嫁じゃん。」  「ま、とにかく仲良くしなさい。」  「分かってるよ。」  弟が帰るまでは暇だから、1人で出来る課題は片付けよう。そう思って部屋に入ったら、携帯が着信を知らせていた。見れば賢悟からのグループラインだった。用件はいつ帰るって件で、29日の昼に帰ってくるらしい。  【来るのは31で良いんだな。】  そう送ったのは蓮で、それに辰彦がクマがOKとハンドサインしているのを送り返している。  【風呂上りの俺参上。】  いるよーって事で、そう送ったら蓮が持ってるDVD用意しとくと送ってきた。めっちゃ楽しみです。  【あれ?春ー?】  【ごめん、夕飯の仕度してて。】  【構わんよ。あのさぁ、夏生さん焼酎飲む人?】  【家ではビールだけど……どうだろ。ちょっと待って。】  賢悟と春哉の会話の合間に、サクサクと会話が流れていく。俺は、面倒臭くなって眺めたり、相槌返したり。  【どんなの?って。】  【甘めの大吟醸とか言ってる。】  【是非だって。】  【了解。1本?】  【社長にもあげたいんだけど、金払うからくれって。】  【じゃぁ、2本ね。お金は良いよ、親戚が酒屋ってだけだから。親戚価格で、格安らしいし。】  まだまだ続くやり取りの最中、扉がノックされた。【悪い、落ちる。】とだけ打ち込んで、とりあえず電源も落として充電器に繋いだ。グループラインの着信、けたたましいよな。それに、ノックしたのは多分弟だから。  扉を開ければ、やっぱり弟がいた。  「……おけーり。」  「ただいま……。」  「飯は?」  「まだ。」  「なら、飯と風呂済ませてからにしようぜ。」  「……分かった。」  踵を返して1階に戻ろうとする龍太を呼び止めた。  「何?」  「殴って悪かったな。」  「……俺も、ごめん。」  「うん、行って来い。」  「ん。」  それから、俺は課題をやって待った。まぁ、殆ど分かんないっつーね。あ、ここは前に春哉に聞いた所だ。  ふと、時計を見れば12時間近。あいつ、ホント風呂長い。飯込みだし、そもそも人の事言えないけど。……課題は、諦めた。  何となくテーブルの上を片して、やりかけのゲームをやっていたらまたノック。やっとか。ゲームのセーブをして、電源を落とす。それから、入って良いよと声を掛けた。  俺はグレー。弟は、黒のスウェット姿。龍太の服の趣味は、蓮と誠を混ぜた感じ。モノトーンが好きらしい。俺は、茶系とか暗めの青とかワインレッド?とか色付きが多い。  まぁ、どうでも良いか。俺はベッドの縁に座って、龍太はテーブルの向こう側に座った。先に口を開いたのは、龍太だ。  「殴って、ごめんなさい……あと、色々言ってごめんなさい。」  何言おうか、全然考えてなかったな。まぁ、良いか。全部ぶっちゃければ。  「おー、俺も悪かったよ。ごめんな……その……あのな、俺別にバスケで全国行きてぇとか思ってやってたわけじゃないのよ。」  「そうなの?」  「うん。小学校の授業でやって、めっちゃおもしれぇって思って。小学生のチーム入れてもらって、中学も部活で続けてたってだけ。」  「の割には、上手かった。」  「そうかぁ?あんがと。お前も、頑張ってるし上手くなってると思うよ。」  「……うん。ありがとう。」  「あー、でさ。俺、その他にも理由言ったっけ?」  「いや……何か、入学して暫くしてからバスケ辞めたとしか。」  「そうだっけ?あー、とな。これから話す事に怒るなよ。良いな。」  「努力する。」  「絶対だぞ。」  「……分かった、怒んないよ。」  「うん。あのな、俺があの学校に決めた理由は言ったか?」  「死んだじーちゃんの母校だから。」  「おう、それそれ。あとな、母ちゃんにお前が高校もバスケ続けるって話したのを聞いたからだ。」  「……関係あるの?」  「あるよ。俺とお前が2人で同じ学校でバスケしてたら、金掛かんだろうが。あとまぁ、俺はお前より頭悪いからさ。仕方ないよな。」  「……でも……。」  「はい、高校選びの話しはここまで。で、俺がフラフラしてるって話だ。」  「うん。」  「フラフラしてますとも。高校生だからな。青春は謳歌しないと。でもな、別にお前に見せ付けてるつもりはねぇのよ。じゃなかったら、合宿の見送りついでに荷物持ちしたりしねぇよ。」  「でも、母さんに言われてた。」  「そうだけど、嫌だったら断ってるしシカトしてるって。」  納得いってない顔してるけど、俺は喋り続けるぞ。