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第13話 傾城③

 三条は戸惑いを隠せずにいた。  誘われるままに側まで来たものの、夢想した以上の光景に現実味が湧いてこない。近づくものを氷のような目で見据えていたあの伯父が、その目を塞がれ、艶めかしい裸体を置屋のけばけばしい寝具の上に晒している。何かの間違いか、それともあやかしにでも化かされているのではないかという思いが拭えなかった。  伯父はまるで新床の花嫁のように、足を開いて仰臥し、期待に頬を上気させて犯されるのを待っている。張り型を含んでいた後孔は、薄く開いて中の肉を覗かせていた。その縁は使い込まれて色づいている。 「……はよう、いれて……」  膝を持ち上げた伯父が、もどかしそうに強請った。淫らな穴がパクパクと蠢いて三条を誘う。その陰部は丁寧に剃られて完全な無毛だった。  ――伏見様とまるで同じじゃ……。  三条は伯父とは年の離れた兄弟である父を思い出した。武人のような雰囲気を纏う伏見と、冷たく人の情など知らぬげな伯父。まったく違うように見えながら、この二人はなんと似通っているのだろう。  二人がともに、己だけは色事とは無縁だという顔を見せるのは、彼らが裡に抱える情欲の炎が激しすぎるせいだ。常に過剰なまでに身を律しておかねば、炎は容易く身を焼いて、色狂いの本性を暴き出してしまう。誇りも自制心も、一度火が付いた肉欲の前では歯止めにならない。  相手が誰でも、場所がどこでも構いはしない。尻を振って快楽を貪らずにはいられないのだ。  三条は覚悟を決め、着ていたものを脱ぎ捨てた。 「……長柄……?」  袴が脱ぎ落とされる音に不審を覚えたらしく、伯父が確かめるように男の一人の名を呼んだ。背の高い男は意味ありげに笑って、伯父の気を逸らすために話しかけた。 「お情けして欲しい時にゃ、どう言うんです。蕾の方様?」  目隠しで見えない伯父の表情が、切なく歪んだ。  布で顔を隠されていてさえ、またとないほど麗しいかんばせだ。四十路も半ばとはとても思えない、若く瑞々しい膚。少し痩せて尖った顎。色が白いせいで紅を塗ったように引き立つ赤い唇。細面を縁取る、柔らかく細い銀の髪。  本丸の御殿で金銀と絹に飾られているのが誰よりも相応しいというのに、誰がこんな残酷な運命を用意したのだろう。そんなことができるのは、三条の隣で目を輝かせて成り行きを見守っている男以外になかった。  伯父は濡れた唇を舐め、目の前に恋うた相手がいるかのように、塞がれた目で虚空を見つめた。 「ぬしさま……蕾の姫穴を使ってくだされ。蕾はぬしさまの御種をたんといただきとう存じます……どうか、この穴に」  手が伸びて、爪の先まで美しい指がいやらしい窄まりを左右に拡げた。  三条は伯父が目隠しをしている理由に思い至った。相手の姿を見ぬ事で、交合の最中だけでも相手が主であると感じていたくて、わざと目を塞いでいるのだ。  伯父が求める相手が来るのは八日に一度。心でどれほど想っていても、飢えた体はその日を貞淑に待つことなどできはしない。小狐丸が生まれるずっと前から、伯父はこうやって男たちを誘い、与えられる快楽を喰らって生きてきたのだ。  思い返せば、社の境内で伯父を見かけた時、その周囲には必ず何人かの男たちがいた。冷たいほど厳しく見えた伯父の貌に、三条が欲情を誘われたのも不思議はない。あの時、伯父は男たちを喰らおうとしていたのだ。甘い蜜で虫を誘い込み、交配を果たす花のように。  三条は痛いほど張りつめた怒張を手で支えると、待ちかねて口を開く伯父の後孔に宛がった。そのまま重みを掛けて一気に奥まで刺し貫く。 「ん、あ、あんっ……!」 「…………ッ!」  歓喜の声と共に、伯父の両足が腰に絡みついてきた。三条は必死で声を噛み殺す。  蜜を湛えた肉壺が、屹立をねっとりと咥え込んでいた。痩せた腹がうねるように動き、肉棒の先端を腹の中に擦りつける。子種を搾り取ろうと肉環が吸い付いて、おのこを逃がすまいと長い両足が腰を引き寄せる。 「いぃ……ああっ、あぁ……生の摩羅じゃ、ホトが痺れる……っ」  腰を使うどころではない。正体がばれぬようにと拳を噛み、声を漏らさぬようにするのが精一杯だった。  白く美しい伯父の裸体が、紅い絹張りの布団の上で妖しく淫らに踊った。  いつもは透き通るほど白い肌は、今は上気してところどころ朱を帯びている。玉の肌はしっとりと汗ばみ、嬲られた二つの乳首は大きく腫れあがって、唾液に光っていた。