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第3話(九尾目線)

「……のんびりしている暇はないね。九尾、早く逃げよう。都から遠く離れてしまえば、奴らも追って来ないだろう」 「わかった。でもどこへ行けばいい? 下手に逃げたら人間たちにすぐ見つかってしまう」 「大丈夫だ。実はちょうどいい隠れ家を知っている。そこへ逃げ込めば絶対に見つからないはずだ」 「そうか。なら連れて行って欲しい」  くるりと背を向け、晴明は山の中を歩いて行った。九尾は素直にその後を追った。  やがて洞窟の前にやってきた。晴明が中に入って行ったので、九尾も一緒について行った。しばらく進んでみたが、その先は行き止まりになっていた。  九尾は少し首をかしげて、尋ねた。 「? 晴明、ここが隠れ家なのか?」 「ああ。……そうだね」  不意に、足元が怪しく輝き出した。ハッとして地面に目をやると、そこには陰陽術によく使われる星型の紋様『五芒星(ごぼうせい)』が刻まれていた。  ――え……っ?  呆然とする間もなく、九尾は五芒星の中に閉じ込められた。慌てて逃げようとしたが、何故か身体が言うことを聞かない。じわじわと瞼が重くなり、全身の感覚が薄れていく。頭が痺れてほとんど何も考えられない。晴明に向かって手を伸ばすも、身体を動かしている感覚すらなくなってきた。  大好きな晴明が、だんだん遠ざかっていく。  ――いやだ……!  こんなところで眠りたくない。私はあなたと一緒にいたい。あなただって私を愛してくれたじゃないか。私にたくさんの幸せをくれたじゃないか。あれは嘘だったのか。私を騙して油断させて、こうやって封印するためだったのか。私はあなたのこと信じていたのに。あなたのこと、本気で愛していたのに……!  歪んだ視界越しに、九尾は晴明を見た。ハッキリとはわからなかったが、九尾には彼が泣いているように見えた。  何故そんな顔をしているの。私を封印したのはあなたなのに。  わからない。あなたの気持ちが全然わからない……。  視界が閉ざされていく。何もかもが遠くなる。ああ、もう見えなくなってしまった。大好きなあなたの姿が。 「せい、めい……」  どうして……という言葉は、声にならなかった。  九尾の意識は、冷たい闇の中へ深く沈んでいった。

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