28 / 34

蓮と誠と受験の事。

 「はい、あけおめあけおめー。」  年明け一発目の登校です。  1日2日とお泊りをした後、3日の夕方。予定通りの時間に心ちゃんと、夏生さんは帰宅したらしい。それから、夜になって、俺とナニかしてないか尋問されたと連絡が来た。隠し通したらしい。  今日は始業式と大掃除。午前中には帰れる予定だ。  バイトも始まってる。誠もそうらしい。今日は始業式だからと、俺は休みを貰ってるが誠はバイトに出るそうだ。なんだか、大学生の就活絡みで人数が減ったそうだ。新しいバイトを入れるまで、休みが少ないと愚痴を吐いていた。  「ねーねー、放課後暇でしょ?」  「……賢悟君、俺バイト民よ?休みだけど。」  「じゃ、レンレンの家行こう?」  「良いよ。春哉も行く?」  「遠慮しとく。心迎えに行かないと。」  「あー、そっかー。今日、辰彦も下の子の面倒見るって言ってたよね?」  「兄弟多いと大変だな。」  「慣れると楽しいよ。」  移動中にそんな話しをしながら、誠のトイレ待ち。戻って来た誠も入れて、いざ始業式です。  ***  放課後、春哉と辰彦と誠にまた明日と言って俺は賢悟と蓮の学校に向かった。始業式が長引いて少し遅くなると言うので、学校近くのファミレス行こうという話しになったからだ。  「……キレーな校舎だねぇ。」  「だなぁ。」  正門前のガードレール。そこに陣取って、出待ち。制服着崩してスカジャンにマフラーの俺と、ニット帽にマフラーにモコモコしたジャンパー着た賢悟。この2人組、多分凄く目立ってるだろうなぁ。  「さみー。」  「あ、今HR終わったってー。」  「はやくー。」  2人で寒い寒い言ったり、賢悟のモコモコを触ったりして待っていたら、1人また1人とグレーや紺のコートを着た男女が出て来た。  「あ、ここコートも指定だったねぇ。」  「あ、そうなん?」  「うん。その代わりが、髪型自由ってわけ。」  「はー、面倒くせー。」  「ねー。」  視線は気にはならなかったが、やはり俺達は目立つらしい。チラチラと見られてる。  「あ、あれか?」  黒髪率90パーの中、見慣れた茶髪の長身野郎が見えた。スタイリッシュ学生だな、あいつ。  「待たせた。」  「お疲れー。」  「腹減った。」  「行くか。」  学校指定のコートはグレーか紺のピーコートで、胸に校章入りの物だそうだ。入学時に色は選べるし、入学後も指定の店で買えるそうだ。蓮は、入学時に選んだままなんだと。  「ふいー、寒かったー。」  「悪かったな。受験があるせいか、話しがしつこくてな。」  「大変だな、俺達来年なのに。」  「在校生からしたら、寝る時間だった。」  ファミレスに入って、出来るだけ窓際を避けた場所に陣取った。  「あ、ブレザーも青なんだねー。」  「え?あぁ、そうそう。セーターは別に何でも良いんだけど、脱ぐつもりなら白なんだよな。面倒くせぇ。」  ちなみに、蓮は黒を着てる  「かー、めんどくせー。何それ。脱ぐなら白って、何それ。」  「うちの学校、イメージカラーが青なんだよ。だから、制服も青が基調だし、校舎の中も青い物が所々にある。だから、イメージカラーを崩さない様に、ジャケットを脱ぐならセーターは白って指定なんだよ。」  「うはー、俺やだー。」  「俺も無理。スカジャン大好き。カラフル大好き。」  「でも、髪の毛自由は良いよね。」  「まぁな。とはいえ、さすがに金髪とか派手な色は指導が入るけど。」  そんな話をしながら食べる物を決め、早速本題に入った。ドリンクバー?頼んだ!!スープが体に染み渡る!!コンポタ超美味い!!  「で、俺のリベンジがどうのって話しだったよな?」  「そう!!」  俺は自分の弟とその彼女について話し、それから皆で出掛けようよという話しをした。  「へぇ、その彼女面白いな。」  「クラスにいる?」  「俺のクラスは割と多いみたいだな。他のクラスはそんな聞かないらしい。俺のクラスは、その辺に落ちてるな。たまに。」  「ブツが?」  「漫画だな、大体。さすがに、ガチの小説拾った時はどうしようかと思ったけど。」  読んだのかよ。と心の中でツッコんだと思ったら、口に出ていたらしい。「タイトルが面白そうだった。」と返事を返されてしまった。表紙のカバーが無く、中身のままだったらしい。タイトルを見てミステリーかと思えば、ガチの小説というオチ。持ち主には返したというか、読んでる所を掻っ攫われたそうだ。後日、借り直したっていう蓮が凄い。  「ストレスかなぁ……。」  「だろうな。割と面白いけどな、たまに借りる。」  「マジで?どんな顔して読んでんだよお前。」  