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第11話 傾城①
ある晴れた日の午後、明るい光の下で、三条は右手に良く研いだ剃刀を握っていた。
「ここを、持ち上げて下され」
「ああ……」
年若い三条からの指示に、伏見は言われるまま素直に従う。三条は刃物を持たない方の手に油を塗し、伏見が手で持ち上げて空けた場所にそれを塗り込めた。
「足を開いて下され。もっと……もっとしっかり」
庭に面した縁側の障子を開け放ち、昼の光が降り注ぐ場所で、三条は伏見に足を大きく開かせた。日中とはいえ、冬の空気はひやりとしている。伏見は単法被の上着と足袋を身につけたままだ。袴だけを脱がせた姿で、誰が通るとも知れぬ縁側の廊下に足を開かせ、三条は伏見に秘めるべき場所を曝け出させた。
右手に握った剃刀の刃を見せつけながら、三条は油に濡れた手で伏見の蟻の門渡りを念入りに撫でる。
「……三条殿……っ」
伏見が切ない声音で息子の名を呼んだ。
三条はそれに応えるように、濡れた指をさらに下方に滑らせ、物欲しげに蠢く窄まりの中に埋め込んだ。
「ぁ……ッ、あ……」
待ちかねていたように伏見の肉が指を包み込み、しゃぶるように吸い付いてくる。白い手に包んで隠された玉の袋と立派な竿が、ぴくぴくと窮屈そうに動いていた。
「剃ってゆきますゆえ、どうぞ身動きなさいませぬよう……」
「あ……」
三条は剃刀の柄を握り直すと、その冷たい刃を伏見の玉肌に当てた。
「……ん、……ぁ、あ……っ」
剃刀の刃が産毛を撫でていく。指を呑み込んだ穴が、感じ入ったようにきゅうきゅうと縮まった。大きく開いた内股には筋が浮かび、力が入りすぎて小刻みに痙攣している。
「じっとなさいませ。手元が狂いまする」
冷たく言い放つと、嗚咽を堪えるように伏見が息を飲んだのが聞こえた。
手で隠した伏見の砲身はすっかり反り返り、先走りまで滲ませている。それに視線を走らせながら、三条は僅かに伸びかけた硬い毛の部分を刃で撫でた。
ショリ、ショリ、と微かな手応えがあるたびに、指を呑ませた後孔が締まる。三条は深く埋めた指を内部で動かし始めた。
「あ……あ……三条殿……ぉッ」
伏見が静かに悶えたが、剃刀を当てられているので大きく動くことはできない。三条は刃のない部分で袋の付け根を押し上げて脅した。
「もっと上へ」
「ふぅ……っ」
二つの玉が収まる袋を、伏見はしっかりと掴んで引っ張り上げた。三条は鳥肌立つそこに剃刀の峰を当てる。伏見の大事な場所を傷つけることは、いつでもできるのだと知らしめるように。
三条がここへ来て、二ヶ月ほどが経っていた。
本丸の主は残忍な一面もあるが、三条にはおおむね寛大だった。特に雄っ気が強い事を気に入り、好きなだけおなごを孕ませよと妙齢の女中を何人も用意してくれた。
どういう事情があってのことかは知らないが、男はおよそ八日に一度、それも日が暮れてから夜が明けるまでの間しかこの本丸には留まらない。三条は空いた日中をほとんど女中たちと過ごし、男に言われたとおり、一人でも多く孕ませようと励んだ。
男が本丸を訪れる日の夕刻には、華狐たちは湯を使い、それぞれの世話役から洗浄の処置を受ける。その後華玉と呼ばれる貞操具を体内に収めて、主からの呼び出しを待つのだ。呼ばれなかった華狐は朝まで華玉を取ることを許されない。
今この本丸内にいる華狐は、伏見と三条の二人だけだった。
三条はここへ来てからというもの、八日ごとに必ず主の寝所に呼ばれている。それはつまり、伏見は一度も呼ばれず、華玉ばかり入れられていることを意味していた。独り寝の寂しい夜を伏見はどう過ごしているのか。
