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春哉と龍司と龍太。
結局、ド深夜に別々にもう1度シャワーを浴びた。何をした?布団はどうした?うん、まぁ、あれだよね。春哉の布団で良かったってだけ言っとくわ。マジで。
「今更眠い。」
「でも、龍太君と会うんだから。」
「んー……でも、午後だし。寝ようよ。」
「まぁ、そうだね。」
湯たんぽは温め直して、夏生さんの布団に2人で潜り込んだ。春哉の布団は、明日大型の洗濯機があるコインランドリーにぶち込むらしい。
春哉を抱きかかえて、春哉が掛け布団を引っ張り上げた。
「……あったけぇ。」
「そうだね。」
「これは、寝れる……。」
「うん……お休み。」
「んー……――。」
***
少しの寒気に目を覚ましてみれば、腕の中にいたはずの春哉がいなかった。時計は11時近くを指していて、7・8時間は寝たらしい。いつも通りだ。体を起こしてぼけっとしていたら、「あ、おはよう。」と声が聞えた。
声の方を見れば、玄関に春哉がいた。着替えもすっかり終わっていて、いつもの顔をしてる。
「おはよー。洗濯?」
「うん。あと、買い物。君のせいで、あんまり眠れなかった。」
「え、何でぇ?」
「何でだろうね。」と笑った春哉に、追求はしなかった。ド深夜のアレを思い出したから。俺は悪くない。っていうか、お互い様だと思います。
「あー……洗濯、いつ終わりそう?」
「うーん……待ち合わせするなら、2時位かな。」
「そっか。じゃぁ……2時に待ち合わせって送るわ。」
「大丈夫?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。兄貴様の奢りだからって言えば、黙って来るよ。あとパフェな。」
「そう、意外と甘党なんだね。」
「うちの家族は全員甘党です。布団、畳むだけで良いの?」
「うん。あと、着替えてこたつ出しちゃってね。パン焼くけど、食べる?」
「食べる。」
布団を畳んで、着替えを済ます。朝食兼昼食になるんだろうか。トースト2枚と、ベーコンエッグとサラダ等々が出て来た。俺はトースト2枚で、春哉は1枚。あとは一緒。
携帯が鳴った。表示には龍太の名前。
「……あ?あの野郎。」
「何?」
「こっち来てるって。」
「え?」
「運動がてら、歩いてるってよ。」
「歩きって、ちょっと遠くない?」
「まぁな。俺の予想じゃ、若干遠回りしてランニングしてる気がする……。」
「えぇ……何か用意した方が良い?」
「食パン口に突っ込んでやるから良いよ。あ、でも、あいつ風呂貸せって言うかも。ってか、そのつもりだと思う。」
「それは、良いけど……扱い方が雑だよ。」
そんな俺の予想通り、玄関チャイムが鳴り春哉が扉を開けると弟がいた。真冬の癖にポカポカと汗をかいた我が弟龍太。俺は春哉の後ろから声を掛けた。
「お前、バカじゃねぇの?人様の家の風呂借りようと思って黙って来んなよ。」
「ダメなら帰る。」
「良いから入って。風邪引くから。」
「……お邪魔します。」
「シャワーでも良い?っていうか、どうして家の場所知ってるの?」
「ハガキに住所あったから、ナビ使った。」
「あ……僕、文句言おうと思ったけど無理だ。」
「諦めろ。そいつ、悪知恵賢悟並みだから。とっとと風呂入って来いよ!!」
「うん。お借りします。」
「あ、使い方教えるから。」
「お願いします。」
春哉が龍太にレクチャーし、俺達は食事に戻った。食事も片付けも終わる頃、龍太はさっぱりした姿で現れた。
「あっ!!それ俺の服!!」
「借りた。」
「お気に入りなのに!!」
