97 / 134

第97話

 次の瞬間、玉藻前の身体からキツネの耳と尻尾が生えてきた。薔薇の花びらのような、深紅の毛並みをしていた。尻尾も太いものが六本ある。九尾ではなく「六尾の狐」といったところか。 「うわっ!」  玉藻前は六本の尻尾を伸ばし、晴斗に絡み付かせてきた。首元や胸回りをきつく締め上げられ、ずるずると引き寄せられてしまう。すごい力だ。振り解けない。 「やめ……離せよっ!」 「あなた達の想いがどれほどのものか、試してあげる」 「はっ……? 何言ってんだ、お前……!」 「九尾」  倒れている九尾の頭を容赦なく踏みつけ、玉藻前は言った。 「この人間を助けたければ、自力で屋上にいらっしゃい。素敵な景色を見せてあげるわ」  次の瞬間、ぐにゃりと目の前の空間が歪んだ。玉藻前の術なのか、何もない場所に黒いひずみのようなものが浮かび上がった。小さなブラックホールみたいだ。  玉藻前は尻尾に晴斗を巻き付けたまま、空間のひずみに飛び込んだ。 「ちょっ……待て! 放せ、コラ!」  一生懸命足を踏ん張って抵抗したものの、尻尾も振り解けない状況ではどうすることもできない。肝心の三尾も、いつの間にか姿が見えなくなっていた。  ――あンのタヌキ……! 逃げやがったな!  あれだけやりたい放題やってくれたくせに、敵前逃亡ってどういうことだ! 全然役に立たないじゃないか、クソダヌキめ!  心の中で三尾を罵ったが、この場にいないのではどうしようもない。 「くそ……九尾っ!」  その叫びが九尾に届いたのかはわからない。  見えない力に吸い込まれるように、晴斗も玉藻前と共に空間に呑み込まれていった。

ともだちにシェアしよう!