六人に増えた三条付きの女中たちは、有難いことに有能な手足となってくれた。妍を競い合う際に、女ゆえの小回りの良さで本丸の裏事情を次々と仕入れてくる。おかげで新参者の割に三条は事情通だ。
伏見が本丸に輿入れした夜に何があったのかということも、すぐに明らかになった。
初めて華狐として本丸に上がった夜、初夜の床で動転した伏見は、床入りを拒んで主を蹴りつけてしまったらしい。
主の怒りを買った伏見はそのまま牢に入れられ、伏見を産んだ御腹様の家は反逆を疑われて取り潰し寸前の憂き目を見たが、何とか免職で許されたというのが表向きの話だ。
一見、いかにも主らしい横暴な処罰の仕方に見えるが、実はこれには裏の事情があるらしい。もともと閨の作法など教えられずに上がってきた華狐が、初夜の床で抵抗するのはさほど珍しいことではないそうなのだ。
主には、嫌がる相手を無理矢理手籠めにしたがる悪癖がある。抵抗するあまり、中庭で櫓に吊るされて、主ばかりか家臣にまで夜通し犯された例もあるそうだが、それで御腹様の生家が罰を受けたという記録はない。
様々な事情に通じた者たちによると、伏見の御腹様筋を疎んじる者が居て、新床での伏見の所業が口実として利用されたというのが、真相のようだった。
伏見はその時八日ほど牢に入れられただけで元の部屋に戻されたのだが、以来本丸での立場は厳しいものとなっている。
本丸では、『伏見の方様は主の不興を買った』という噂があっという間に知れ渡ってしまった。そのため伏見は、身の回りの世話をする者達からも風当たりが強い。国家鎮護を主にもたらすための華狐が、己の果たすべき責務を放棄したと取られたためだ。
伏見付きの世話役は主からの命だと偽って、媚薬入りの巨大な華玉を伏見に用い、食事や酒にも強い薬を混ぜる。伏見が閨に呼ばれぬことを見越して、わざと独り寝の夜が情欲の炎で炙られるものになるよう仕組んでいるのだ。
初めはそれをただ気の毒に思った三条だったが、主の閨に何度か侍るうちに、もう少し違う角度から物を見るようになった。主は決して伏見を愛でていないわけではないのだ。ただ、三条と伏見とでは、全く別の可愛がり方をする。
身を厳しく律し、せめて主の守り刀であろうと武芸を磨く伏見を、主はこの上なく愛しんでいる。ただその情愛の発露が『痛めつけ辱める』という形で現れているだけなのだ。周りの者も伏見自身も、そのことを理解していないようだ。
凜とした姿を持つ伏見が、悦楽に追い詰められて泣き崩れる瞬間は、三条の心さえも掻き乱すほどに淫蕩だ。これを愛でる主の気持ちが三条にはよく分かる。それが証拠に、ほとんど閨に呼ばれぬはずの伏見の肉体は、長年寵愛を受け手塩にかけて仕込まれたように、よく熟していた。
淡く色づいた伏見の後孔は、押し入る三条の屹立をいつも柔らかく包み込んでくれる。一旦咥えれば逃しはせぬと、上から下から蠕動し、精を貪欲に搾り取る。形良い立派な砲身はもはやおのことしての役には立たず、姫逝きして蜜を零すためだけの道具だ。
色づいて膨れた乳首も、雪花石膏のような白く滑らかな肌も、痛みを与えられて悦びを得るように慣らされている。伏見は苛まれるのが好きなのだ。そのような肉欲の玩具へと変えられてしまっていた。
三条自身も、主に虐められるのは怖くて苦しくて、気を失いそうなほど心地良いので、どのようにしてそうなったのかは良く理解できた。
「残すところは、姫穴の周りのみにございます」