龍太は俺のお気に入りのグレーのパーカーを着ていた。フロントにある柄が俺の好みだったから買った物だ。あと、裏地がコットン?みたいな、何か温かいやつだからお気に入りにしてる。
「良いじゃん、別に。」
「くぅー……あ。」
「あ?」
焼いてない食パンぶっ込んでやった。
「……味が無い。」
「だろうな。」
「ていうか、座ってくれる?邪魔でお湯沸かせない。」
「あ、すいません。」
「ごめん。こっち来い、バカ。」
つうか、180近辺と170近辺が合計3人揃うと若干狭い気がする。あ、こたつがあるからか……こたつ、俺の部屋に欲しいな……小さいの、安く売ってないもんか。
「えっと?お茶で良かった?」
「あ、すいません。ありがとうございます。」
「いいえ。何か、食べる?」
「お構いなく。兄貴がパフェ食わせてくれるっつーんで。」
「おかわりすんなよ。」
「……ステーキ。」
「……ハンバーグとフライのセット。」
「……仕方ない。」
「よし、飯の場所決定。今日何する?春哉行きたい所ある?」
「うーん、状況説明をして欲しいかな。」
俺はファミレスの名前を言って、そこにそんなメニューがあると教えた。
「いや、それは分かるんだけど……何で僕に行きたい所とか聞くのかな?」
あ、やばい。ブラック春哉様降臨した。
「言ったよね?君達2人が仲直りして、改めて紹介しろって言っただけだよね?何で僕に行きたい場所聞いたの?普通龍太君に聞くんじゃないの?」
「……我が弟よ、行きたい場所はあるんかいね。」
「誰だよ……あ、観たい映画があるんだけど。」
「お、何々?」
聞いたタイトルに、春哉が何度も首を横に振った。俺だって嫌だよ、今の時期にホラーとか。寒気が増すじゃん。
「無理。」
「……じゃぁ――。」
と次に言ったのは海外の映画。アメコミの実写映画だ。
「仕方あるまい。つっても、行くの2時以降だけど。」
「何で。」
「布団洗ってる。」
「布団……?あぁ、おめでとう。」
勘が良すぎるのも罪だよね。
「違う。お前が思ってんのと違うから。」
「そうなんですか?」
「うん。ちょっと、兄弟2人共黙ろうか。」
真っ黒い微笑みが目に染みるぜ。龍太も察した様で、兄弟2人して口を閉じた。
とりあえず場所は予想通りの場所になった。商業施設まで行って、映画のチケットを夜の分を買ってからそこにも入ってる目当てのファミレスに行こうって事になった。
「あ、龍司課題は?」
「……持って来たぁ。」
「俺も教えて欲しいです。」
さっとデカイリュックから何枚かのプリントと、冊子を何冊か取り出した。
「え、龍司じゃダメ?」
「意味分かんないっすもん。」
「あぁ……。」
止めろ。憐れむ様な目を止めろ。そう口にすると、「頼りない。」とばっさり切られてしまった。
「HP0だよ。ねぇ、俺このままだと溶けちゃう。」
「ナメクジかよ。」
「元々溶けちゃってんだから冷やして固めたら?」
あ、毒吐く人2人いる。ダメだ、勝ち目無い。
「すいません。」
「……頑張って。」
よしよし。と頭を撫でてくれたので、頑張ります。課題っつっても1個だし……専門にも受験あるとか聞いてねぇよ。まぁ、テストらしいテストは無いとは聞いたけど。
春哉は龍太の持ち物をパラパラと眺めてる。俺は、その様子を眺めてる。
「このプリントって、答えとかあるの?」
「無いです。入試用っつって、各教科の先生がくれた。時間あればやれって。」
「あー、成る程。山張ってまとめた感じか……全部自分でやって、分からない所は飛ばすべきかな。答えが無いなら、僕の答えも合ってるか分からないから先生に聞いた方が良いよ。数式とか特に、やり方違うとかで減点もありえるから。」
「はい。」
龍太はそう言ってプリントをクリアファイルにまとめ、リュックにしまった。それから春哉に冊子を渡した。
