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第118話
「えーと……」
残された晴斗は、頭を掻きながら隣にいる九尾を見た。
「……あれ、解決したことになるのか?」
「なると思う。あの二人にとって、現世はあまりに窮屈すぎたんだ。だから想い合っても上手くいかなかった。でも死後の世界なら……きっと、大丈夫だ」
九尾はしばらく川の先を見つめていた。とても穏やかで優しい顔をしていた。
やがてくるりと晴斗の方に顔を向けると、微笑みながら手を差し伸べて来た。
「さあ……私たちも帰ろう。三尾に会ってお礼を言わなくては」
「ああ、そうだったな」
しっかりと九尾の手を取り、晴斗は後ろを振り返った。
晴明が開けてくれた光のゲートは、彼がいなくなったことで術の効果が切れたのか、その扉を閉じつつあった。
「やべっ……! 九尾、急げ!」
慌てて入口に飛び込み、出口まで一気に走り抜ける。真っ白な空間は進むにつれてだんだん明るさを増していき、次第に目がくらむほどになってきた。
次第に身体が軽くなっていくような心地がした。とうとう目も開けられなくなり、ふわりと浮き上がるような感覚だけが残った。
そして――。
***
「……ハッ!?」
晴斗は、ガバッとその場に跳ね起きた。眠りのスイッチを切ったみたいに、唐突で完璧な目覚めだった。
きょろきょろと周りを確認する。意外なことに、そこは自分の自宅アパートだった。少し意外に思った。屋上から落ちて意識不明の重体になっていたのなら、病院に運ばれてもおかしくないのだが……。
「……そうだ、九尾!」
自分のすぐ隣で寝ている銀髪の妖狐。晴斗はゆさゆさとその身体を揺すった。
「九尾……九尾、大丈夫か?」
「ん……」
九尾のまぶたがピクリと動き、長い睫毛が震えた後、ゆっくり上下する。紫色の綺麗な目がこちらを映した。
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