「普通に。エロく無いやつ借りてるし。」  「エロ!!蓮の口からエロ!!」  「賢悟!!今のは春哉様にご報告せねばなるめぇよ……。」  「あたりめぇでさぁ。こんな発言、春哉様に言うしかあるめぇよ。」  「誰だよ、お前ら。何で言うんだよ。」  くっくっ、と笑いながら蓮が言った。  「だって、蓮がBLって。面白い事言わなきゃ損だよ。」  「どこが面白いんだよ。お前の今日の格好の方が面白いと思うけどな。遠目から見てスカジャンは龍司だって分かったけど、どこの子供連れて来たんだと思ったし。」  「あー、羊だよな。超気持ち良い生地だし。」  「羊だけど?」  「自覚してる、だと?」  「悪かったな、お前がずれてるの今気付いたよ。」  「えー、可愛いでしょー?暖かいしさー。」  女子かよ。とか笑っていたら頼んだ物が来て、話しが大分ずれている事に気が付いた。もう1度話しを戻して、俺達の考えに乗るかどうかを蓮に尋ねた。が、そもそもさぁ。と賢悟がお得意のド直球を蓮に向かってぶん投げた。  「マコちゃんのどこが好きなの?」  「ぐふっ!!」  「大丈夫?」  「うん、げふっ、どう、どうぞ、続けて。」  「そ?で、どこ?」  蓮は賢悟をじっと見つめてから視線を逸らし、コーヒーを口にした。俺は黙って、目の前の昼飯を食べ続ける。  「……内緒。」  「何でー。」  「俺だけが知ってれば良い。」  あー、分かるわー。その気持ち分かるわー。  「……まぁ、良いや。で、どう?俺達の話し乗る?」  「んー……何で、そこまでするんだ?好奇心とか、興味ってのは分かるが。」  賢悟が俺を見た。俺も賢悟を見て、口を開いたのは俺。  「だって、皆で幸せになったほうが楽しいし嬉しいじゃん。」  「……人タラシ。」  「春ー、龍司の人タラシが治らないよー。」  「えぇ……何でそんな感じー?」  最後の一口を頬張って、怒ってますという顔をしておいた。蓮が笑った。いかにも楽しげに。いつも大人っぽい蓮が、歳相応な笑顔を見せた。  「ありがとう。何だかんだ、お前らと会えて良かったよ。」  蓮は、俺達の考えに乗ってくれた。条件付きで。  「お前ら2人が誠に隠し事なんて出来ないだろうから、この話はしておいて欲しい。そうだな……蓮が誠に告白するつもりだとか言っておけば良いと思う。それから、別にわざとらしく2人にしなくて良い。勝手にこっちでやるから。知らせはする、見たいんだろ?」  見たいんだろ?そう言って笑った顔は、いつもの大人っぽい蓮の顔だった。  実行日は、バレンタイン前の日曜日になった。  ***  「……龍司、鬱陶しいよ。」  翌日、髪の毛を切った春哉がバスに乗っていた。いつもの場所に並んで座り、俺はじっと春哉の頭を見つめていた。  「……龍司?見すぎだよって。」  「へ?あぁ、ごめん。似合ってるよ。あとで写メして良い?」  「嫌だよ。」  小声でクスクス笑いながら、そんなやり取りをして昨日の話しだけどと切り出した。あの後、家に帰る途中に春哉に連絡をしておいた。賢悟は誠と辰彦に。  「あぁ、うん。誠から連絡あったよ。俺はどうすれば良いんだ?って言ってたから、いつも通りにして楽しんだら?って言っておいた。」  「ありがとう。」  「んーん。皆幸せの方が楽しいし、嬉しいんでしょ?」  「……おぅ……どっちかな?」  「内緒。」  ふんわり笑う春哉に、朝から癒されまくりの俺です。  学校に着いて、玄関や教室で春哉の髪型に皆群がる群がる。俺はその横を歩きながら、ボディーガードの真似事をしていた。  「よぉ、龍司に春哉。髪切ったのか。」  「おはー。」  「おはよう、誠。切ったよ、長さが少し足りなくて君みたいになったよ。」  「だな。夏生さんは、もう少し襟足長かったもんな。」  「うん。」  朗らかに会話をする後ろで、荷物を整理していたら誠が振り向いた。あ、忘れてたりする?俺、今春哉の後ろの席なの。窓際。今の時期、超寒いの。  「皆で幸せになったほうが楽しいし嬉しいって、名言だな。」  誠は、ニヤニヤしながらそう言った。よし、賢悟には後で焼きそばパン買ってもらおう。  「心に刻んでおけよ、ちくしょー。」  「ありがとな。」  「へ?」  鞄から視線を上げて誠を見上げたら、これでもかってくらい甘ったるい笑顔を俺に晒していた。この顔を女子共がみたら、発狂すんな。  「……おぉう……。」  「何つう顔してんだよ、アホ。」  でも一瞬で消えてしまって、勿体無かった。まぁ、春哉の方が甘ったるい顔してくれるんですけどね!!本人無自覚っていうオプション付きで!!  「す、すんません。」  「で、いつだっけ?」  