「これは何?」
「それは部活の奴が塾行ってて、体験で一緒に行った時貰った問題集。」
「そんなん行ったの?お前。」
「1人じゃやだっつーから。」
「女子かよ。」
「女子だよ。うちのマネージャーの1人と行った。」
マネージャー。そう聞いて、3人の女の子の顔を思い出した。マジか。どれ、どれっつうかこの中の誰だ。王道の青春突き進んでんな、俺の弟。
「ふぅん?今こんなの体験で貰えるの?凄いね。」
「高校受験コース?に1週間行ったから。最初にくれた。塾の教科書って言ってた。」
「へー。その塾太っ腹だねぇ。」
ぱらぱらと捲りながら、へーとかあーとか言ってる。春哉の真剣な顔素敵。
「あ、これは答えと解き方あるんだね……これなら教えられるかな。っていうか、龍司。これやった方が良いかも。」
「へ?何で?」
「専門って、面接があるんだよね?意欲を話したりする感じの。」
「あー、うん。マコママに教わるっつうか、色々教えてくれるって。」
なら。と掲げた問題集の表紙には、生物と書かれていた。
「おふぅ……。」
「成長の仕組みとか細胞位、おさらいしたら?」
「ソウデスネー。」
後でコピーを貰う事になった。
俺はとりあえず目先の課題に集中していたら、俺の隣に何故か龍太が陣取って春哉はこたつの角を挟んで龍太の隣に移動していた。教えやすいそうだ。
黙々と課題をやっていたら、目の前にお茶が出て来た。少しびくっとした。
「あ、ごめん。」
「いやいや、お茶あんがと。」
お茶を置いた体勢のままの春哉を見上げて、聞いた。今は、古文のプリントやってる。漢文嫌い。つうか、勉強嫌い。まぁ、レ点とか。今の文章に直せってやつだからまだ分かるんだけど。訳すの分からん。マジで。
春哉は別の問題集を眺めているらしい。すげぇ静かで、モヤモヤする。
「……受験の時、歴史とかってどうしました?」
「え?僕?」
「はい。」
「どうって……教科書音読した位かな。あと、年表作った。」
「は?」
思わず声が出た。
「いや、ノートに作っただけだよ。箇条書きで。習った年の数字だけ書き出して、分かる所とか覚えてる事を片っ端から書いてって。思い出せないとこだけ重点的に覚える。っていうのを、何回かした。」
「さすが春哉。」
「無理。」
「落ちるわけにはいかなかったからね……漁ればありそうだけど。」
興味が沸いたが、俺的には今更な気がする。龍太もそう思ったみたいで、推薦落ちたら探して欲しいと頼んでいた。
それからも黙々と俺は課題を、龍太は受験勉強をして気が付けば14時近くになっていた。
「あ、布団。取りに行ってくる。」
「一緒行く?」
「あー……うーん、お願いしようかなぁ。」
春哉と俺達兄弟でコインランドリーへ向かった。さすがに、龍太を春哉の家とはいえ人様の家に置いてくのは気が引けた。
大型の洗濯機2台に、敷布団とカバーやらがずぶ濡れになっていた。それを3人で春哉が持って来た透明なゴミ袋にいれて家まで持って帰ってきた。春哉1人だったら、乾燥機を使おうと思っていたらしい。
「よし、もう行かない?」
「そうだね。」
「……あの。」
「ん?」
「多分、落ちはしないと思うけど……また、勉強見て下さい。」
「僕で良ければ良いよ。」
なんつうか、兄貴である俺と態度違い過ぎて腹立つわぁ。良いんだけどね、仲良くなるだけなら。
「龍司は、間に合わせようね。」
「あとちょっとだもん。」
「可愛くねぇ。」
「お前もな。」
「あはは。」
***
「……お前の胃袋はあれか?ブラックホール的な何かなのか?」
貴重品だけを手に、荷物は春哉の家に置かせてもらって目的地まで移動した。まぁ、元々俺は今日も泊まるんですけど。
「明らか食い過ぎだろ。」