腹の上で跳ね回る屹立は細い紐を幾重にも巻かれ、玉の袋にも二つの玉を分けるように紐がきつく食い込んでいた。淫らな光景だった。  長柄が手を伸ばし、濡れた鈴口を指先で弄った。 「そら、しっかり尻を振って種を絞って下さらねぇと、こっちに棒を突っ込んじまいますよ」 「……ひぃっ……あ、や……嫌じゃ、姫逝きできなく、なってしま、う……」  白い頬を真っ赤に染めて、硬質な美貌が泣きだしそうに歪んだ。  耳を覆いたくなるほど媚を含んだ、甘えるような声。身分卑しい置屋の用心棒風情に、華狐となるべく生まれたはずの伯父が遊女のような鼻声を上げた。 「嘘は良くねぇな」  長柄は玉袋を締める細紐を掴むと、それを食い込ませて揺さぶった。伯父が泣き声のような悲鳴を上げて、尻の中の三条を絞り込む。 「このちっこい穴の奥を、棒でおイタされるのが好きでしょうが。正直に言わねぇと、摩羅を抜いちまいますぜ」 「抜かない、で……!」  男の脅しに、伯父は必死で取り縋った。 「好きじゃ……つぼみは、ここをおイタされるのが好き……ホトの奥をそなたのおのこに突かれて……おのこの奥を棒でいじめられるのが、いっとう好きじゃ……」  もう、堪えられなかった。  甘ったるい声であられもなく責めを望む伯父の言葉と、張りつめた男根をぬるぬると扱き上げる蜜壺の動きに、女を抱き慣れたとはいえ、まだ若い三条の性が保つはずがなかった。 「……伯父上ッ……!」 「……!? ……な、アッ、……ァアッ!」  性の欲望に逆らわず、三条は思うさま腰を振り立てた。好い場所は分かっている。何も知らなかった三条に、この部屋でそれを教えたのは他ならぬこの伯父だ。  引き攣るような嬌声を上げながらも、相手を確かめようと、伯父は顔を覆った紅い目隠しを自ら毟り取った。 「……! そなた……ッ!」  血の色よりも鮮やかな瞳が、三条とその後ろに立つ主の姿を捉えて一瞬怒りを露わにした。  だが、その目がすぐに泣き出しそうに歪む。紅い唇からは責める言葉が放たれるかに思われたが、一度息を飲んで噤んだ唇は、一瞬後には身も世もない噎び泣きの声を漏らし始めた。腹の上に横たわる肉茎から、止めどもないおなごの蜜が零れ出る。  主の姿を認めた途端、箍が外れたように昇りつめてしまったのだ。 「ああぁあぁ!!……んう、逝くぅううぅッ……姫逝き、するぅぅうッ!……」 「あっ……ぁあッ!」  高みに昇る伯父の姿に引き摺られ、三条も若い精を放つ。  貪欲な肉壺の奥へ子種を擦りつけると、伯父の煩悶はますます淫らに激しくなった。身を退こうとする三条の腰を両足で引き寄せ、根元まで咥え込んで尻を擦りつける。  放ったばかりの敏感な肉茎を擦られて、三条は苦しいほどの快感に悲鳴を上げた。 「伯父……、伯父上ッ……やめ、て……」 「駄目じゃ、抜いてはならぬ……ッ……もっと、もっと奥まで来やれ……ッ!」 「……ぁんんッ!……くる、しい……ッ」 「伯父上……もう……ッ」  貪りつくされる感覚に、三条は呻きを漏らした。頭がおかしくなりそうだった。  吐精を終えて、ただ余韻を味わっていたいのに、伯父の肉は三条に食らい付いて放さない。まだまだ足りぬ、もっと吐き出せと、水音を立てて蜜壺が吸い付く。腰を退いて逃れたいのに、長い足がしっかりと腰に絡みついて放してくれない。 「……ひ、ぃッ……いやじゃ、伯父上……もうなりませぬ、放してくだされ……ッ」  肉壺に扱かれ続けるおのこの部分が痺れるように疼いた。擦られすぎて、腰の奥が蕩けて崩れていきそうだ。もがく動きが余計に刺激となって、泥沼のような逃れがたい快楽を連れてきた。泣きそうなほどに下腹が熱い。 「潮吹きしちまいなさい」  不意に背後から耳元で囁かれた言葉に、三条はぶるりと体を震わせた。  在りし日の光景が鮮やかに脳裏に浮かぶ。大立の巨大な逸物に尻を貫かれ、吐精した後の陰茎を苛まれて、悶え狂いながら潮を吹いた日本号の姿が。 「やぁっ!」  胸を抓まれる快感に、三条は身を捩って叫んだ。  背後から背を抱くように覆い被さった長柄が、乳首を抓んで指で捏ねていた。ビリビリとした痛みに近い疼きが胸を襲う。 「ちっせぇ乳首だ。ちゃんと主に可愛がって貰ってますか」 「やめて!……やめてッ!」  色づきのほとんど無い小さな肉の凝りを長柄の無骨な指に押し潰されると、下腹に刺すような痺れが走った。失禁しそうな感覚に襲われて悲鳴を上げれば、その声に触発されたように三条を呑んだ伯父の肉はますます強く吸い上げてくる。 「色も足りやしねぇ。