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第6話 三条①

 ――先に飲んだ薄紅色の薬酒の効能を、三条はすぐに知ることとなった。  閨の前に身を清めるため、三条は湯殿に連れて行かれた。  酔いでふらつく体を温かい湯船に沈めると、一気に酒が回って体の熱が上がった。酔いが回ると同時に、薬酒が全身に行き渡ったらしい。体のそこかしこが敏感になり、頭がぼんやりしてくる。あの酒に混ぜられていたのは媚薬だったようだ。 「今宵は主との初夜ですから、念入りにお清め致します」 「……っ、あ……!」  世話役はそう言って、薄い浴衣越しに小狐丸の全身を撫でさすった。  濡れて貼り付く布の上から、世話役の指が敏感になった肌の上を滑っていく。清めると口で言いながら、その繊細な指使いは性感を高めるためのものだ。腋の下に指を入れて擽り、鎖骨とその上の窪みを撫でまわした後、指は濡れた生地を押し上げる胸の突起に辿り着いた。 「んん……っ」 「ご辛抱なさいませ。ここは特にしかと清めておかねばなりません」  乳首を抓んで浴衣の生地で擦られると、ビリビリとした疼きが下腹に走った。捏ねるように指先で潰されて息が上がっていく。池田屋ではここを弄られても今ほど感じることはなかったのだが、今のこれは媚薬の効果だろう。肩で吐息をつくうちに、湯船の中で裾が舞い、少年らしく勃ち上がったものが着物を割って先端を覗かせた。  媚薬と酒で頭がぼんやりする三条は硬くなったものに触れようとしたが、世話役はそれを見越したようにやんわりと手を払いのける。 「そこには主の許可なく触れてはなりません」  世話役は三条を促して湯船から出させると、湯船の縁を持たせて膝立ちにさせた。背後に回って浴衣の裾を捲り上げ、丸みを帯びた尻を露出させる。恥ずかしいと思う間もないほど、淡々とした作業だった。 「今から油を込めます」  濡れた指が円を描くように菊門を撫でていたかと思うと、次いで硬い物が差し込まれた。油の注ぎ口のようだ。温まった液体が腹の中に注がれるにつれ、下腹が鈍い痛みを発する。酔いも回っている三条は、苦しさに湯船の縁にしがみ付いた。 「中は清めてこられましたか」  言いながら、太い指が無造作に菊座の中に入りこみ、油と共に中に残ったものを掻き出した。 「は、はい……ッ」  元服式の最後、白無垢に着替える前に小狐丸は洗浄を受けていた。それに今日はほとんど固形物を口にしていないので、汚れはそうないはずだ。 「よろしゅうございます。では最後に華玉をお挿れ致しますので、力を抜いて楽になさいませ」  処置の出来を淡々と確かめると、世話人はもう一度菊座の中に油を注いだ。そして、その油が外に出るのを堰き止めるかのように、凹凸のある柔らかい異物を菊座の中に押し込んできた。 「や、ぅ……っ」  驚いて声が出たが、押し込まれたものはさほど大きなものではなさそうで、三条はホッと息をついた。  濡れた紐状のものが内股に触れる。三条は伏見の体内から出てきた淫具を思い出していた。満開の大菊を象った、優美で残酷な責め具を。 「華玉はお部屋様に貞操を守っていただくための道具となります。今お挿れしたものは桔梗の花で、華玉の中では最も小振りの一つです。しかし、時が経つにつれ中に入れた油を吸うため、幾分大きくなるものだということはお含みおきください」 「……承知しました」 「これからお部屋様には、主の出御がある夜には必ず今と同じ処置を受けていただきます。華玉を外す許可が出せるのは主のみ。すなわち、お閨に呼ばれなかった夜は、朝まで華玉を収めておかねばならぬとお心得えくださいますよう」  後孔から垂れ下がる四本の紐を、世話役は慣れた手つきで結んでいく。まずは二本の紐で、袋に収まった二つの玉を分けるように紐をかけ、雄芯の根元を縛り付ける。残る二本は腰から前に回してきて、雄芯を縛める紐と合わせて臍の位置で蝶に結んだ。  薬酒の効能で敏感になった体は、紐に結ばれるだけでもう痛みがあった。こんな状態で朝まで放置などされたら堪ったものではない。  