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第8話 蕾①

 ――男がこの『国』を訪れるのは、何時も夜だ。  目を閉じて、一から順にゆっくりと数を数えるうちに、足下から何かが歪む感覚が生じる。闇がひと際濃さを増し、触れる空気は纏わりつくように重く変わり、体は底なしの沼へと沈んでいくかのように。足の先から這い上がってくるその違和感が、体の内側をじわじわと通り過ぎ、静かに退いていくのを待って、男は閉じていた両目を開ける。  そこはもう、男が支配する世界だった。  夕闇はまだ浅く、月は低い位置で輝いていた。  いつもより随分早い時刻に来てしまったが、果たして計画はうまくいったのだろうか。  男の目の前にある襖絵は、見慣れた松ではなく、藤の花を描いたものだった。どうやらここは家臣である黒田の屋敷のようだ。  襖を開けると中にいた者達が一斉に男を振り返った。 「これは……、お早いお越しで」  突然現れた男に、部屋の奥にいた当主の黒田は驚きを隠せない様子だ。だが、命令は忠実に果たしたらしい。今にも泣き出しそうに怯えた美童を傍らに座らせていた。 「案内も請わずに来てすまないな。首尾がどうなったか気になって、待ちきれなかった」  これ以上怯えさせないようと、にこやかな笑みを浮かべながら、男はゆっくりと童子に近づいた。入れ違いに、部屋に待機していた男たちが無言のままに退室する。残ったのは男と当主の黒田、それに幼いながら華のように美しい一人の童子だけだった。  男は童子の前に進み出て、その姿をじっくり観察しようと正面に腰を下ろした。  童子は確か十になるはずだ。  昔からの慣例で、公家の姫君のような白の小袖と緋色の打袴を身につけ、その上に家紋を地模様に織り込んだ鮮やかな銀杏色の袿を羽織っている。まるきり幼い美姫にしか見えないが、性別は男子だ。  その肩に降りかかる細く柔らかい髪の色は白銀。磁器のような滑らかな肌は透き通るように白く、鮮やかな紅色をした瞳の色が色白の肌によく映えていた。――子どもながら、男がいまだかつて目にした覚えがないほど完成された美貌を持つ『小狐丸』だった。 「おいで」  男は微笑みを浮かべ、柔らかい声で童子を呼んだ。怯えて警戒するばかりだった童子に、僅かな動揺が走った。  由緒正しい社から見ず知らずの男どもに攫われてきて、さぞかし恐ろしかったのだろう。そこに現れた男の優しげな様子に、気持ちが揺らいでいるのに違いない。 「ほら、ここへおいで」  男は焦らず、胡坐をかいた膝の上をぽんぽんと叩いた。  幼いながら気位の高そうな顔をした童子は、傍らに座した黒田に一瞬視線を走らせた。その後、逃げ込むように一気に男の腕の中に入ってきた。 「怖い思いをしたか。どこか痛いところはありはしないか」  背の中程まである髪を指で整えてやりながら、男は猫撫で声を出す。黒田の顔を警戒心も露わに睨みながら無言で首を振る童子を、男は抱きかかえるようにして膝の上に座らせた。  それは今までに抱いたことがないほど軽い体だった。  それもそのはずだ。華狐が男の元へ輿入れするのは十五の元服式を終えてからと決まっている。他ならぬ男がそう決めたのだ。十五という年齢は人間で言えば思春期の多感な年頃で、ちょうど性に目覚め始める歳でもある。いわば咲き初めの花だ。  これを決めた時には、無垢で純粋な『小狐丸』を手に入れられると喜んだものだが、馳走も毎日口にすれば特別なものではなくなってしまう。男はもっと青く硬い、花開くには早すぎる蕾も味わってみたくなった。 「良い子だな」  これから我が身に何が起こるかを知りもせず、童子は男の腕の中に囲われていた。