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第7話 三条②

 深い余韻は、いつまでも三条の頭の芯を痺れさせていた。 「……姫穴を締めろ、三条。折角入れた種が零れてしまう」  夢うつつの意識の中、男が命じる声だけが認識できた。三条は己が置かれた状況も分からぬまま、声に言われるとおりに痺れたような菊門に力を入れる。腹の底に温かい力に満ちたものが注がれたことは分かっていた。これが己にとって大切なものであるということも。 「そう、良い子だ。お前は素直な良い刀だ……」  褒めて貰えると、ただ嬉しい。  三条は甘えるように、すぐ傍らで添い寝する男に身を擦り寄せた。  男との初めての交合は激しかったが、その分、得た愉悦も今まで想像したこともないほど大きかった。まだ全身に甘く怠い余韻が残り、意識はそこを揺蕩っている。  その心地よさを反芻するうちに、無意識のうちに腰を男に擦りつけてしまっていたらしい。 「お前はなかなか雄っ気が強いやつだな」  男が苦笑して、三条が擦りつけていた雄芯を手に取り、柔らかく撫でてくれた。 「あ……もうしわけ……」  恥じて腰を引こうとするのを『良い、良い』と引き寄せて、男は硬さを取り戻しつつある若い竿をゆるゆると愛撫した。気を失っている間に縛めは解かれ、触れられて湧いてくるのは混じり気なしの快感だ。 「雄っ気を失っていないのはむしろ良いことだ。俺は八日に一度、それも夜にしかこちらに来られない。お前には女中をつけておくから、日中はしっかり励んで女を孕ませろ。見目と気立てのいい女を選んだつもりだが、好みがあれば世話役に言って何人でも用意させればいい」  寛大とも取れる男の言葉に驚いて、三条は思わず男を見つめていた。  深い姫逝きの余韻でまだ頭の芯がぼんやりするが、今男は三条に女を宛がうと言ったのだろうか。 「よい、のですか……」  不思議そうに問う三条に、男は声を上げて笑った。 「ああ、子を孕める女なら何人でも侍らせていい。何しろお前の祖父の花山は、俺にたった二振りしか『小狐丸』を授けてくれなかった。伏見に至っては、お前だけだ。もしもお前が首尾よく『小狐丸』を顕現させられたら、その度に望みの褒美をくれてやろう」  深い余韻に浸りつつ、その上雄芯に愛撫を受けていた小狐丸には、男の言葉が半分も理解できなかった。分かったのは、女を孕ませて『小狐丸』が生まれれば、褒美を貰えると言うことだけだ。 「望みの……褒美を……?」  手の動きに合わせて腰を揺らしながら、三条は男に問いかけた。男は笑って頷いた。  ――もしも伯父をここへ呼んでくれと望めば、男はそれを叶えてくれるのだろうか。  三条は媚薬と悦楽の余韻に痺れる頭で、主から与えられる褒美を思い描いた。  女中を侍らすように、あの美しい伯父を身の回りの世話係としてここへ呼び寄せる。厳格な伯父は三条を軽蔑し、憎み嫌うかもしれないが、贅沢は言うまい。本来手に入らなかったはずものが手に入るのだから。  伯父をこの本丸に呼び寄せたなら、池田屋で伯父が三条にしたように、今度は三条が伯父に華狐のお役目というものを教えてやろう。腹が蕩けてしまいそうなこの快楽を、冷たい貌をした伯父に味合わせてやるのだ。透き通るような頬が紅潮し、涙を浮かべて喘ぐ姿を見てみたい。 「ぬしさま……三条はぬしさまのお心に叶うよう、精一杯励みまする」  絶望に満ちたここでの暮らしに望みが出てきた。  にわかに目を輝かせ始めた三条に、男は含みのある笑みを浮かべた。すっかり勢いづいた雄芯を男は一撫でする。そこは今の夢想で硬く聳え立っていた。 「では、手始めに。女というわけには行かぬが、筆下ろしを済ませておこう」  男は添い寝していた傍らから身を起こすと、肩に寝間着を羽織って立ち上がった。  布団から降りて、寝間を仕切る襖に近づく。