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第30話
「…………」
晴斗は九尾の銀髪を一房手に取った。星のようにキラキラしていて、シルクのように艶やかだった。確かに派手と言われれば派手かもしれないが、髪の色ひとつでそんな邪険に扱うこともないだろうに。可哀想な九尾……。
「俺は好きだけどな、九尾の髪。真っ直ぐでツヤツヤしてて、すごく綺麗だと思うぞ」
「えっ……?」
「多分アレだ、その妖怪たちは九尾があまりに綺麗だから嫉妬してたんだな。そんなヤツらの言うことなんか気にすることない。それに、クソ汚いままでいるよりずっといいと思うぜ?」
「…………」
「……よし、と。背中はこんなもんかな。他にやりにくいところはあるか?」
「あ、いや……大丈夫だ。ありがとう」
そう言って、九尾は身体中の泡をシャワーで洗い流した。
その後、湯船に二人で浸かった。実家の風呂はそこそこ広く、一人なら足を延ばせるレベルなのだが、大人二人ではやはり狭く、二人で密着して入らなければならなかった。九尾の尻尾もかなり邪魔になっていて、やむなくバスタブの縁に引っ掛けておくことになった。
「悪いな、九尾。窮屈だろ」
「……いや、いい。入浴の作法はだいたいわかった。今後は一人で入れる」
「そうか、それはよかった……」
そう答えつつ、晴斗はチラチラと九尾の様子を窺った。
洗いたてでピカピカの肌がお湯でしっとり濡れている。温まった身体がほんのり上気し、色っぽい薄桃色に変化している。銀髪から滴る水滴が首筋を伝って湯船に落ちた。
――九尾には「触るな」って言われたけど……。
頭についているキツネの耳。これを触った時、九尾はものすごくイイ反応をしてくれた。艶っぽい声で鳴いてくれて、すごく可愛かった。
それを思い出したら、なんだか無性に触りたくなってきた。
――一緒に風呂に入るなんて、もう二度とないだろうしな……。
ちょっとだけ、ちょっとだけ……と心の中で言い訳しながら、晴斗はキツネの耳を掴んだ。
「きゃん!」
案の定、九尾は驚いて飛び上がり、湯船の中で暴れ出した。
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