あまりに可愛らしいので、噛み潰してしまうのが勿体なく思えるほどだ。  だが『小狐丸』はこれからも幾振りも生まれる。黒田が当代華狐の元へ差しだした娘も、先月白髪赤目の男子を産み落とした。たった一振り無惨に叩き折ったところで、男の世界は揺るぎもしないはずだった。 「小狐丸。……これからおじさんと良いことをしよう」  顎の下にすっぽり収まった小さな頭部に、男は囁いた。 「……なぜ、わたしの名を知っているのですか」  小さな小狐丸が振り返り、男を見上げて問いかけた。声変わりの片鱗さえない、童女のように高く澄んだ声。  男は下腹の興奮が高まっていくのを感じた。 「おじさんは偉い人だから、何でも知ってるんだ。そう、小狐丸が十五になったらお城で何をするのかも知っているよ」 「わたしは、十五になったらぬしさまにおつかえするのです」  己に与えられた役割に何の疑問も持たぬ声を聞き、男の腹の内を残酷な悦びが満たした。  十五になっても、この子は城に上がることはない。華狐として生きる資格を喪うからだ。それを知った時の顔を是非ともこの目で見届けたい。  だがその思いはおくびにも出さず、男は穏やかで優しい大人を演じた。 「どうやってお仕えするか、小狐丸は知っているのかな」  男の問いに、小さな小狐丸は思案する顔で花びらのような唇を噛んだ。  『小狐丸』たちは肉親からも世間からも隔絶して育てられ、礼儀作法のみ躾けられて本丸に上げられる。本丸の主には決して逆らってはならぬと厳しく言い聞かされるが、どうやって何をするのかを教えられることはない。この小狐丸も、それを知っているはずがなかった。 「おじさんが教えてあげよう。ぬしさまの前で、小狐丸が困らないように」  視線を合わせて笑いかけると、幾分の不安を滲ませた表情で、小狐丸がこくりと頷いた。 「さて、まずはお前の体がどうなっているかを確かめてみなければ。健やかでなければ、ぬしさまにお仕えすることはできないからね」  男は小狐丸を抱きかかえたまま手を前に回し、打袴の帯を解いた。小狐丸は困惑したように男と黒田を交互に見たが、逆らおうとはしなかった。  帯を解き、緋袴を脱がせると、小袖の裾の下からすらりとした二本の脚が伸びているのが見えた。傷一つない白い脚に、肉の薄い膝小僧が僅かに桜色を帯びているのが愛らしい。  華狐として捧げるために大切に大切に育てられた供物だ。男は可憐な膝に手を置いて、まだ華奢な骨の感触を確かめると、その手を上に滑らせた。 「……ぁ……」  閉じた内股を遡ると、小狐丸が居心地悪げに脚を閉じる力を強めた。掌の指紋で跡がついてしまいそうなほど、柔らかくすべすべした腿だ。  男は小狐丸の腹にさりげなく腕を回して、逃げようとしても逃げられぬよう抱き直すと、脚の狭間に手を潜らせた。 「力を抜いて。検品するだけだよ」 「けん……?」 「言っただろう。小狐丸の体が健やかかどうか、確かめるんだよ」  小袖の裾を開いて幼い場所を露出させる。男の指先は包皮に守られた小さな穂先とその下にある玉を捕らえた。 「ん……」  包皮を軽く抓んで、皮越しに優しく扱くと、小さな穂先が芯を持った。  続けていると膨らみが増し、皮の包みから中に収まったものの先端が少しばかり顔を覗かせた。 「おじさん……痛い……」  稚い花芯を剥き上げられるのは痛みを伴ったようだ。小狐丸が両手をそれぞれ男の手に添えて、小さな指でキュッと握りしめてきた。幼い仕草だ。  男の脳裏に、堂々たる太刀の付喪神の姿が鮮やかに浮かび上がった。戦うことも、傷つくことも恐れぬ、人ならぬ存在。彼らは刀の神だ。自らが消滅するその瞬間さえ、死を恐れることもなければ、残して逝くものに未練を覚えることもない。