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第132話

 その後、気怠そうな九尾を支えながら、二人で仲良くシャワーを浴びた。  一人暮らしの狭いアパートについているようなバスルームだから、大人の男が一緒に入るにはなかなか大変だったが、それでも九尾は嬉しそうだった。髪を洗っている時も背中を流している時も、ピッタリくっついて離れない。「私はいつでも晴斗の側にいる」という言葉に嘘偽りはないようだ。 「晴斗……」 「ん、何だ?」 「私、もう少し『もでる』を続けてみようかと思う」 「はっ……? でも九尾、『私はもでるには向いてない』って言ってなかったか?」 「言ったが……私ができる仕事なんて、これくらいしかないから」  晴斗は目を丸くしたが、九尾は更に続けた。 「あの業界には『ぶーむ』があるから、私が働いていられるのは少しの間だけだと思う。いつか仕事がなくなる日がきっと来る。だからそれまでは、晴斗のために頑張って働いてみようと思ったんだ」 「え? 俺のため?」 「人間は仕事をしてお金を稼がないと生きていけないんだろう? 私は妖狐だからお金には興味ないが、晴斗が生きていくためなら頑張って稼ごうと思える。『もでる』の仕事でどれだけの足しになるかわからないが、少しでも晴斗の生活が豊かになったら嬉しい」 「九尾……」  ――おいおい、どんだけいい子なんだよ……。  素直で優しくて、無欲で一途。こんな素晴らしい恋人が他にいるだろうか。九尾が側にいてくれたら、自分は一生恋人には困らない。  晴斗は彼をギュッと抱き締めた。 「ありがとな、九尾。じゃあお前のために、もう少し広いマンションに引っ越すか。九尾が尻尾全部出してもまだ余裕があるくらい、広々とした場所な。『こんな窮屈なボロアパートじゃ、九尾ちゃんが可哀想』……って、あのタヌキも言ってたし」

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