「14日前の日曜。」  「場所は?」  「皆大好き夢の国。」  「……王様ゲームか。」  「女王様を喜ばせないとね。」  女王様。という、弟の彼女を。  その日の昼休みは、少し先のバレンタインとイベント事についてで盛り上がった。  ***  年が明け、寒い時期が続く。初めて好きな相手と2人きりで眠った事は、まさか初夢かと疑う時がまだある。全て現実だと、その都度教えてくれる龍司の声がありがたい。  1月は行事も無く、淡々と在校生は日常が過ぎる。だが、3年生と教師陣。弟や、妹。はたまた姉か兄がいる人達は、どこかそわそわと浮き足立っている。当たり前だ、推薦入試の時期だからだ。ついでに言うと、今日は龍司君とその彼女が行こうとしている学校の入試日でもある。俺達が通う学校も、今日は休校。誠の家に集まっている。前原は、予備校らしい。  「……ちょっと、龍司うざいんだけど。」  「我慢しなよ、賢悟。今日は弟君の推薦の日なんだから。」  そんな日だから、龍司は窓に向かって祈りのポーズをしている。賢悟はそれがうざいと言っている。  「つうか、お前祈ってもその学校真逆だぞ。方向。」  「……早く言えよ!!マコちゃんのバカ!!」  「バカはお前だろうがよ……神様にでも祈っておけよ。」  「それもそうだ。神様仏様春哉様!!」  「何で僕まで。」  しかも、拍手まで。俺に罰が当たりそうだ。  「ご降臨されるからじゃない?」  辰彦はニコニコと俺を見て言った。反論が出来ない。あれはもう、テスト前の儀式だ。  「でも、叫ばれるのはなぁ……。」  「うん、それはねぇ。」  先程までうざいと言っていた賢悟も、結局は友人の弟でもうすぐ一緒に出かける相手。隣に並んで同じ体勢で、同じ事を叫んでいる。やめて欲しいものだ。  「あ、そう言えば誠はバイトの日調整出来そうなの?」  「ん?あぁ、出来たんだよな。珍しく。」  そう言って雑誌をテーブルに置き、後ろ側へと手を伸ばす。ジャケットの中から半分に折られた紙を出し、俺と辰彦の方へと差し出した。  「……あ、でも14日は入ってるんだね。」  「総出でイベントだからな。」  「よく、日曜日でしかもイベント直前に貰えたね。」  「あぁ……それなぁ。何か、女と出掛けるみたいな考えが出たらしい。まぁ、当たってるっちゃ当たってるから黙ってたけど。」  「そう、でも取れたなら良かった。」  「そうそう、良かった。」  「まぁな。」  龍司と賢悟は、日が暮れるまで誠のベッドの上で祈り続けた。  ***  淡々と進む日常は過ぎるのが早く感じる。1月は末になり、もう2月。今日は、弟達の合格発表の日だ。彼女は両親と後から来るそうで、楽しみは取っておこうと少し早めに弟と一緒に見に来た。  「……まぁ、あるよな。」  どっからそんな自信が来るんだろうな。悲喜交々だっけ?あれ?まぁ、いいや。周りは泣いてるのやら、喜んでいるのやら明暗がくっきりと分かれている。  「書類貰ってくる。」  「ほいよ。」  この学校、振込み系は後かららしく。俺は1人、掲示板の前から離れて桜らしき木を見上げて待った。  弟ももう、高校生か。  しんみりとそんな事を思ってぼうっとしていたら、隣に龍太が戻ってきていた。  「どうした?」  「そっちこそ、どうしたんだよ。」  「んー?お前ももう、高校生になるんだなぁって。」  「そりゃなるよ。」  「……おめでとう。新しいバッシュ位、俺が買ってやるよ。」  「いいよ、別に。」  「お祝いだろ?」  「いい、本当に。春哉さんの為に取っておいてよ。その代わり、皆と出掛ける時に何か買って。」  「良いよ、分かった。」  まだ咲く様子のない木を2人で見上げながら話しをして、一緒に帰った。その途中、彼女も受かったと龍太が言った。俺もグループラインで、龍太も彼女も受かったと報告をした。  その日は1日、俺の携帯は鳴りっぱなしであっという間に電源が落ちてしまった。  日が昇って、日が落ちて。  日常は確実に進んで、俺達兄弟を物理的に成長させる。  俺はもうすぐ、高校3年生になる。身長は、180ジャストでストップしたかもしれない。  弟はもうすぐ、高校1年生になる。今の身長は、168らしい。いずれ、誠みたいに180越えるんだろう。  心ちゃんは、小学校2年生になる。まだまだ春哉と夏生さんに甘えたがっている。  春哉は髪型を変えても、変わらず俺に微笑んでくれる。手を握ってくれる。俺の隣を歩いてくれる。  高校3年生なんて、あっという間だろう。瞼の裏に焼き付ける様に、皆との記憶を消さない様に、春哉と一緒に笑える様に、思い出を沢山作れたら良いな。

ともだちにシェアしよう!