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第23話

「じゃあ下着買ってくる。すぐ戻ってくるから、そこで待ってろよ」  きっちりカーテンを閉め、晴斗は急いで下着を数枚買いに走った。数分で元の試着室に戻ったら、九尾は言われた通り晴斗の帰りを待っていた。 「はい、これ! これ穿いてから服着てくれ」 「……わかった」  初めて着る衣装に戸惑いながらも、九尾はなんとか服に袖を通していた。その間、晴斗は彼の和服を小さくたたんで買い物バッグに放り込んだ。この衣装は、晴明さんが見繕ってくれたものなんだろうか。それなら、服を捨てたくないという気持ちはよくわかる。 「……これでいいんだろうか?」 「ん? どれどれ……、って」  服自体は、どこにでも売っているTシャツとタイトなボトムスである。けれど美人でスタイルのいい九尾が着ると、高級ブランドの人気商品に見えた。和服姿もよく似合っていたが、今時の若者らしい格好をさせても実にサマになっている。かっこいい。  晴斗は思わず感嘆の溜息を漏らした。 「おおお……さすが九尾、ファッションモデルみたいだな」 「ふぁっしょんもでる……? よくわからないが、今の人間はこんな服を好んで着ているのか? 下の衣装も随分窮屈だし……」 「すぐに慣れるって。今の九尾、すごく素敵だぜ?」 「……そうか」  まんざらでもない様子の九尾。やはり「綺麗だ」とか「素敵だ」とか言われると、それなりに嬉しくなるらしい。そこは人間と同じだ。  服を購入した後は、老舗の百貨店に入って毛繕い用のブラシを買った。綺麗な毛並みを痛めないよう、職人がひとつひとつ手作りしている高級ブラシを選んだ。 「ほらよ、九尾。プレゼントだ」 「……これもくれるのか?」 「ああ。というか、これが一番大事なものだろ? 毛繕いの道具だもんな」 「…………」  九尾は紙袋の中から、買ったばかりの高級ブラシを取り出した。毛は硬すぎず柔らかすぎない猪が使われており、柄の部分は木製である。毎日使うものなんだから、多少奮発しても惜しくないと思った。

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