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脱衣
「服はこちらで脱がせさせていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、はい、お願いします」
「それでは立っていただけますか」
先に立ち上がったリョウが差し出した手を借りて、ナオトもソファーから立ち上がった。
正面からスーツの上着のボタンを外された後、後ろに回ったリョウに上着を脱がされた。
人に服を脱がせてもらうのなんて子供の時以来でなんだか照れくさかったけれど、同時にすごく大事にされているみたいで気分がいい。
再び正面に回ったリョウが、今度はネクタイに手をかける。
自分でほどくときはすぐに終わってしまうその行為を、リョウはなぜかひどくゆっくりと行った。
首元で動くリョウの指先が、時折、ナオトに触れる。
シャツごしに感じるその指はネクタイをほどく過程で偶然に触れているに過ぎないのに、まるでナオトの首元を優しく撫でているかような奇妙な錯覚を覚えてしまう。
その感触に絶えきれずに喉の奥からおかしな声が出かけたその時、ようやくネクタイをほどき終えたリョウの手が離れていき、ナオトはほっと息をついた。
しかし、続けてリョウの手はナオトのYシャツのボタンを外し始め、ナオトは再び体を固くする。
ナオトの緊張を見抜いたのだろうか。
リョウは今度は出来るだけナオトに触れないようにしてシャツのボタンを外していく。
前の方に引っ張られたシャツで出来た空間になぜか不安と不満を覚えた気がしたのも、つかの間。
すぐにナオトの頭の中は羞恥でいっぱいになる。
服を脱がせる側のリョウの体に綺麗な筋肉が付いているのに比べ、脱がされる側のナオトの体は昔からほとんどスポーツもしてこなかったので貧弱そのものだ。
例えば大浴場などで隣あっただけならば別に恥ずかしいとは思わないけれども、こうして立派な体の男と向かい合って服を脱がされる立場になると、ちょっとくらい体を鍛えておけばよかったと後悔する。
心の中で恥ずかしさに身悶えているうちにシャツを脱がされ、続いてベルトを外されスラックスを足元に落とされた。
「私の肩につかまっていて下さい」
しゃがんでスラックスの足を抜こうとしているリョウに声を掛けられて、一瞬遠慮しようかと思ったが、そんなささいな意地を見せるのもかえって恥ずかしい気がして、ナオトはリョウの両肩に軽く触れる程度に手を置いた。
スラックスの足を抜く間はそれでも問題がなかったが、靴下を脱がされる時にバランスを崩してナオトは思わずリョウの肩にぎゅっとつかまってしまう。
「……っ、すいません」
慌てて謝って手を離すと、その手を下から伸びてきたリョウの手に握られた。
「構いませんよ。
それよりもまだ片方残っていますから、ちゃんとつかまっていて下さい」
そうして再びリョウの手に導かれ、ナオトは仕方なく再びリョウの肩に手を置く。
そうしていると、さっきまでは別にどうも思わなかったリョウの素肌の感触が妙に気になってしまって、ナオトはなんだか落ち着かない気分になる。
そわそわしているうちに靴下が脱がされ、リョウの手がトランクスにかかったところでナオトははっと我に返った。
「こ、これは自分で脱ぎます!」
真っ赤になって言うと、リョウは穏やかに微笑んで「それではこちらをどうぞ」とタオルを差し出してくれた。
脱いだままだったスーツを手にしたリョウがクローゼットの方を向いている間に、ナオトは急いでトランクスを脱ぎ、渡されたタオルを腰に巻く。
服を脱ぐだけでこんなに慌てさせられてるのに、この後体洗ってもらったり一緒にお風呂入ったりして大丈夫なのかな。
正直、心臓が持たないような気がするんだけど。
そんな心配が頭に浮かんだのに、スーツをハンガーに掛けて戻って来たリョウに「どうぞ」と手をさしのべられると、ナオトは魅入られたようにその手を取り、バスルームの方へと足を踏み出していた。
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