男がどんなに望んでも、疵一つつけることさえ能わぬ存在だった。だが、ここにいる子供は違う。  男は自分に縋りつく小さな手の感触に、昏い歓喜を噛みしめた。 「まだまだ、こんなものじゃない。今からもっと痛いことをするんだからね」 「いた、いっ……」  男は皮をずらして、小さな穂先をゆっくり根元まで剥き上げた。腕の中の小狐丸が痛みに体を強張らせるのが、何とも言えない背徳的な興奮をそそる。この小さな童子を生かすも殺すも男の心ひとつなのだ。  着物の下で猛々しく姿を変えた肉の凶器を、今すぐこの身の内に沈ませたかった。泣き叫ぶのを押さえつけ、柔らかな肉を力づくで破瓜してやったらどれほど気分がいいだろう。しかし折角の蕾をそう簡単に散らしてしまうのは、それこそ勿体ないというものだ。 「我慢しなさい。堪え性のない子は、本丸でぬしさまに嫌われてしまうよ」  ずらした皮で男は未熟な花芯を扱き始めた。  痛みと、過敏になった部分に加えられる刺激に、小狐丸が体を跳ね上げて『ヒ……ヒッ……』としゃくり始める。時折腹に回った男の手を押し退けてくるが、剥き出しの先端を指で虐めてやると小賢しい抵抗はすぐに止んだ。 「練り油を」  期待通り、まだ精通を迎えてはいないようだ。  男は黒田に命じて、滑りを良くするための練り油を差し出させた。それをたっぷりと指に掬い取ると、男は抱きかかえていた体を家臣に預けた。 「なに……なにをするのです……」  大柄な体を持つ黒田は怯える童子の背を抱きかかえると、足を掴んで引き寄せ、むつきを替える赤子のような姿勢を取らせた。  無防備で恥ずかしい姿に、小狐丸の抵抗が激しくなったが、それは男の劣情を煽っただけだ。男の前に、色づきのない小さな菊の花が晒された。  男でも女でもない、性を持ち始める前の陰部は完全な無毛で、いずれ己のものになるはずだった菊は形良く絞り込まれている。十になるやならずの幼子しか持つことのできない無垢な窄まりだ。  男がそこに練り油を馴染ませると、小狐丸が甲高い悲鳴を上げた。 「いやじゃ!……なにゆえ、そのようなところを……!」  必死で暴れて嫌がる様は、愛しさと同時に残忍な悦びを男にもたらした。  十五で城に上がってくる『小狐丸』たちも無垢ゆえに憐れなものだったが、知らぬなりに些かの覚悟はつけて来るものだ。驚き戸惑いつつも、『決して逆らってはならぬ』との刷り込みに縛られて、ここまで抵抗することはない。  だがこれはまだほんの子供で、世の理も理解していない。男の正体を勘ぐることさえ知らない子供なのだ。 「やぁあああ――……ッ」  嫌がって泣き叫ぶ声を聞きながら、男は小さな穴に油を塗した指を捩込んでいった。  小さく軟らかい肉の穴が、指を包み込み吸い付く。浅く切迫した呼吸のたびに、拒むことも知らない柔い肉が男の指にしゃぶりついた。  初めに感じた痛いほどの締め付けは、内部を指先で撫で続けるとすぐに和らいだ。子供の体は柔軟で、慣れるのが早い。それに、与えられる感覚に素直だ。 「……ッ……ッ、ん……ッ……」  ヒクヒクとしゃくり上げながらも、小狐丸の臀部は指の動きに従うように揺れ始めていた。 「気持ちよくなってきただろう」  男の問いに、小さな両手で顔を覆った小狐丸は、嗚咽を漏らすばかりで答えなかった。下腹から駆け上がってくる感覚を、未熟ゆえにまだなんと名付けて良いのかわからないのだ。  精通を迎える前の体は、快楽の中枢が体内にある。精を吐くことを覚えるより先に、前立腺から得られる牝の悦びを知ってしまえば、後はもう男の摩羅を喰らわずにはおられぬ小さな淫売のできあがりだ。男はこの稚い小狐丸を男狂いの稀代の淫婦に変えてやるつもりだった。  