ここへ来た時には緊張しきっていて気づかなかったが、襖を隔てた奥に続きの間があるらしかった。 「さぁ、三条。今度はおのこに戻って、これを姫逝きさせてみせよ」  男が、金地に松の模様が描かれた豪奢な襖を大きく開けた。  奥にあったのは男のための小さな居室だった。広くはないが、手の込んだ調度が品よく配置されている。  いくつもの行灯で明るく照らされた部屋の中、白い肌をした一人の人間が、まるで調度の一つであるかのように、手足を縛られて布団の上に這いつくばっていた。  ――伏見だった。  三条は男に招かれるまま、居室の中へと足を踏み入れた。  布団の上の伏見は手首と足首をそれぞれに結びつけられ、腹の下には台を入れられて、尻を掲げる姿で据え置かれていた。声を出せぬよう、口には馬の轡のごとく太い竹筒が噛まされ、首の後ろで結ばれている。  三条がこの寝所に来る前から放置されていたらしく、全身にじっとりと汗が滲み、涙に濡れた頬には髪が張り付いていた。 「お前に飲ませよと命じた薬酒を誤魔化したのでな。手癖の悪い狐を仕置きしていた」  男は伏見が薬酒を半分引き受けたことを知っていた。  あの薬酒には、強い媚薬が入っていた。伏見はそれを知って三条を助けてくれたのだ。まだ若く体も出来上がっていない三条には過ぎた量だと思ってくれたのだろう。  だが、弁明が無駄なことは分かっていた。おそらく、それこそが男の目論見だったのだ。  男はわざと許容量を大きく超える薬酒を用意させた。命令通り全てを三条が飲み干して、初夜の床で狂ったように悶えるも良し。伏見が助け船を出すならば、それを口実に責め苛むも良し。  三条は改めて思い知った。  この本丸で生きて行くには、この男の言葉に逆らうことは決してしてはならないのだと。 「伏見を姫逝きさせることができれば、今宵のお役目は良しとしよう。伏見もこれで仕置きを終いにしてやる」  できなければ、と三条は問わなかった。  男が次にこの本丸へ来るのは八日後の夜だ。それまでの間、伏見にどのような罰が科されるのか、三条には想像も付かない。  三条は怠さと疼きの残る体で、伏見の元へと歩み寄った。 「……ウ……ゥウ!……」  竹筒を咥えた伏見が何かを訴えて首を振る。近づいて見てみれば、形良い尻肉の両側には鞭打たれたような赤い痕がいくつも付いていた。赤子のように無毛の姫穴には、緑色の紐が吸い込まれている。二度目の華玉を免れることはできなかったらしい。  三条は束となった紐を掴むと、ゆっくりとそれを引き出した。真紅の細い花弁が次々と零れ出てくる。入れられてあまり時が経っていなかったのか、先程の菊花よりは余程楽に出てきた。零れ出た絹の細工は、燃え盛る炎のような彼岸花だった。  華玉が抜けた後を、薄紅色の液体が溢れ出てきた。あの媚薬の酒を姫穴に注ぎ入れられて、華玉で栓をされていたのだ。  尻の中に酒を注がれると回りが早くなることは、池田屋で見て知っていた。もじもじと悶える伏見の局部は、先程までの小狐丸と同じく、袋と竿の根元を紐で縛められている。酒と媚薬に酔わされどれほどの快楽に喘いでも、伏見に男としての終着はない。おなごのように姫逝きする以外ないのだ。  憐れに思うより先に、下腹がぐっと重くなった。 「伏見様……」  小狐丸は父であるはずの華狐の名を呼んで、淫靡に収縮を繰り返す肉壺の中に指を差し入れた。 「ンッ! ンンッ!」  嫌がるように身を捩りつつも、伏見の体内は粘るように指をしゃぶってくる。  清廉な武人のごとく取り繕っているが、伏見は十五年以上も本丸で過ごし、この男に飼われていたのだ。淫らな肉体へと、変貌を遂げていないはずがなかった。 「……ン、ンンン――ッ……ッ!……!」  指で中を擦ってやると、伏見の煩悶が激しくなった。  根元を扼された立派な砲身が指の動きに反応して揺れ、台の隙間に蜜を垂れ零す。熟れた肉を持ちながら、凜とした佇まいでその本性を隠す伏見を、主は殊の外愛でているのかも知れない。