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第119話
「晴斗……?」
「はあ……九尾、よかった。万が一帰って来てなかったらどうしようかと思った」
「……大丈夫。私はいつでも晴斗の側にいる」
九尾はふわりと微笑み、晴斗の首筋に手を回して来た。そして顔を引き寄せると、頬をぺろりと舐めた。
――おわッ……!?
不意打ちの頬ペロに、動揺して思考が停止しそうになる。
なんだなんだ!? 大丈夫か、九尾は? 目覚めるやいなやかなり大胆なことをしてるけど、九尾ってこんな性格だったっけ? それとも、本当に好きになった相手には大胆なことをするのだろうか。それはまた随分なギャップだが……。
「あーあー、ヤダね~! 目覚めて早々熱いのを見せてくれちゃってさ」
突然頭上から刺々しい声が降ってきて、晴斗はハッと顔を上げた。一匹のタヌキがこちらをじっとりと睨んでいた。
「三尾……! よかった、無事だったのか」
九尾が起き上がって三尾に近づいたら、三尾はぴょんと九尾に飛びつき、
「うえぇぇぇん! 九尾ちゃぁぁん!」
と、わざとらしい泣き声を上げ始めた。ぶんぶん尻尾を振っているが、その尻尾は何故か一本しかなかった。
「おい、三尾。残り二本の尻尾はどうしたんだよ?」
「『どうした』じゃないよ! あんたが玉藻前と一緒に落ちて来るから、潰れちゃったんでしょ! めっちゃ痛かったんですけど! どうしてくれんのさ!」
「えっ……?」
「おまけに力の使い過ぎで、しばらくこの格好から戻れなくなっちゃった……。これじゃ九尾ちゃんとデートできないよぉ! うえぇぇん!」
ここぞとばかりに九尾に泣きついている三尾。わざとらしいのには変わりないが、実際の彼の姿を見ていると、その話が誇張でもなんでもないことを思い知った。
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