狙いを定めて指先で弄り続けると、小狐丸の穂先が薄く濡れ始めた。 「やぁ……も、もれ、ちゃ……うッ……」  泣きじゃくりながら、小狐丸が顔を覆った掌の下から男に何かを訴えた。  訴えるところを知りながら、男は気づかぬ振りで問いかける。 「なんだ。どうかしたか」  感覚を掴み始めている内壁を殊更に弄りながら、男は何食わぬ声で問い返す。ビクビク……!と小さな尻が黒田の膝の上で跳ね上がった。 「ご、ふじょうに、いかせて!……も、れる……ぅッ」 「我慢しなさい。もう十になったのだろう」 「……っ、く……っ」  十と言えば、失禁を恥ずかしいことだと認識できる歳だ。しかも小狐丸はまだ袴を脱がされただけで、小袖も袿も袖を通したままでいる。ここで漏らせば社に着て帰る衣がないことも理解できているはずだ。  小さな足の指が耐えるように、きゅ、きゅ、と縮こまった。男の指も締め付けられる。なんと小さくて愛らしい玩具だろうか。  男は小狐丸の煩悶を知りながら、狭い穴に二本目の指をゆっくりと滑り込ませた。 「やめてぇ……っ」  啜り泣きと共に逃げるように尻が浮いた。追いかけることは容易く、男は徒労に終わる抵抗を愉しみながら二本目の指も根元まで押し込んだ。  一度腰が浮いた分、穴の内部は弄りやすくなった。この童子がどこで快楽を覚えるかはもうわかっている。二本の指でそこを責めてやると、童子が駄々をこねるように泣きじゃくり始めた。 「……もう、いやっ……いやじゃぁ……」  か細い声で泣き濡れる子供を、黒田は興奮を隠せぬ赤い顔で押さえつけていた。男はそれに気づかぬふりをしながら、精通を知らぬ幼子が牝の快楽に目覚めていくさまを家臣に見せつけた。  男がここを去った後、おそらく黒田はこの童子をただで帰しはしないだろう。それでいいのだ。念入りに仕込んでやりたくとも、男がここへ来られるのはせいぜい八日に一度。調教は最初が肝心だというのに時間がなさ過ぎる。 「だめ!……だめえっ!」  不意に小狐丸が大きな声を上げた。天を向いた小さな屹立の先端に、透明な水の玉が浮かび出た。この幼い姫穴が男狂いのホトへと生まれ変わる瞬間が来たようだ。 「きゃ、ぅ、う……っ!」  子犬のような憐れな悲鳴とともに、ちいさな穂先から蜜の筋が迸った。  生まれて初めて味わう姫逝きの快感に、美姫にも劣らぬ華の美貌が恍惚と蕩けた。 「お漏らしは気持ちよかったか」  放心したような表情で荒い息をつく小狐丸に、男は宥めるような口づけをした。  口を塞がれて息が苦しい小狐丸は、緩慢な仕草で顔を背けようとしている。子供は一つの事にしか意識を集中できないものだ。気がそちらに向いているのを確かめながら、男は指で拡げた穴の中に、自身の凶器の先端を食い込ませた。 「…………ッ!」  ハッとなったように、小狐丸が小さな両手を突っ張って、男を押し退けようとした。男は上半身を反らして素直に押し返されてやりながら、黒田ががっちりと抑え込む尻の中に怒張をゆっくりと沈めていった。 「いや!……いやぁッ……!」  この小さな獣には、言葉で躾ける代わりに、肉棒で服従を教え込んでやろう。ならば、最初は衝撃が大きいほど刷り込みの完成度は高いものとなる。 「やあぁッ……い、や――ッ……ッ!」  金切り声をあげてもがく姿を堪能しながら、男は容赦なく身を埋めていった。全体に肉の薄い体はともすると裂けてしまいそうだが、万が一そうなったとしても男は傷を癒やす手段を持っている。怖れる必要は無い。 「やめ、てぇッ……ゆるして! ゆるしてぇッ!……だれ、か……だれかぁああッ……」  力の差を思い知らせるように泣きじゃくる子供を押さえつけ、童子には大きすぎる大人の陰茎を可憐な穴の中に埋め込んでいく。