「普通だろ。」
「やめなってば。まだ時間あるけど、どうする?」
「弟よ。」
「……無い。」
「……とりあえず、出ようか。」
昼時間は大分過ぎているにしても、さすがに長時間居座るわけにもいかない。俺達は席を立ち、会計を済ませた。勿論、春哉は自分の分を払った。まぁ、話し合いましたから。俺も素直に受け取りましたよ。春哉は俺にお金を払ってから、お手洗いに行くと行ってしまった。
「2人って、割り勘なの?」
それを待ってる時、龍太が聞いてきた。
「んー、まぁな。男同士だし、女扱いすんなって怒られた。」
「意味分かんない。」
「だから……彼女とかと出掛けると、男が金払ったり荷物持ったりするだろ?してねぇの?」
「し、てる。奢りは……軽いもん位。」
「それを止めろって言われた。」
「あぁ、そういう扱いの事。」
「そうそう。俺に奢るんだったら、心の分を奢れってさ。」
「心って?」
「あ、知らないっけ?春哉のお兄さんの娘。だから、姪っ子。超絶人懐っこい可愛い。」
「ふぅん。」
そんな話しをしていたら春哉が出てきてこちらに向かってるのが見えた。が、女性の2人組みにぶつかった。駆け寄ろうとしたが、春哉はササっと落ちた荷物を拾い女性に返しあの微笑みを駆使して頭を下げてから再びこちらに向かって歩いて来た。
「……え、何その顔。」
「嫉妬心大爆発中。」
「……大人げねぇ。」
「弟までに言われてるってどうなの?」
「笑顔振り撒かないでって言ったじゃん。」
「……そんな事も言ってたね。」
ふと、黙った春哉が俺達から一歩引いて視線だけで俺を呼んだ。手の平で弟を少し下がらせ、春哉に一歩近寄る。耳を貸せと言うので、少し体を斜めにして耳を貸した。
「君に噛まれた所、痕になってて……荷物拾った時に痛んで、思わず笑っちゃったんだよ。」
語尾が少し強めだったけど、その言葉に思わず頬が緩んだ。同時に、庇う様に俺から見て右側の肩辺りを掴んでる姿が俺に追い討ちを掛けた。
そこまで強く噛んだと思わなかったけど、頬の緩みが治まらない。
「何か、さーせん。」
「……別に良いよ。」と言ってから、目を細め微笑みながら言葉を続けた。
「こういうの、俺は嫌いじゃないし。」
……うん、俺の恋人マジイケメン。鼻血出そう。やだって言ってた癖に!!もう!!この照れ屋さん!!
「今日、俺の理性保てるかな……。」
「……最終手段は風呂場だよねぇ。うーん……タオル敷いた方がマシかなぁ……。」
なんてのん気に言いながら、春哉は俺から離れ龍太の傍に行ってしまった。今、凄く、何か叫びたい。とにかく叫びたい。
そんな叫びを拳に封じ込めながら、蓮にレクチャーしてもらえば良かったとか思った俺を誰か殴って欲しい。
「……あぁ、これが幸せってやつっすか?」
ぽつりと出た言葉は、2人に届かなかったらしい。
***
「あの外道ヒーロー最高だな。」
「うん。良かった。続編来年製作かもだって。」
「マジか。要チェックだな、こりゃ。」
映画を観終わり、傍にあったお手洗い前の椅子に並んで座る兄弟を、俺は2人の足元にしゃがんで眺めていた。顔立ちは似てるが、どちらかというと龍司の方が若干柔らかい印象をしている。でも、映画の趣味はそこまで違うわけではない様で、結局は仲良し兄弟だなと思った。
「ねぇ、春哉。足、痛くないの?つうか、俺達見ても仕方なくない?」
「いや?割と楽しい。」
龍司の顔は大げさに歪んだが、龍太君の顔は無表情のままだ。こういう所は真逆だな。
「何がよ。」
「んー?龍太君は、お兄ちゃん大好きって感じとか。龍司もそれ知っててじゃれてるって言うか馬鹿な事言ってる感じとか。仲直りしてよかっ!!んんー!!」
