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年越し。-2
はっと、起きてみればまさかの夜。寝てみるもんだわ。CDはリピート再生になっているのか、いまだに流れている。それから、ぐるりと周りを見れば、誠が起きていた。隅に寄せたコタツにスタンドライト乗せて、本読んでる。しかも、着替えも済ませてるってね。
「……うぇーい。」
「おはよう。」
「今日、お前寝過ぎじゃね?」
「DVD面白くてな。」
「あれな。面白いよな。ちょっと前に、俺もハマった。」
「で、その顔何?」
「弟と喧嘩した。」
「ふぅん……晩飯、鍋食いたいよな。」
「あー、鍋なぁ。良いな。」
ぽつぽつと、小さめの声で喋りつつ。俺も着替えます。多分、皆起きたら晩飯と、年越しソバの買い物がある。
「……背中、酷いな。」
「あー、見た目ほど痛くねぇよ。弟に押されてさ、ぶっけた。」
「そうか。」
「仲直りはしたよ。春哉とのイチャイチャの為に。」
「その辺の言葉は要らなかったな。」
「うはは。」
クリスマス終わってからどうしてたかとか、そんな話しをしていたら蓮が起き、辰彦が起き賢悟が起き。残されたのは、春哉だけ。
「……お前起こせよ。」
「俺?やだよ、無理矢理起こすとヤバイ気がする。」
「旦那だろ。」
「それ言っちゃう?」
春哉以外全員用意を済ませ、俺はそろそろと春哉を起こそうと近寄った。あぁ、健やかな寝顔ぉ……。女神か。男だけど。
「あー、春哉ぁ。」
肩を掴んで揺すって、大きめの声で呼びかける。くしゃりと顔が歪んで、薄っすらと瞼の向こうに瞳が見えた。
「春哉、鍋食おーぜ。鍋。」
「……鍋……。」
「そーそー、なっ!!い、痛いっ!!頭蓋骨ミシミシ言ってる!!」
春哉のアイアンクロー、超痛い!!離れないしっ!!
「……冷蔵庫、何も無かった……。」
「か、買い物っ!!買い物行こうって!!っ……うわぁ、めっちゃ痛いぃ……。」
こめかみを擦りながら春哉を見たら、じっと俺を見てる。
「何?どした?」
「……俺の着替え、取って。」
「……はいはい。」
知ってた。謝らないって、知ってた。俺は寝る前まで春哉が着ていた服を渡す。
「はい。」
ぼんやりとした春哉が、服を受け取り俺を見上げた。
「どした?」
ちょいちょいと手招きされ、布団の上にしゃがむと春哉の手が頭に乗った。
「ありがとう。」
「……もっと撫でて!!」
許す!!全面的に許す!!後ろからキモイとか聞えるけど、無視する!!今日は髪セットしないって決めてて良かった!!
「そういえば、春哉。お前髪伸びたな。」
頭に乗っかる手の重さを堪能していたら、後ろから蓮の声が聞えた。
「中学の頃に戻そうかと思って。」
「へぇ……。」
「何。」
「いや、そこの忠犬龍司の理性が心配。」
「……別に、お前が気にしても仕方ないだろ。離れろ、龍司。」
「髪伸びても春哉のエロさは変わらないと思うよ!!」
「マジで、黙れ。あと、退け。」
「はーい。」
名残惜しいけど離れます。
春哉も着替えて、しゃきっとした所で。鍋です。違う、買い物に行きます。
蓮の家から少し歩いて、大通りへ。また少し歩いて、大型スーパーに男6人で入店。即お菓子コーナーを探し始める賢悟を辰彦に任せ、残った俺達4人で鍋の材料を物色する。
鍋は、無難にポン酢で食べるやつ。
俺がカートを押して、3人が具材を入れて行く。カートに乗せたカゴがまんぱんになり掛けた頃、賢悟を連れた辰彦が来た。抱えたお菓子の山から、皆で食べたい物を選んで入れて。余ったやつは、辰彦が戻しに行った。賢悟は、この期に及んでアイスも買いたいとか言いやがるので、春哉が却下した。
「とりあえず、俺が出すから。あとで折半な。」
蓮の言葉に返事をして、カートを押してる俺と蓮がレジの列に並ぶ。
年末だからか、人が多い。まぁ、三が日はスーパーも閉めてるみたいだし、仕方ない。