三条はたっぷりと油を吸って膨らんだ大菊を思い出した。伏見は二度目の華玉を入れられずに済んだだろうか。そして次の出御の日、閨に呼ばれず朝まで苦しむのは、果たして己と伏見のどちらだろうかと思いを馳せた。  湯殿を出た三条は、水気を拭き取った体に白い寝間着を羽織って、支度のための小部屋に通された。濡らさぬように結い上げてあった髪を下ろし、少しの椿油をつけて丹念に梳る。眦と下唇には鮮やかな紅を差し、華玉の結び目を隠すように臍の位置で帯を結んだ。支度はそれで完了だった。 「では、御寝所に案内いたします」  世話役が立つよう促したが、三条は立てなかった。支度の間にすっかり猛った雄芯に紐が食い込んで、じっとしているのも苦しい状態に陥っていた。  火照った体に食い込む紐の厳しさは、結ばれた当初よりも時間が経つほど増してくる。  三条はまともに歩くことができず、世話役の肩を借りて何とか主の寝所に辿り着いた。用意された布団の傍らで主の出座を待つ間も、座って待つのが拷問に感じられるほどの苦しさだった。  そんな状態だったからこそ、寝間着姿の主が入ってくるのを見た途端、三条は身を投げ出して平伏した。 「ああ、待たせて悪かったな。辛かったか」  涙ぐんで嗚咽を堪える三条に、男は優しい言葉を掛け、傍らに座った。 「ぬしさま……どうか、お情けをくださいませ……」  早く帯を解いて欲しいと、三条は肩に添えられた男の手を取って帯の結び目に導いた。  呼吸するたびに尻の中に収まった華玉が内側の勘所を押し上げる。刺激を受けていきり立つ陰茎は、根元を縛られているために興奮すればするほど痛みを訴えた。痛みに体を強張らせれば、袋の根元は引っ張られ、尻の中の桔梗はますます体内を押し上げて、苦しみはいや増すばかりだ。 「おや、此度の華狐は随分な欲しがり屋だな」  帯に押しつけようとする手を、男は焦らすように躱して腰をさすった。  それをもどかしがる三条は膝立ちになり、足を崩して座る男の腿に手を這わせた。不興を買って酷い仕置きを受けるかも知れぬとは思ったが、我慢ができない。男の顔色を覗いながら、その手をそろりと奥へ滑らせると、男はますます面白そうに笑った。 「……伯父から手解きは受けてきたのか」  空いた手で唇を撫でられて、三条は男の言わんとしている所を察した。唇を撫でる指を口に含み、わざといやらしい音を立ててそれにしゃぶりついた。 「っ……木型ではありますが、教えは受けて参りました」  指先を亀頭に見立てて舌先で愛撫する。男は目を眇めると、無言のまま足を胡坐に組み直し、力を持ち始めた肉の凶器を見せつけた。 「…………」  一瞬の躊躇が、三条の動きを静止させた。  男の持つ凶器は、池田屋で見た日本号や大立と比べることはできないが、三条が身の内に収めて慣らしてきたどの張り型よりも大きかった。しかも、舐めて奉仕すれば今よりもさらに大きく猛るはずだ。これをまともに受けることができるだろうか。  だが考えても仕方が無い。そうするより他ないのだ。  怖じ気づく己を、下腹の疼きが早くせよと追い立てる。三条は覚悟して男の股ぐらに顔を埋めた。 「……う……」  木型と違って、生身の肉茎は微かな匂いと味がある。その上、唇に含んで舌を這わせれば、生き物のように口の中でむくむくと育ち始めた。  歯を立てぬよう気をつけながら、三条はそれに丁寧に舌を絡ませた。己が触れられて気持ちよかったところ、今まさに触れて欲しいところを舌で念入りに愛撫する。生憎、奉仕の見返りに与えられる快楽はなかったが、体はすでに十分以上に火照っていた。  早く華玉から解放されたくて、三条は不快を覚える暇もなく必死にそれにしゃぶりついた。 「ふふ……お前は可愛いな。――もういい。解いてやるから、そこへ横になれ」  男が笑って許しを出すのを聞き、三条は用意された布団の上に横たわった。 「さて、咲き初めの華を愉しもうか」  前で結んだ寝間着の帯が解かれた。  前袷を開かれると、体に残る酔いに期待が加わって、顔がカッカと熱くなるのが分かった。男はその様子を見ながら、汗ばんだ肌に指を這わせる。 