清らかさを失わぬ頑なな伏見だからこそ、完全に屈服するまで追い詰め、取り繕う余裕もないほど乱れさせたくなるのだ。  三条は自らの武器を手で駆り立てた。  姫逝きの快楽に溺れて鳴りを潜めていた猛々しさが戻ってくる。媚薬もそれを助けた。  若さゆえに、鋭く尖った太刀のような屹立を構え、三条は目の前で蠢く肉の穴にそれを宛がった。 「ンンッ!……ンンン――――ッ!」  止めてくれと、伏見は哀願しているようだった。その悲痛な叫びが若い性を余計に煽る。父であり先代の華狐である伏見を、完膚なきまでに叩きのめして、一匹の牝に貶めたいという凶暴な衝動が、三条に荒々しい言葉を吐かせた。 「嫌ならば、姫逝きせぬよう堪えていなされ!」 「ン――――ッ……!」  逃れようと悪あがきする尻を一つ平手打ちし、動きが止まった隙を突いて三条は父の後孔を貫いた。 「ン、ン、ン――……ッ」 「う……、くっ……!」  蠢く肉壺は熱かった。  若い屹立を四方から包み込み、吸い付いてくる。その上この蜜壺の中には媚薬の酒が満たされていた。焼けるような熱さが直接沁み入ってきて、すぐさま精を漏らしてしまいそうな感覚を与えられる。グズグズしていると共倒れだ。  馴染む間も待たずに突き上げを始めると、伏見が鼻に掛かった喘ぎを漏らして、応じるように腰を振り始めた。  三条が己の雄芯で他人の肉を割るのはこれが初めてのことだった。だが伏見の尻穴は想像以上に良く締まり、若い精を吸い取ろうと絞り込んでくる。熱くて柔らかい媚肉が亀頭に絡み、ぬめる肉環が竿を扱き上げた。 「あ、あぁ……っ」  声を漏らしたのは三条の方だった。見た目にそぐわず、貪欲な伏見の肉。  伏見を姫逝きさせるどころか、食らい付くされるのは三条の方だった。 「……ちちうえ……っ」  ―持って行かれる。それを制止しようとした三条は、思わず禁じられた名で伏見を呼んでいた。 「こらこら。ここではそんな風に呼び合ってはならんと言っただろう」 「……あッ……ぬ、ぬしさま……ッ」  叱責の声と共に、三条は背を押されて伏見の背中の上に倒れ込んだ。伏見と繋がったままの尻肉が背後から割り拡げられる。まさかと思う間もなく、閉じたばかりの姫穴を巨大な肉の凶器が抉じ開けた。 「あぁッ……ぬしさま……!」 「お前には荷が重そうだから手伝ってやろう。そら、行くぞ!」 「……あ、あああッ……ひッ!」  一気に根元まで収まった楔が、体奥の壁を突き上げる。  おなごの穴を抉られる苦しさと、気を失いそうなほどの悦楽。おのこの部分を締め付け喰いついてくる蜜壺の心地よさ。体を駆け巡る媚薬の酒の熱。 「あああぁぁ……!」  三条は理性を手放し、前後から襲い来る快楽の波に全てを委ねた。経験浅い三条にはそれ以外にどうしようもなかった。 「……ああ……ぁあああぁ、……ァア――――ッ」  波に揉まれるように体を振り、善がる声を振り絞る。じっとしていれば尻を穿たれ、前を絞られるだけだ。――だが、身を捩っても逃げ場は見つからなかった。  命じられたことがなんであったか、三条はもう思い出せなかった。前から後ろから……おのこの部分もおなごの部分も、どちらも貪りつくされている。 「……ンゥッ、ゥウッ……ウ――――ッ! ……ゥウウ――ッ!」  堪えようとしていたはずの伏見の呻きも、いつの間にか箍が外れたように高まっていた。  声質のよく似た二つの嬌声が、高くなり低くなり、重なり合う。それに肉を叩く音と濡れた水音が混じった。  本丸に囚われた明神の化身は、一人の男の支配を受ける定めだ。夜明けまでしかいられぬと男は言ったが、月はまだ中空にあり、空が白むには遠かった。  噎び泣く二つの声は競い合うように高くなって掠れ、やがて絶え絶えに途切れていった。

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