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第12話 傾城②
「伏見は頭が硬くていけない。いくら褒めても萎縮するばかりで、素直に喜んだ例しがない」
不満をぼやく主に、後ろを付いて歩く三条は気安い口調で応じた。
「ぬしさまはそこを可愛いらしく思っておいでなのでしょう。あのお方が怯えて泣きながら、身も世もなく乱れるお姿が愛おしいゆえに、その手できつう虐められる……」
「ふふ……」
核心を突く三条の言葉に、男は楽しげに笑った。
「まったくお前は、俺という人間をよく分かっているな。……伏見には言うなよ、虐め甲斐がなくなってはつまらん」
森にも似た中庭を歩きながら、主はどんどん人気のない方へと足を向ける。
中庭に下りる許可は出ているのだが、何かと気忙しくてあまり奥まで散策したことがなかった。いったい何処へ向かっているのだろうと疑問に思うと、それを読んだかのように男が口を開いた。
「部屋付きの奥女中が一人孕んだな。腹の子のため早々に稲荷の社に降りるよう、さっき手配をしてきた」
「は……」
それは三条も初めて聞く話だった。
確かに、早く『小狐丸』を産ませて褒美を手にしようと、暇さえあれば女中たちに手をつけてはいる。だがまだここへ来て二ヶ月で、女中たちが妊娠したとしても、それが判別できるのはもう少し先のはずだ。
男には、この本丸で起こっていることが何もかも手に取るように分かるのだろうか。まるで全てを見通す神のように。
傍目には何の変哲も無い、変わった力の存在など感じさせない平凡な姿の男だ。これがこの世界を千年に亘って統治し、維持し続けている本丸の主だと、誰が想像できるだろう。
「まだ『小狐丸』かどうかは分からんが、お前が良く励んでいるようだから褒美をやろう。今から城下へ行くぞ」
「えっ」
思いも掛けない言葉に、三条は素っ頓狂な声を上げた。年相応の反応に男は笑いを堪え、後ろを付いて歩いてきていた三条の手を取って握った。
「目を閉じろ。『扉』を潜る」
何のことかはわからぬまま、三条は素直に目を閉じた。
中庭の地面を踏みしめていたはずの足裏が、ぐにゃりと歪んだような気がした。その歪みが足を伝って腹の方まで上がってくる。―気持ちが悪くて吐きそうだ。そう訴えようとした時、唐突に地面は固さを取り戻した。
「いいぞ、目を開けろ」
「…………!」
許しを得て目を開けた三条は、惚けたように口を開けて上を見上げた。
けばけばしいまでに派手な看板が目に入る。それは城下の花街にあるはずの、池田屋の玄関を飾る看板だった。
勝手知ったる様子で、男は池田屋の中を進んでいく。ここへは何度も通っているようだ。二階の西奥にある襖の前で、男は三条を振り返ると、声を出すなと仕草で命じた。そのまま断りもなく襖を開けると、スルリと中に入ってしまう。
三条は胸が高まるのを苦労して抑えながら、男に続いて襖を潜った。そこは、太夫である日本号の部屋の控えの間だった。
男と三条はその部屋の中に入り、太夫の部屋に通じる襖を少しばかり開いた。
手招きされて中を見た三条は、中の光景に声を漏らしそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。
そこにいたのは、あの冷たく美しい伯父と、二人の背の高い男たちだった。
紅い絹張りの布団の上に、伯父が白い裸体を投げ出していた。
その体を日本号が背後から抱き支え、もう一人、手足の長い男が足下に跪いて、伯父の下肢を愛撫している。
「あぁ……ん……、そこ……ああぁ、そこじゃ……っ」
あの伯父とも思えぬ、媚びた甘い声が唇から零れた。
足下に膝を突いた男は、大きく開いた伯父の股ぐらで、何かの道具を使って後孔を嬲っているようだった。膝を立てた白い足がぶるぶると震え、男の手の動きに合わせて腰が蠢く。
「そこ……そこがいい、もっと…………あ、あ、もう姫逝きする……んっ」