急に後頭部を支えられたまま、口を塞がれた。睨みつければ困った様な顔の龍太君と、少し顔を赤くした龍司がいた。
「よし、春哉君。その素晴らし過ぎる目でガチ観察は止めようか。」
「ガチ観察って何?」
「あ?こいつ、人をよく見てるから癖とか1発でばれるぞ。」
口の手が離れたのでフリかと思い、龍太君割とファンシーな物嫌いじゃないでしょ?と聞いてみたら、今度は龍太君に口を塞がれた。
「んー……。」
「これは、ダメなやつ。」
「ダメだろ?ダメなんだよ。だからな、春哉。マジで黙ろうな。」
ここまでお願いされたら、仕方ない。
うんうん。と頷く事で意思表示して、やっと手が離れた。少し楽しくなって、じっと口を閉じ何か言おうとするフリをした。今度は龍司の手が伸びて来て、塞がれた。
「……何も言わない?」
「ん。」
「もう帰るよ?良いよね?」
「ん。」
ゆっくりと離れて、やっと俺は立ち上がった。
「単なるイタズラなのに、酷いよ。君達。」
「春哉が今日イチ良い笑顔してるのは嬉しいけど、やめて。シャレになんない。」
「分かったよ。帰ろうか。」
「うーい。」
「はい。」
***
「……今日も泊まるって本気だったの?」
「別に良いだろ?春哉1人で、可哀想じゃん。」
「まぁ……うーん……面白い人だね。勉強も分かりやすかったし。また、遊びに来たい。」
こういう所は中学生らしいと思うけど、嫌な予感がやばいんだけど。
「……やらんぞ?」
何とはなしに牽制球を打ってみたら、「……なら、奪うって手もあるけど。」なんて斜め上の変化球を食らった。こいつ、マジで何言ってんの。しかも、無表情で。
「え、冗談だろ?彼女いるじゃん。」
「……は?あぁ、あれ嘘。1人で出掛ける時言った。あと、今のは半分冗談半分本気。」
「……よし、家帰ったら覚えてろ。その俺似のイかした顔面に青痣作ってやっからな。」
「あのさぁ、本人目の前でする会話じゃないよね?」
「春哉は俺の嫁だからな!!」
思わず龍太の視線から消そうと、春哉を抱える様に抱き締めた。人前では止めろと叫んでいるが、俺は無視した。もぞもぞしてるのも、面白い。
「……バカだなぁ。嘘だよ。彼女本当にいるし。」
「……ちなみに誰?塾一緒したマネージャー?」
春哉を離して、さりげなーく手を繋いだ。気付いてんだか、気付いていないんだか、パタパタと服のシワを伸ばしたり髪を整えたりを片手でしている。妥協したのか、弟しかいないからか。手繋ぎは良いらしい。
「違う。クラスの委員長。塾は彼女がそいつに紹介して、俺は見学ついでに道案内。」
そう言いながら操作して、差し出して来た携帯には黒髪の幼い顔立ちをした美人さんがいた。和服が似合いそうな美女だ。
「へぇ、綺麗な子だね。」
「うっそ、マジで!?ねぇ、これマジで!?何で!?」
「何でって……告白されたから良いよって言った。初めて女子から告白されたし……委員長だったし。」
「……なんっじゃそら!!」
「落ち着いて、近所迷惑。あと、いい加減手ぇ離して。」
「やだ!!つーか、あれだよ。何なの?何で黙ってたの?菓子折り持ってご挨拶行く覚悟はあるよ?」
「いい。いらない。でも……。」
龍太が春哉を見て、その視線に春哉が気付いた。こいつ、力技で手を離そうとしやがって。離しませんわよ!!
「兄貴と喧嘩した後、言っちゃった。」
「言った……て、何を?」
俺が聞くと、春哉から視線を離し頷いた。
「……え、待って。彼女何て?」
「リアルBLをありがとう。」
「まさかの。」
「委員長、隠れオタクだから。こいつの家、結構凄い。」
「良いの?彼女そんな感じで良いの?」
「うん。1年から気になってたから。」
だから、そんなん知らないし。お兄ちゃん聞いてない!!色々言いたいけど近所迷惑だしな!!