「あ……」  乳白色の肌の上を、男の指先が辿っていく。首筋を、耳元を、そして鎖骨から期待に張りつめて尖る淡い色の乳首の上へ。 「アッ」  指先で乳首をピンと弾かれて、三条は甘い悲鳴を上げた。  根元を縛められた屹立が、膨らもうとして痛みを訴える。中途半端に勃ち上がって揺れるせいで、袋の根元の縛めと尻の中の華玉が引っ張れて、切なさがますます募った。 「ぬしさまぁ……」  顔をくしゃりと歪ませて、三条は胸を弄る男の手を取り指を絡めると、それをもう一つの結び目に導いた。 「どうか……こちらも解いてくださりませ……ホトの中に、ぬしさまのおのこが欲しゅうございます……」  意識せずとも自然と甘え強請る声が出た。男は叱る様子もなく身を屈め、指で弾いた肉粒に唇を寄せた。 「もっと焦らして虐めてやろうと思ったのに、お前は強請り上手でいけないな」  張りつめた乳首を唇に挟んで甘い声を上げさせながら、男は片手でもう一つの結び目を解いた。急いたように腰を浮かせた小狐丸の後孔から、思いの外優しい手つきで桔梗の華玉を抜き取ってくれる。  だが、前の解放を期待する三条の両足を、男は深く折り曲げ、油で濡れる小さな口に自身の砲身を宛がった。 「――破瓜するぞ、三条」  待ってほしい、と乞う暇も無かった。  初めて味わう太さの怒張が、まだ緩むことを知らない肉の環を押し広げる。怯えて縋り付く手を自らの背に回させて、男はゆっくりとだが、確実に楔を打ち込んできた。 「……こわ、い……」  習い覚えた通りに口を開けて息を吐きながら、三条は震える声を上げた。  先程まで口に含んでいたあの怒張が、本来そのためにあるわけではない肉穴を蹂躙するのだ。十五になったばかりの体は、背ばかりは年に似合わず伸びたものの、まだまだ未成熟でほっそりしている。ただでさえ鍛えようのない場所を、残酷な支配者である男の凶器に捧げねばならないことは、経験の浅い三条に強い恐怖を抱かせた。  けれど、相手は決して逆らってはならぬ本丸の主だ。恐ろしかろうが痛かろうが、これが己の役目と覚悟して受け入れる以外に道はない。 「……っ……、あッ!……」  時折体を強張らせながらも懸命に息を吐く三条の唇に、男は容赦なく身を沈めながらも、宥めるような口づけの雨を降らせた。  一方的に落とされるばかりだった口づけは、次第に鳥が花の蜜を啄み合うようなものになり、やがて舌を絡め合う濃厚なものに変わっていった。  音を立てて舌を吸い、互いの唇を甘く噛む。最後に唇を離れた男の頭が耳元に埋まった時、三条は主の逸物が己の体内に深々と突き刺さり、肌と肌が密着していたことを知った。 「……あぁ、入っております……ぬしさまの、おのこが……」  下腹の奥にずしりと重みを感じるほど大きなものが埋められているのを、三条は感じた。 「ああ、全部入ったぞ。良く堪えたな」 「ぬしさま……」  労いの言葉を掛けられると、三条の胸は思いもかけない幸福感に満たされた。  元はと言えば顔も知らぬ男だ。  生まれた瞬間からこの男の所有物になると定められてはいたものの、その顔も人品も何も知らぬままここへ送られて来た。無論望んできたわけではないし、他に身を繋げたいと恋い慕う相手さえいた。それなのに――。  男の持つ猛々しい牡に身を穿たれて、押し殺した荒い息づかいや触れ合う胸の鼓動を感じていると、己でも不思議に思うほどの慕わしさが湧いてきた。今ならば魂で分かる。己はこの男のために世に生まれてきたのだし、この男に愛でてもらうことこそが生きている理由だ。己の全てはこの男のためだけに在ったのだ。  男に愛でられ、身を捧げることができて三条は幸福だった。 「ぬしさま……小狐は嬉しゅうございます……」  嬉しくて、幸せで、この気持ちをどうやってか伝えたい。  力いっぱいにぎゅっとしがみつくと、静止していた男が苦笑いを漏らした。 「分かったから。そろそろ動いてもいいか、三条」  衣擦れの音とともに、ぐちゅぐちゅと濡れた音が寝所に響いた。それに重なるように、三条の喘ぎが上がる。 