絶望の滲む金切り声が耳に心地よかった。無論、叫ぶたびに締め付ける柔い肉の感触は言うまでもない。 「きゃぁああぁ、……ッ!」  声が途切れると同時に、水飛沫が飛んだ。  幼い体は耐える力が未発達だ。男の肉棒に内側から下腹を押されて、童子は今度こそ本当に失禁してしまったらしい。生暖かい水が男をも濡らした。―しようのない子供だ。  着物を汚された腹いせに、男は身に余ると分かっている怒張を根元まで挿れてやることにした。 「……ッ……ッ……」  半ばも呑ませれば、もう声さえも出なくなり、童子は大きく口を開けて痙攣した。逆らっても敵わず、叫んでも許されないことをそろそろ理解したはずだ。  壊れてしまうならそれでもいい。男は細い腰を掴むと、残りを一気に押し込んだ。  小さな小さな肉穴に、張り裂けんばかりに大きな肉茎を含まされた童子は、浅い息をついたまま目を見開いて硬直していた。  男は黒田から童子の体を抱き取って、床の上に横たえる。自失して開いたままの目からは、はらはらと涙が零れ落ちていた。 「小狐丸……。小狐丸……」  男は丸い頬を撫で、優しく呼びかけた。  虚ろだった目が数回瞬きをする間に輝きを取り戻し、自らに圧し掛かる男の顔に焦点を合わせた。怯えに悔しさが入り交じった視線。少女のような顔立ちをしていながら、中身は少年としての矜持を持ち始めている。男の手で粉々に砕かれるためだけの儚い矜持だ。 「お前は、もう華狐にはなれないよ」  男は優しく残酷に囁いた。  小狐丸が言葉の真偽を問うように、真紅の瞳で男を見つめた。男はそれを見つめ返しながら、童子にも理解できるよう、一語一語を区切るように言葉を続ける。 「華狐は本丸の主に純潔を捧げるものだ。なのに、お前の純潔は今ここで穢された。お前はもう、ぬしさまにお仕えすることはできないんだよ」  ゆっくりと、赤い瞳が見開かれていく。言葉が浸透するにつれ、その赤が絶望に彩られていくのを目に収めて、男は深々と埋め込んだ体を動かし始めた。 「~~ッ!!」  声にならない声を上げ、小狐丸が男を押し退けようと両手を突っ張った。長じれば剣を握る強靱な二の腕になるはずの腕だが、今はただか細く華奢なばかりだ。男は抱き潰すように上から体重を掛け、絶望に引き攣る柔肉の中を肉の凶器で掻き回した。 「苦しいか? もう、やめてほしいか?」  男は殊更優しい声で童子に問うた。声も出さずに、童子が頷く。泣きながら必死に頷く贄に、男は絶望を与えた。 「いいや、駄目だ。お前は絶対に俺に逆らうことはできない。俺がこうすると言ったら、お前には従う以外の道はないんだ。よく覚えておけ……!」  絡みつく柔肉を振りほどいて、男は腰を叩きつけた。小さな体の死に物狂いの抵抗が心地いい。運命をこの手の中に握っているという高揚感。男は万能の力を持ち、すべてを支配することができる。この小さな刀の化身も、男に身を委ねる以外に術はないのだ。 「小狐丸……!」  男は抱きすくめた体の中に、欲望の塊を迸らせた。 「……ッ、~~~~ッ、ッ、――――ッ……!!」  苦し気に泣きじゃくる顔が、男の精を腹に受けて徐々に表情を変えていく。紅い両目の焦点が合わなくなり、小さく開いた唇からは薄い舌が覗いていた。姫逝きした時と同じ、ありとあらゆる世俗の縛りから解き放たれて、悦楽の奴隷となった淫婦の貌だった。 「お前を蕾の君と呼ぼう。永遠に花開くことのない、凍てついた蕾の君だ」  ここ何十年もの間味わったこともないような強烈な興奮が全身を駆け巡った。男は押し寄せる支配感に身を任せ、高々と哄笑した。

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