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第9話 蕾②
月が中空に輝く頃、稲荷の一族の元へ身柄を戻しておくようにと命じて、男は襖の向こうに姿を消した。誰の目にも見えなくなったが、去ったわけではない。月光の届かぬ闇の中で、男は軽く目を閉じる。
黒田の屋敷でこの後に行われた光景が、男の瞼の裏に映し出された。
「社に戻る前に、湯殿で身を清めましょう」
獣の仔のように小さく体を丸めている童子を抱え上げ、黒田は湯殿へと足を向けた。男に何度も蕾を散らされ、声も枯れ果てるほど彼我を行き来した童子に逆らう余力はなかった。
夜中だというのに、予め言いつけてあったらしく、湯殿の桶風呂には温かい湯がいっぱいに満たされていた。黒田は手桶でそれを掬うと、すっかり冷えた子供の体に足下から少しずつ掛けてやる。その温もりが、我を失っていた童子を多少正気に戻したようだった。
「わたしは……これから……」
途方に暮れたような細い声が漏れた。
物心ついてこの方ずっと、成人すれば本丸の主に仕えに行くのだと聞かされて育った童子だ。その未来が断たれた今、先が見えなくなって途方に暮れるのは当然のことだった。
黒田はそこにつけこんだ。
「若様はもう、華狐にはお成りになれませぬからな。後は女郎になるしかありますまい」
「じょ、ろ……う……?」
「ええ。女郎も世の中には必要なお務めにございます。お社に戻られる前に、私と女郎屋に行くお支度を致しましょう」
言葉巧みに宥めながら、黒田は猛った己の怒張を取り出した。それを目にした小狐丸は悲鳴を上げて逃げようとしたが、男に痛めつけられた体はそう素早くは動けない。黒田は易々とそれを捕らえると、体の下に組み敷いた。
「いやじゃ!……もう、あれはいや!」
泣いて愚図る体を無理矢理に這わせ、破瓜されたばかりの菊座に黒田は己の肉棒を捩込んだ。掠れた悲鳴が上がるのをものともせず、豚のように腰を叩きつけ始める。
「若様には、私がちゃんと、姫逝きを、仕込んでさしあげましょう! そら、このように!」
「……きゃ、ぁああぁ!……もう、……やぁあああぁ……ッ!」
「具合の好い、女郎に、なれますぞ。……ハハ、ハハハ……ッ」
「……あぁ、ああぁぁ……ゆるして……おねがい……もう、ゆるし、て……」
声を聞きつけた黒田家の武者たちが、一人、また一人と、湯殿の中にやってきた。哀れな童子を助けるためではない。隠しようがないほどの陵辱の痕跡を、この小さな体に刻みつけるために来たのだ。
ひと月前、本丸に奥女中として奉公させていた黒田の一人娘が、社に下がって白髪赤目の男児を産んだ。当代華狐である花山の九番目の子供であり、一族が待ちに待った『小狐丸』である。
その赤子が華狐として本丸に上がり、主の寵を得られれば、黒田の家名はゆるぎないものになる。しかしそれには、今この目の前にいるもう一人の『小狐丸』が目障りだった。娘の産んだ『小狐丸』が本丸に上がる頃、今目の前にいる『小狐丸』は二十五歳の男盛りで、おそらくは確たる地位を得ているはずだからだ。
それゆえに、主からまだ十になったばかりの童子を摘まみ食いしたいのだという相談を持ち掛けられた時、黒田は一も二もなく協力することにした。目障りな『小狐丸』を抹消する千載一遇の好機だった。
華狐として本丸に上がる前に純潔を失ったものは、『傾城』と呼ばれ、罪の印に髪を切られて資格を失う。国家鎮護を願うどころか、主が触れれば国が亡びると言われる禍々しい存在に成り果てるのだ。
この童子は形式上すでに『傾城』だが、純潔を奪った相手が本丸の主一人であったなら、稲荷の一族はその事実を隠そうとするだろう。元は主に捧げるための華狐なのだから、それが少しばかり早まっただけだと、元服式を早々に執り行って本丸に送り込んでくるのは間違いない。
そうさせないために、黒田は童子の肉体に消せない痕跡を刻みつけるつもりだった。
「あぁ……あ、あぁん……ッ、やぁ、そこは……ひぁあ、んっ……」
何人もの若衆に抑えつけられ、菊座を蹂躙される童子の声は、いつの間にか媚びるような甘さを帯び始めていた。色狂いに仕込むため媚薬入りの練り油を用いてはいたが、純潔を喪ったばかりだというのに、もう小さな尻を振って男たちを貪っている。さすがは代々身売りして権勢を繋いできた一族の直系だ。
「やぁんッ……ひめいき、す、るっ……ッ、ひめいきするぅッ……!」
「姫逝きする時はなんて言うんだ?」
「あ、あ……あ、……たねつけ、してぇ……ホトに、いっぱい、たねつけ……」
主が次に訪れるまでの間に寄ってたかって後孔を仕込み、精液塗れにして社に戻してやろう。稲荷の一族は童子を隠蔽し、沈黙を守るだろう。この童子の将来はこれで断たれた。
「……すき……つぼみは……たねつけが、すき……ぬしさま、もっとして……ぇ」
己を罠に嵌めた相手が何者かも知らず、縋るように名を呼ぶ童子を、黒田は粘い目で見つめた。野心を抜きにして考えても、この童子の美しさと淫らさは溺れる価値が十分にある。
一度解放を迎えた牡の部分が、また勢いを取り戻しつつあった。黒田はそれを手で扱いて柔らかい肉を割るための凶器に育てる。彼らの主が再びこの地に姿を現すまであと八日。――時間はまだまだ十分に残されていた。
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