「ぬしさまぁ……ぁッ、もう腹が、おかしゅうなって……あぁッ」  男は三条の両脚を肩に担ぎ、凶器を浅く出し入れして腹の中を責め立てていた。池田屋で習い覚えた、一番感じて心地よい場所だ。そこを長々と責められ続けて、下腹はすっかり蕩けてしまっている。男から与えられる悦楽の深さに、三条は啜り泣きを漏らした。心地良すぎて怖くなってしまう。雄芯を縛り付ける紐の苦痛さえ、甘く感じられるのだ。  前の縛めを外してくれと、三条は何度も頼んだ。だが男はつれない口調で『俺が中に出すまでは駄目だ』と言って許してくれない。ならば早く満足してもらおうと懸命に尻を振ったが、男は余裕たっぷりに腰を使うばかりで一向に終わりを迎える気配がない。陥落したのは三条の方だ。 「……果てる、ッ……」  太い凶器に腹を突かれ続けるうちに、腰が砕けそうなほどの痺れと怠さが襲ってきた。時折稲妻のような感覚が腰を打ち、腹から鳩尾に掛けて絞るように熱くなる。閉じた瞼の裏が真っ白になり、幼子のような泣き声が漏れた。――姫逝きだった。 「好いか」 「好い、です……蕩ける……ああぁ、蕩けちゃうぅ……!」  繰り返し襲ってくる快楽に、三条がヒンヒンと情けない声を上げても、男は動きを緩めはしなかった。桜色の乳首を抓み、敏感になった内股の柔い肌を愛撫する。まるで全身が性感帯になってしまったかのように、男の手が触れるところすべてに小さな稲妻が走った。 「ぬしさま……もう、だめぇ……もう、小狐のホトを虐めないで……ぇ……」 「……小狐」 「……あッ!」  限界を超えた愉悦に三条が袖を掴んで泣き縋ると、急に男の動きが変わった。自制の効いた単調さが失なわれ、律動が力強いものになる。囁く声が情欲に高まって掠れた。 「お前に種付けしてやるぞ。神気の混じった精液を、お前の腹の底にたっぷりと!」 「ん! ぅううぅ――ッ!」  深く入り込んでくる質量に、無意識のうちに逃げ掛かった体は男に引き戻された。脚を肩に担ぎ上げて浮かせた逃げ場のない姫穴に、荒ぶる姿となった男の武器が根元まで突き入れられる。  腹底を突き破られるような気さえして、三条はもがくように身を捩ったが、男は容赦しなかった。少年らしい薄い下腹を押さえ、最奥をこじ開ける勢いで突き上げる。 「……や、あ……っ、それ……だ、め……っ……」  奥を抉られると一瞬気が遠くなる。三条は哀願したが、男は一層強く奥を責め、三条は絞り出すようにヒィッ、ヒィッと引き攣った声を上げた。  男に一突きされるたびに気が遠くなる。失神しかけては己を取り戻すのを繰り返すうちに、三条は気が遠くなる感覚そのものが、今まで味わったこともないような深い悦楽と繋がっていることに気が付いた。  獣のように吠えながら昇天した太夫の姿を思い出す。今まさにこの身の内から襲い来る快楽の波が、あの時太夫を叫ばせた凄まじい絶頂なのだ。 「ああぁ……逝く……いくぅ――……ッ!」  縛められた雄芯から滲み出た蜜で、腹の上はいつの間にか濡れそぼっていた。  腰を入れられるたびに、肺腑から息が押し出されて『アッ、アッ』と声が漏れた。男の動きはますます激しさを増す。激しい突き上げは、苦痛でもあり、同時に快楽でもあった。 「出すぞ、三条……!」  朦朧とする意識の中で、低い宣言の声が辛うじて聞きとれた。それと同時に、腹の中にドッと熱いものが溢れ返ったのが分かった。  神気を帯びると噂される男の精は、体内に広がると同時に三条の神経を焼き尽くす熱へと変わる。鳩尾を殴られたかと思うほどの焼けるような熱。総毛立つような昂りと震えが、鳩尾から脳天に向けて鋭く走り抜けていった。 「ぁああ――――ッ……」  駆け抜けていく熱に、頭の芯が真っ白に焼け爛れていく。己を形作る肉体のすべてが白い炎の前に焼き尽くされ、三条は全身がふわりと床から浮き上がるような感覚を覚えた。 「――そら、たっぷりと神気を食らえ」  男が胴震いして最後の精を吐き出した。  三条の閉じた目の奥に、どこかで見たことがあるような、一振りの太刀の姿が浮かび上がった。

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