剃刀を一旦台に戻し、三条は伏見に途中の仕上がり具合を告げた。
伏見の白い内股には、目立たぬ小さな切り傷がいくつか加えられていた。次に主が本丸に来る日までには治る程度の、ごく浅いものだ。剃毛の際に誤ってついたものではない。伏見を悦ばせるために、三条がわざとつけたものだ。
伏見の腹には透明な水溜まりができていた。弱い場所を他人の剃刀の前に差し出さねばならない怯えと、肌を薄く切られる痛みに伏見が漏らしたものだった。息はすっかり荒くなり、伸びかけの毛で飾られた穴は物欲しげに口を開いている。
下の毛を剃っておくのは、伏見だけに命じられた身支度だった。主がそれを確かめることはほとんど無いが、伏見は命令に忠実だ。何時呼ばれても良いよう伸びかける頃には綺麗に剃り落とすので、伏見のそこはいつでも子供のようにツルリとしている。
だが、己ではできぬ場所ゆえに、伏見は世話役の前に股を開いて処理を頼まねばならない。三条はそれを知って、世話役からその役目を奪い取ったのだ。
「これで……よいか……」
伏見は恥ずかしげに頬を染めながら、自ら膝裏に手を入れて引き寄せ、濡れた菊門を曝け出した。挿入を望むように、腰は畳から少し浮いている。指淫で捲れ上がった珊瑚色の媚肉が、待ちかねる様子でひくひくと口を開いていた。
伏見はもうふた月あまり主の閨に呼ばれていない。
この飢えた穴の中に摩羅が欲しいくせに、伏見は自分の口からは強請ろうとしなかった。犯されれば歓喜の声を上げて尻を振るくせに、理性が焼き尽くされるまでは自分から求めようとしないのだ。
その強情さが、三条の目には可愛らしく映る。きっと主も同じ心境で伏見を虐めるのだろう。
「生憎、油が尽きてしまいましたから、舐めて濡らしましょう」
「……っ」
伏見は三条が強引に自分を犯すのを、やはり期待していたらしい。一瞬残念そうな表情が浮かぶ。そしてそんな己を恥じるように、唇を噛んで顔を背けた。
三条は畳に手を突いて低く這うと、舌を尖らせて、油に濡れた伏見の後孔を擽った。
「……あぁ……あ、さんじょう……どのっ」
穴の中に舌を差し込んで舐め回すと、伏見の肉環が舌をもぎ取ろうと迫ってくる。剃毛のために訪う事を伝えてあったので、中はすっかり洗浄され、丁寧なことに媚薬の酒まで込めてあった。
色事など好まぬと言いたげな風情で、伏見はどんな顔をしてここの準備をしたのだろう。望むのなら、準備から念入りに苛んでやったというのに。
じゅるる……と音を立てて啜り上げると、伏見は堪らなくなったように尻を上下に振った。
「もう……もう、やめてくれ……」
蚊の鳴くような声で訴えるが、本当に止めて欲しいわけではない。焦らすのをやめて、摩羅でこの中を掻き回してくれと、そう伏見は請うているのだ。腹の上で反り返る砲身がぴくぴくと跳ねて先走りを零していた。
それを確かめた三条は、顔を上げて両手で尻肉を左右に開くと、袴を身につけたままの自身の膨らみをそこへ押し付けた。
「やめてよろしいか。何もせず、このまま部屋へ戻っても?」
若い三条の嬲るような言葉に、伏見はゴクリと唾を飲み込んだ。強情に見えて、実はひどく脆い伏見の理性が崩れ落ちようとしていた。
剃毛はまだ途中だ。体は昂ぶりきり、誰に見られぬとも知れぬ場所で辱めを受けることへの期待も、もう抑えきれなくなっている。それにこのまま三条に部屋に戻られたら、最も難しい場所の処理が残されたままになってしまう。
剃毛を受けるためだという口実が、伏見の飢えに理由を与えた。これは主への不貞ではない。処置してもらうことへの対価なのだと。