ちぃっと『化粧』を手伝ってやりましょうか」 「き、……ぁあああ―ッ」  両方の乳首を指で挟んできつく捩じられた拍子に、三条の中で何かが堰を切った。  失禁と吐精の両方が混ざったような感覚が下腹を襲う。精が通り抜けたばかりの敏感な通り道を、大量の蜜が再び迸っていく。  強制的に導かれた快感に腰が勝手に跳ね上り、伯父の肉壺を突き上げた。 「……ああぁ……たねつけ、きもちいい……すきじゃ……もっと、して……」  霞む目を開けると、美しい顔を恍惚と歪めて、腹の内に吐き出された蜜を貪る伯父の姿が見えた。凍り付くように冷たかった貌が赤みを帯びて蕩け、花が綻ぶように幸福そうな笑みが浮かんでいる。  相手など誰でも良いのだ。この強欲な姫穴に摩羅さえ収めていれば無上の悦びを覚えられる。主の手によって、伯父はそう作り変えられた。  ――伯父上は伏見様と同じ、肉欲に狂う玩具じゃ……。  そしてその同じ運命が己にも待っているのだということを、三条は恐れとともに予感した。 「もっと……もっとさわって……ちちを、いじめてくだされ……」  背後から抱きかかえる日本号が、伯父の真っ赤に膨れた乳首を指で弄ってやっていた。  屹立の縛めは伯父が萎えた分少し緩み、腰を揺らすたびに先端から新たな蜜を零した。後孔に三条を収め、乳首を日本号に弄られて、ずっと姫逝きしつづけているのだ。長柄が囁いた。 「蕾の方様はうんと小さい頃から、ずっと主の慰み者さ。そのせいで男の逸物なしじゃ昼も夜も明けねぇ色狂いになっちまってる。――あれがあんたの伯父上様の本性なんだよ」  囁きながら、長柄は三条の肩に音を立てて口づけした。  吐精と潮吹きを立て続けに味わって体が砕けてしまいそうな三条は、背中を下りていく口づけに甘く喘いで身を震わせた。敏感になった肌は、擽るような吐息に官能を高める。さっき捩じられた乳首が、今一度の責めを望むようにピリピリと痛んだ。  長柄の唇は口づけを繰り返しながら腰よりも更に下りていった。そして三条の尻の肉に口づけしたかと思うと、まだ柔らかいその肉に歯を立てて噛みついた。 「……アッ!」  はっきり歯形が付いたと分かるほどきつく噛みつかれて、三条は痛みから逃げるように伯父の胸の上に倒れ込んだ。腰が浮いたその体勢にギクリとしたのは、濡れた指が後孔に入り込むのを感じた時だ。 「や……ッ! やめ……ぁああッ!」  拒絶の声を上げる間さえなく、無防備な姫穴に長い怒張が入り込んできた。  ――長い。 主の肉棒よりさらに長い肉の凶器が、今まで味わったこともないほど奥まで貫き通ってくる。腹の底が抉られ、さらにその奥を拗じ開けられる感覚に、まだ若い三条は獣のような叫びを上げた。  息ができない。腹の底から体の中身を押し上げられて、はらわたが捻れる。  手足が痺れるほど苦しくて、下腹が焼けたように熱かった。 「あんたも同じ所に堕ちちまいな……!」 「……や、ぁ、あ、あ、あ――ッ……ぁあ――――ッ……ッ!」  主に捧げた姫穴が下郎の長い槍に犯されていた。おのこの部分は満足を知らぬ伯父の肉に食われたままだ。もう止めてくれと声にならぬ声で叫ぶが、それを聞き入れてくれる者はここには居なかった。 「もっと……もっと、たねつけして……ああぁ、もっとおくまで、おなさけをくだされ……」  苦しみもがく三条の動きに昂りを誘われた伯父が、極まった声で淫猥な言葉を紡ぐ。あの伯父の口から出るとも思えぬ言葉だったが、使い慣れた誘い文句のように、その言い方には躊躇いがなかった。 「ああ分かってるぜ。そら、こいつを舐めて濡らしな。あんたの可愛い甥っ子と一緒に、姫穴の奥までぶち抜いてやるからよ」 「うれしゅうございます、ぬしさま……なんとたくましい、ぬしさまのおのこ……つぼみのひめあなに、はよう、はめてくだされ……」  惚けたあどけない笑みを見せながら、絶世の美貌を持つ伯父が、禍々しいほど長く太い肉の棒を舐め上げた。なまじ類を見ぬほど麗しいだけに、男の肉棒を舐め回すさまは一種の冒涜さえ感じさせる。  日本号はその猛々しい凶器を、三条の肉茎とともに二本挿しにするつもりなのだろうか。考えただけで下腹がおかしくなりそうだ。逃れたくとも、前も後ろも囚われている。長柄の槍に貫かれて、姫逝きが止まらない。 「ぬしさま……!」  助けを求めるように、三条は主の姿を探した。だがすぐ側にいたはずの主は、忽然と消え失せたように、部屋の中の何処にもいなかった。

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