他の奴らは向こう側で待機していて、何か喋って笑っている。カートに寄り掛かって体重を乗せて、その光景を眺めていたら上から蓮の声が降って来た。
「お前、あいつとどこまでいってんの?」
「え?何が?」
「最後まで?」
「……あぁ、してない。キス位。」
「……俺のせいか。」
「50パーな。」
「残り50パーは?」
「俺達の問題。つっても、俺が大事にしたいってだけ。蓮との事が、消えるわけじゃねぇけど……俺は、気にしてる。でも。いつか、2人で暮らせる日が来たらさせてね。って言った。」
「大分、格好良い事言ったな。」
「半分後悔してる。もうね、ヤバイ。妄想が。」
「妄想ねぇ。」
「あ、今思い出してる?やめて。もう俺のだから。」
「分かってる。なぁ。」
「うん?」
「誠に告白したんだよ。」
「……えっ!?うっそ、マジで!?」
「マジだ。夕べ。飯食ってる時。」
「夕べてあんた。誠は?何て?」
「良いんじゃねぇの。って。」
「……それだけ?」
「それだけ。」
「お前、何つったの?」
「好きだから、ちゃんと付き合ってみないかって。」
「……もー、お前らの適当さ嫌いっ!!何それ!!リベンジしようぜ!!」
「すべきか?」
「すべきだよ!!」
そんな話しで盛り上がっていたら、次になった。急いで賢悟に今の事を送った。賢悟に目を向けると、びっくりした顔をして誠を見て俺を見て、ぐっと親指を立てた。
「賢悟、イベント好きだからきっかけくれるよ。」
「イベント。」
「うん。あいつ、割とセッティング上手いんだよ。」
「そうなのか。」
あ、俺達の番だ。
それにしても店員さん、大変だな……この量。男6人分だもんな。春哉は、そんな食わないけど。しかも、思ってたより値段は掛からなかったってのが、春哉の目利きの凄さだよな。
「割と安い……。」
「春哉、目利きすげぇよな。」
「あぁ。」
蓮がお金を払って、袋詰め。荷物を分担して、帰宅。
早速本宅?の方で準備をしてくると春哉と辰彦、それから蓮が行ってしまった。俺達?俺は大根すってる。鍋にどーんと入れるんだって。で、賢悟は隣りで携帯弄ってて誠は向かい側で読書。
「あ、マコちゃん。」
「ん?」
「告白されたんだって?」
特攻隊長とでも呼ぼうかな、これから。
賢悟は早速ぶっ込んで、誠は誰から聞いたって目で賢悟と俺を見てる。俺は、何も聞いてないっていう体で大根をおろします。
「俺は龍司に聞いて、龍司は蓮に聞いた。」
賢悟君っ!?マジかよ!?ヤバイ、めっちゃ見てる。見てるよマコちゃんが!!
「……おい。」
「……すいません……まさか、ここでぶっ込んでくると思ってなくて。」
「そうかよ……で?されましたけど?」
「何で、はっきり答えてあげないの?」
しゃりしゃりと俺が大根をおろす音だけになって、パタンと本が閉じられる音と誠の声でちょっと救われた。
「今更だろ。」
「でも、困ってるじゃん。」
「……みたいだな。」
「あー、発言宜しいでしょうか!!」
「許可しよう。」
「誠、前に修学旅行でOK出すって言ってたじゃん。」
「出したろ。」
「曖昧だよぉ……。」
「別に、俺はロマンチストでも何でもねぇけど……夕飯食ってる時に言うか?普通。せめて食い終わってからだろ。」
「……え、夕飯中?」
賢悟が俺に聞いてきて、俺は頷いた。
「それは……ダメだわ。」
うげぇって顔で、首を横に振りながら賢悟が答えた。そういえば、ちゃんと内容言ってない気がする。列の順番あったし。
「だろ?しかも、ちゃんと付き合ってみないかって何なんだよ。」
「あぁ……そういう事ね。」
「答えたろ?良いんじゃねぇのって。」
「そうなるわ。誠相手は。」
賢悟は1人うんうん頷き、俺は黙って大根おろす。つか、何この量。大根丸々2本とか、辛すぎる。そういえば、何か大根おろしで動物作ったりしてる人いるらしいな。やってみっか……あと、1本終わったら……。