伏見は唇を舐めて湿らせると、淡く口を開く自らの蜜穴を指で拡げて誘った。
「私の姫穴を……三条殿の蜜で濡らして。その蜜で毛を剃って下され……。赤子のような、無垢な姫穴になるように……」
恥じらいに顔を真っ赤に染めた伏見が、淫らな言葉を言い終えた、その瞬間――パンパンパン、と大きな拍手が庭の方から起こった。
伏見と三条は飛び上がって、開け放したままの障子の向こうを振り返った。そこに立つ人物の姿を認めるなり、二人は引き攣るような悲鳴を上げて慌ててその場に平伏した。
真昼の庭に立っていたのは、ここにいるはずのない本丸の主だった。
「ああ、そんなに畏まらなくていいぞ。伏見にそこまで言わせた三条の手腕に感服しただけで、怒っているわけじゃない」
草履を脱いで縁側から上がってきた主は、いったい何時からここにいて見物していたのか、大層な上機嫌だった。
これは言葉通り、本当に怒っているわけではない。男の感情の起伏を読めるようになってきた三条は平伏したまま安堵の息をついたが、それがわからぬ伏見は額を畳に擦りつけて震えていた。
「なぁ、伏見……」
男はその様子を愉しみながら背後に回り込み、手に持った扇を上着に隠された臀部に当てた。
声が粘りを帯びている。主はまたも、伏見を虐めたい欲求に駆られたようだ。
「お前の尻はいつも赤子のように愛らしいな。だが少々色づきが足りないようだ。そうは思わないか?」
男が何を言わんとしているのか、二人の華狐には理解できた。
伏見は平伏したまま上着を捲りあげて尻を出すと、足の内側から手を入れて急所を手で包み込んだ。
「……化粧を、お願い致しまする……!」
言い終わらぬうちに、短く息を飲むような悲鳴が伏見の喉を鳴らした。男の扇が硬い音を立てて、伏見の臀部を続けざまに打ったためだ。見る間にいくつもの赤い線が伏見の白い臀部に描かれていった。
冬の乾いた空気を、激しい打擲の音が震わせる。
それを聞いていた三条は、ただでさえ重みを増していた下腹が痛いほど張りつめるのを感じた。
主の尻打ちはいつも巧みだ。打たれれば痛みと恥ずかしさでそのまま漏らしてしまいそうになるほど気持ちいい。その上、数日は何をするにも痛むので、男が不在の間もその存在を体に感じ続けていられる。三条は悲鳴を上げるまで男に思い切り尻を叩かれるのが好きだった。
伏見もまた、折檻されるのが好いのだろう。尻を叩かれることに怯える様子は見せたものの、打たれ始めるとだんだん腰が持ち上がってきた。まるでもっと打ってほしいとせがむように、脚も開いていく。
「……ッ! あぅうッ!」
急に鋭い悲鳴を上げて、伏見が横様に倒れ込んだ。物も言えぬ様子で股間を押さえ、白い足を震わせて悶絶している。最後の一打ちが、臀部ではなく不貞を望んだ穴を直接に襲ったからだ。
「堪え性のないやつだ」
若い同族の前で己一人が罰を受ける屈辱と羞恥、それに陰部を襲った苦痛が、焦らされ続けていた伏見に最後のとどめを刺してしまった。押さえた手の下から隠しようもないおなごの蜜が溢れて、畳の上に薄く広がった。
「良いざまだな、伏見」
姫穴を打たれた激痛で蜜を漏らした伏見に、主は掛け値なしの賞賛の言葉を与えた。だが、それを聞いた伏見は手で口を押えて嗚咽を噛み殺した。
初めの行き違いが尾を引いて、伏見は己が男に疎んじられていると思い込んでいる。今の無様な姫逝きを主に心から褒められたのだとは、到底考えることができなかったからだ。
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