俺が言いたい事を一生懸命飲み込んでいたら、龍太が春哉に謝っていた。春哉は謝らないで良いよと笑った。
「理解の仕方は人それぞれだし、そっちに問題が無いならそれで良いよ。」
「どうも……それで、彼女が2人を生で見たいって。」
「あ、それは予想外だなぁ。」
「申し訳ないんですけど、受験が落ち着いたら一緒に出掛けてくれませんか?」
「僕は構わないよ。お兄さんと話して。」
ぐい、と手を引っ張られ「俺?」と言ったら2人が頷いた。そろそろバス来るな。
「あー、まぁ、良いんじゃ……あ!!」
「っくりした……どうしたの?」
「彼女も推薦?」
「うん。」
めっちゃ良い事思いついた!!年明けで、龍太と彼女の受験落ち着いて……えー、合格発表が2月頭って言ってたから……ほら!!バレンタインじゃん!!イベントじゃん!!
俺は咄嗟に携帯を取り出し、蓮に電話を掛けた。春哉はバス来るよと言いながら、俺の手を引っ張っている。
『どうした?』
「蓮!!リベンジしたのか!?」
『りべ……あぁ、いや、まだだけど。』
「ちょっとそれ保留!!また掛ける!!」
『は?おい!!』とそんな声聞えたが、今は無視!!次は賢悟だ。
賢悟に掛けた所で、バスが来た。電話の通話口を肩で塞いで、気を付けて帰る様弟に言った。
『もっしー?何ー?』
「おう、俺すっげぇ良い事考えたんだけど!!」
『え?何の事で?』
「蓮のリベンジ!!」
『……ちょっと詳しく!!』
春哉がまた俺の手を引っ張っているが、無視。諦めたのか、弟に気を付けてねとか言ってる。俺は繋いでる手を上げて、手を振った。真っ赤な顔した春哉にふくらはぎ蹴られた。
***
「あー、それで。」
「そうそう。イベントは利用しないとさ。」
「そうだけど……。」
龍太を見送り、布団を中に入れて風呂とかも済ませ、寝る体勢に入って賢悟と話した事を全部教えた。
Wデートするなら、ついでに蓮と誠の告白タイム設けてやろうぜ。って事だ。賢悟も俺の弟や、その彼女を見たいと張り切っていた。
「……やっぱ、おせっかいかな?」
「僕からしたら、そう見えるね。でも、前原は口で言うの苦手なタイプだから、向こうからしたらありがたい話しだと思うよ。」
1回電話を切った賢悟とは、風呂上りにラインで計画を立てた。だから、蓮にはまだ伝えていない。伝えたとしても、ラインでリベンジはまだするな。とか、良い舞台作ってやるから。とか、そんな事しか伝えていない。もうちょっと、賢悟と計画詰めたら連絡をするつもりだ。
「電気消すよ?」
「うん。」
今日は大人しく寝よう。そう決めたのは、風呂上り。
暗闇に目が慣れて、春哉の顔が見える。心配そうな顔で、俺を見ていた。
「何?やっぱ反対?」
「いや……うーん……誠の反応が怖いよね。」
「でも、大げさにやらねぇとあいつ分かんないじゃん。」
「そうだけど……。」
「つうか、上手くいってほしいだけなんだよ。誠のあの感じ、ちょっとやなんだ。」
「うん。」
「だからさ、はっきり白黒付けてやろうって。」
「……早々に誠にバレそう。」
「やめて。予知とかダメ。」
クスクスと春哉が笑う。今日は、結構神経使ったな。久し振りに弟と出掛けたかもしんない。
「明日、何時に帰ってくんの?」
「夕方だよ。」
「そっか。じゃぁ、昼には帰るよ。」
「うん。」
お休み。2人でそう言い合って、俺は目を閉じた。
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