春哉といちゃつくんだからな。口にキスだってするんだからな。  「まぁ、そうだね……。」  「つうか、お前寝なくて良いの?」  「ん……明日は、10時からだから。」  「そっか……えっと、あのな。バイト始めて少ししてから、俺小遣い貰って無いよ。」  「え?」  「お前、高校でもバスケ続けるんだろ?スポーツ推薦とかで、良い所いけそうって言われてんだろ?だから、俺がバイトして浮いた分を龍太に回してくれって頼んだんだよ。」  「……何で?」  「弟がやりてぇ事頑張ってんだもん。兄貴としては、応援するだろ?」  「うん……。」  「お前は頭良いし、バスケも上手い。行けるとこまで行こうと、練習もサボらず頑張ってる。だったら、俺が出来る範囲で応援しないとって思ったんだ。それに、割と楽しいぞ。花屋。」  「そうなの?」  「おー、将来の夢はお花屋さんですとも。だから、専門に行くんだ。親父が学費出してくれるってよ。」  「それは、親だから……。」  「だと思うだろ?母ちゃんと親父、なんつったと思う?俺がやりたい事見つけて、進学したいってワガママ言ったのが嬉しかったんだと。びっくりだよな。」  「……兄貴、そういえばワガママとか言わないね。」  「自覚は無いけどな。ま、とにかくだ。バイトの花屋、結構楽しいし。専門の学費も、親父が出すって言ってるし。お前が何か気にする事はなーんにもねーの。分かった?」  「うん。」  「じゃ、仲直りな。」  「うん、仲直り。」  眠そうだな。でも、春哉の事も言っておかないと。春哉は、友人で良いとか言ってたけど俺は嫌だ。龍太、今にも船漕ぎそうだけど。  「……今日、もう1人いたろ?」  「春哉さん?」  「そう、俺な。今、そいつと付き合ってんの。」  「……え……。」  「すげぇ好きなの、あいつの事。性別とかの問題が、ぶっ飛んじまうくらい好きなの。俺、いつかあいつと暮らしたいんだ。その為のバイトって事でもあるんだ。」  「……そう、なんだ……。」  「気持ち悪いか?」  「どうだろう……兄貴の今の顔のがキモイ。」  「……てめぇ、仲直りした途端毒を増してきたな。」  「ニヤニヤしてるから、つい。」  「……まぁ良い。あいつは、良い奴だし優しいよ。笑顔なんて、マジで美人だから。」  線が細い。と龍太が言うので、大いに同意を示しておいた。  「でだ。春哉にな、お前に紹介をちゃんとしろって言われたんです。」  「はぁ……。」  「でも、俺は31からお泊りですので年明け早々になりますが、春哉とお前をエンカウントさせようと思ってんだけど、お前いつまで部活休みだっけ?」  「……え、俺に?」   「そう、龍太君に紹介してね。って言われた。で、いつ?」  「三が日まで。7日が、試合だから。」  「あー、そう。三が日、お前どうせ部活の奴らと初詣だろ?」  「うん。」  「……なら、2日だな。4日は、バイト初めだし。31と1は無理だし。あ、やべぇ、課題やんねぇと。」  「急だね。」  「お前と仲直りしたって所見せないと、俺があいつとイチャイチャできねぇんだよ。」  「生々しい。」  「黙れ、お前との殴り合いのせいだ。」  「それはっ……ごめん。」  「いーよ。俺も、ちゃんと話せば良かったんだよ。じゃ、2日。空けとけ。」  「うん。」  「よし、寝ろ。俺も寝る。」  「……なぁ。」  「ぁん?」  「あの人、何か影あるっていうか……何か、あった人なの?」  まさかの質問に、少し戸惑ってしまった。そういえば、こいつも人見るの得意なんだった。親戚のおばちゃんとかから、小遣いよく貰ってたな。俺?俺は普通じゃね?こいつに対しては、あれだ。猫可愛がりってやつ。まぁ、うん。俺よかちっちゃかったから……本当に、あの頃は可愛かったぁ……小学校3年生位までは。  「……お前は知らなくて良いよ。でも、俺は知ってる。聞いたから。それでも、俺はあいつが好きなんだよ。言っておくが、無茶苦茶清いお付き合いだからな。俺を野獣が何かだと思うなよ。」  「ふぅん、兄貴キモイ。」  「てめぇ……もう、早く寝ろ。で、明日思い切り疲れて来い。」  「うん……お休み、兄貴。」  「お休み。」  はー、やれやれ。言い切ったらスッキリしたわ。明日、春哉に2日は空けとけって連絡しとかないと。あと、ありがとって言わないとな。

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