「納得か?」
「納得です。」
「何考えてる。」
「いえ、別に。ナニモカンガエテナイヨー。」
「わざとらしい……。」
「助言はするかな。」
「甘ったるいのは却下だ。」
「おっけ。」
何かよく分からない内に、あくどい顔した2人の会議は終わったらしい。じっと見詰め合ってから、それぞれ元の場所に視線を戻してしまった。それから、また大根をおろす音だけになった。
「……あ、龍司。これやろうよ。」
「へ?」
「これ。」
そろそろ2本目が終わりそうって時に、賢悟が携帯を見せてきた。携帯の画面には、鍋に浸かる白熊。やろうとしてたと言えば、早く終われと急かされてしまった。
大根がおろし終わり、白い器に白熊家族が割りと良い出来ばえで揃った頃。鍋を持った3人が戻ってきた。誠が蓮を睨んだけど、蓮はそ知らぬ顔。こいつら、アレだな。ケンカップルとか言うやつだな。
ま、それはおいといて。白熊を春哉と辰彦に見せたら喜んでくれたので、俺は満足です。
「でも、崩れちゃうけどねぇ。」
何て、賢悟が酷い事言ったので頬を抓っておきました。
洗物は俺と賢悟と誠でやると言って、ぐつぐつするまでじっと鍋を見守る。たまに春哉が灰汁を取ってると、白熊が溶けてしまって残念な気分になった。
「地獄絵図。」
そう言ったのは、賢悟。
「俺の努力の結晶が……。」
俺もつい、言ってしまった。
「君達、食べないならお皿片すよ。」
春哉の母性が、たまにキツイですね。そんな所も、好きです!!
「すいません。」
「ごめんなさい。」
「もう、良いんじゃないか?」
「そうか?」
「あ、ちょっと。まだ、白菜生だから。」
春哉、マジで母親みてぇだわ。
そんなふわっとした感じで、鍋の時間です。
***
鍋を食べて、しめの雑炊も食べて。ほっと一息ついて、毎年何観てる?でチャンネル争いになりながらこたつでまったり。
俺から、右隣りが春哉。テレビの真正面に賢悟と辰彦。俺達の向かい側に、蓮と誠。ぬくぬくしながら、ぐだぐだ喋りながら。気が付けば、外から鐘の音が聞え始めた。
「あ、龍司。煩悩落としてもらいなよ。」
「108つじゃ足りない時は、どうするんですかぁ?」
賢悟の言葉にそう答えれば、うわぁって顔をされた。
「おい、やめろよ。やめろってその顔っ!!」
「だって……春、本当にこいつで良いの?犬じゃん。絶賛発情期じゃん。」
「え?」
じっと俺を見て、賢悟を見た。
「まぁ、仕方ないよね。」
「……何が?」
春哉以外、俺を含めてさっぱり分からないって顔をして春哉を見ていたら、口の端を上げて笑った。
「さぁ……?俺がこいつのどこが好きとか、本人以外に言うつもりなんてないから。」
「……やだ、イケメン……。」
不覚にも、きゅんとしちゃった。最近、ふとした瞬間に素の春哉が出るからドキッとしちゃう。イケメンって、本当に得ですねぇ。
「龍司、帰って来いよー。」
「うっせ。意識はあるわい。春哉がイケメンすぎて辛い……。」
「……龍司、春哉もう興味無くしてるよ。」
辰彦の声に視線を春哉に向ければ、確かに。湯呑みを持って視線をテレビに向けていた。マジ酷い。
「春哉君っ!?」
「煩いよ。」
「ねぇー、愛の囁き短くなーい?」
「……続きは、明日。」
「……あ、黙る。我慢ね。ちょっと、煩悩消す努力するわ。」
鐘の音を集中して聞こうと思う。
「馬鹿だな。」
「うるせぇぞ、マコちゃん。」
ぐだぐだ、だらだら。深夜もド深夜になって、そろそろ行こうかと賢悟が言い出した。俺がどこに行くのか聞けば、あろう事か俺達の学校だと言い出した。
「……なんでこいつの家に泊まったんだよ。」
「蔵、見たかっただけ。」
「いつでも良かった……。」
今から皆でげんなりしつつ、さぁ行こうと元気一杯賢悟君。マジ賢悟君。
深夜3時。出発です。
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