悩ましい喘ぎを、抱きかかえた日本号の声が遮る。
「おいおい、蕾の方様。そんなに簡単に逝っちまったら後が保たねぇぜ。もうすぐ大立も帰ってくるって言うのに」
「ヒ、アッ」
尻を揺らしてそのまま昇りつめようとする伯父に、日本号は息が詰まるような悲鳴を上げさせた。日本号の指が、透き通るような白い肌の上に浮かぶ赤い乳首を捻り潰していた。相当きつく捩じられれているのか、伯父は息をつめ、いやいやをするように頭を振っている。足下の男も焦らすように愛撫の手を止めた。
日本号は部屋の入り口に佇む主と三条に視線を投げると、伯父の頭をこちらの方に向けさせた。伯父の目元は鮮やかな赤い布で覆われ、こちらの状況は見えないようだ。日本号は二人の見物人に見せつけるように、伯父の口の中に指を入れた。
「おしゃぶりしてくれよ。この濡れた指で、今度はあんたのおっぱいを可愛がってやるからさ」
「ん……っ」
日本号が口の中に入れた二本の指を、伯父は美味そうにしゃぶった。
舌を伸ばして指を絡めとり、指の間に舌を差し込んで挟まれる感触を愉しんでいる。あの伯父とは到底思えぬ、卑猥な舌使いだった。
何かを想像させる仕草で日本号が指を出し入れすると、伯父は苦しげに眉を寄せながら、それにしゃぶりついて吸い上げた。散々口を犯した指が、最後に唇を唾液で濡らしながら出て行く時には、胸を軽く反らして乳首への愛撫を待ち望む様子まで見せた。
「こうやって……乳首弄られるだけで、逝けるよな……?」
濡れた指がぷっくりと膨れあがった肉の粒を抓んだ。軽く指で押し潰したかと思うと、弾力を楽しむようにプルプルと指先で弾いて揺らす。
左右を交互に弄られると鼻にかかった啼き声をあげ、伯父は下肢への愛撫を強請るように腰を突き上げた。
「乳だけでは逝けぬ……長柄、ホトを虐めて……早う……」
「駄目ですよ。大立が帰ってくる前に姫逝きさせたんじゃ、あいつがすねちまう」
長柄と呼ばれた男も戸口の二人を見やると、見せつけるように伯父の片足を大きく拡げた。伯父の局所には、本丸で用いられる華玉のような細紐が巻き付き、おのこの根元を封じていた。後孔からは張り型の尻が顔を覗かせている。しかも二本だ。
長柄は腹圧で出てこようとする二本の張り型を、そのたびに軽く揺すりながら元の位置に戻す。伯父は全身を痙攣させるように震わせ、腰を跳ね上げた。根元を縛められた屹立が腹を打ったが、先端から零れる蜜はなかった。
「……構わぬから、早う虐めてくれ……造り物はもうたくさんじゃ!……おぬしらの太いおのこで、早う奥まで拡げてくれ……!」
焦れた声で叫ぶと、伯父は体を捻って四つん這いになった。
手探りで日本号の小袖の裾を掻き分け、怒張を探り出してくる。太く長い竿を確かめるように手で撫でると、舌を差し出し、それを大きく開いた唇の中に咥え込んだ。
「いいのか、蕾の方様。主がこの不貞の現場を見たら、どんな風に思うだろうな」
日本号がこちらをチラリと見ながら、嘲るように言ったが、視界の利かない伯父は見られていることには気づかない。
「……っん、……ぬ、しさまは、もう私のことなどお忘れじゃ……っ」
投げやりに言うと、伯父は躊躇う様子もなく亀頭を舐め回し、顔を傾けてその下の玉袋まで舌を這わせた。玉を一つずつ口に含んで愛撫した後、竿の裏筋を舐めながら亀頭に戻ってくる。そして待ちかねたように一気に喉奥まで飲み込んだ。
頬を窄めて激しく顔を前後させる伯父の頭に触れながら、日本号は皮肉そうな笑みを浮かべた。
「そういえば、近頃主をお見掛けしねぇなぁ」
「あれきり……一度も来て下さらぬ……」
男を駆り立てようと必死でしゃぶりつきながら、伯父が恨み言を口にする。日本号はその頭を掴んで長い怒張を根元まで押し込みながら、伯父を嬲るように言い放った。
「そうだな。あの新しい華狐がお側に上がって以来、ちっともこっちに来られやしない。この間まできっちり八日ごとにお越しだったってのに、主は若い華狐にすっかり夢中のようだな」
「……ッ、ッ、……ヴッ……!」
喉の奥を塞がれた伯父が、苦しげに腹を波立たせた。激しい嘔吐感に襲われているようだ。細い顎を溢れる唾液が汚したが、それほどまでに苦しんでいながら、少しも逆らう素振りはなかった。
日本号は苦悶する伯父の頭を押さえ込んだまま、挑むようにこちらを睨み付けてきた。
「あんた、ついに見限られたんだよ。ガキの頃からさんざ仕込まれて、三日と摩羅なしじゃいられない淫売にされたくせに、あっさり捨てられちまったんだ。主も残酷なことをなさるもんだぜ」
ゴポ、と喉の奥で不穏な音が鳴った。薄く色の付いた胃液が、小刻みに震える伯父の鼻から流れ出てきた。さぞかし苦悶しているのかと思えば、紐に絡め取られた伯父の肉茎は萎え、トロトロと蜜を零し始めている。
喉を塞がれる苦しさと無情な言葉が姫逝きを誘ったようだ。埋められていた二本の張り型が、締め付ける内圧に負けたように、相次いで布団の上に落ちた。
日本号は短い銀の髪に指を絡め、伯父の頭をなおも押さえつけていた。長く太い凶器で息もできぬほど喉奥を塞いでいるのだ。伯父の雪白の肌が赤く染まり、大きく痙攣しだしたが、日本号は手を緩めなかった。伯父もまたそれを受け入れ、少しも抵抗する素振りはなかった。
「……ハァッ!……ハッ!……オォッ!……グゥッ……」
息が絶えるのではないかと、焦った三条が襖に手をかけた瞬間、喉を塞いでいた怒張が抜かれた。伯父は布団の上に這って苦し気な喘鳴を上げた。噎せとえづきが混ざってひどい有様だ。だが、どこか恍惚としているようにも見える。
それまで背後にいた長柄が、日本号に目配せをして前に回ってきた。まだ噎せ続ける伯父の頭を、髪を鷲掴みにして上げさせると、その肉付きの薄い頬を太い肉棒でビタビタと叩いた。
「どっちの摩羅が欲しいんです」
逆の頬を、唾液に濡れた日本号の逸物が叩いた。
「あんたの姫穴にブチ込んで欲しいチンポを咥えてみなよ」
まるで色狂いの女郎を侮蔑するような言葉だった。あの厳かで気高い伯父に向けるべき言葉ではない。だが伯父は怒りも逡巡もしなかった。二本の竿を両手に握ると、迷いもせずそれを交互に唇に含んだ。
「二本とも欲しい……早う、挿れてくれ……中をこれで掻き回して、たんと姫逝きさせて……」
亀頭をいやらしく舐め回し、雁の部分を口に含みながら、舌が裏筋を擦るのが見えた。尖らせた舌先を男たちの鈴口に潜らせ、まるでここから甘露が出るとでも言いたげに何度も吸い付く。ちゅぷ、ちゅぷ、とあられもない音が立った。
「子種を呑みたい……。もう、造り物では我慢ならぬ。生の摩羅が良い……太いおのこに姫穴を拡げられて、ホトの底をグリグリされたい……」
あの玲瓏な伯父の口から出るとは思えぬ、無惨な誘い文句だった。
場末の遊女でもこのような品のない言葉を口にするのは躊躇うはずだ。それなのに、伯父は淫液でてらてらと光る唇を舐め、恥じらいもせずに言ってのける。
「この摩羅で姫逝きさせてくれ。そなたらの言うなりになる……どんなことでも従うゆえ……」
いつの間にか、伯父は足の間に手を伸ばし、先程まで二本の張り型を咥えこんでいた蜜穴を自らの指で慰めていた。一時もここを空にしておくのが我慢できないのだ。
男たちは頃合いと見て取って、視線を交し合った。
「いいだろう。そろそろあんたの望みの物をくれてやるさ」
安堵したような表情が、目隠しに覆われた白い顔に浮かんだ。男たちが伯父の体を布団の上に横たえる。今から伯父が待ち望んだ交合が始まるのだ。
「!」
硬直したように立ち尽くす三条の背を誰かが押した。
驚いて振り返ると、悪戯そうな笑みを浮かべた主が、あそこへ行けと背中を押していた。
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