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風呂場で 3
始めて味わう抱きしめられる心地よさに浸っていると、ナオトの体を洗いながらリョウが話しかけてきた。
「ちょっと失礼なことをうかがってもいいですか?」
「……はい? なんでしょう?」
「あの、お客様はやっぱりゲイなんですか」
「……は?」
自分には全く縁が無いと思っていたことを口にされて、とっさに理解ができなかったが、その意味が徐々に頭に入ってくると、ナオトは猛然と首を横に振った。
「ち、違います!」
「え? 違うの?」
聞かれたナオトも驚いたが、その答えにリョウの方も驚いたらしく、口調が素に戻っている。
「けど、ゲイじゃないなら、どうしてわざわざうちの店に?」
「えっと、僕、相手の人が男の人とか女の人とかってことより、お店のサイトにあった体験談で、優しく洗ってもらったり抱きしめてもらえたっていうのがあって、それがいいなって思って……。
女の人が相手してくれる風俗だと、エッチなことが目的だから、そういうことはしてもらえないですよね?」
「いや、してくれるよ?
もちろんエッチなことするために行くお客がほとんどだけど、たまに膝枕とか添い寝とか女の子に甘やかしてもらうだけのお客もいるって言うし。
っていうか、体洗ったり抱きしめればいいだけだったら、楽だからむしろ女の子は喜ぶと思うよ」
「そ、そうだったんだ……」
女の子が相手をしてくれるソープランドの知識がないわけではないが、ネットのエッチな小説から得た知識ばかりだったのが徒になったらしい。
『vanilla Bath』のサイトを見てその内容に夢中になってしまったせいもあって、まさか普通のソープランドでも同じようなサービスを受けられるとは思いもしなかった。
「それは残念だったね。
ま、女の子はまた今度ってことで、今日のところは俺で我慢してくれる?」
「いえ、我慢なんてとんでもないです。
リョウさんに抱きしめてもらうの、すごく気持ちいいし」
本来受け付けていないはずの男の客なのに、こんなに丁寧にサービスしてくれているリョウに、自分の勘違いで嫌な思いをさせたくなくて、ちょっと照れくさかったけど、ナオトは感じていることを素直に伝える。
「そう? ならよかった」
ちょっと嬉しそうな声でそう言うと、リョウはナオトをきゅっと抱きしめてくれた。
「でしたら、このまま心を込めてサービスさせていただきますので、お客様も楽しんでくださいね」
すっかり止まっていたスポンジを握った手を再び動かしだしたリョウは、砕けた口調も再び優しく丁寧なものに戻していた。
ナオトの方がそうして欲しいと頼んだはずなのに、何となくそれが寂しいような気がする。
抱きしめる左手の位置を変えつつ、お腹まで洗い終えると、リョウはナオトから手を離して立ち上がった。
ぴったりとくっついていたリョウの体が離れていったのが、ひどく惜しい。
もっともっと、出来ればいつまででも抱きしめていて欲しい。
けれどもナオトは、その望みを口に出すことが出来ない。
ナオトの望みなど知らないリョウは、またナオトの前側に回った。
「足を洗わせていただきますね」
一言声を掛けてから、リョウはナオトの腰に巻いたタオルから出ている右足を洗い始めた。
足の前後と足の甲を洗い終えると、次に左足を洗う。
「失礼します」
左足を洗い終えると、リョウはナオトの右足を少し持ち上げた。
そうして足の裏をさっと洗うと、今度は足の指を一本ずつ、指の股まで丁寧に洗い始めた。
「……っ!」
自分でも毎日洗っているところだが、人に洗われると妙にくすぐったい。
「くすぐったいっ……」
脇の下を洗っていた時はナオトがびくっとしただけでやめてくれたのに、今度はそう訴えてもリョウは足の指を洗うのをやめてくれなかった。
「すぐ終わりますから、少しだけ我慢してくださいね」
優しい声でそう言われ、仕方なくナオトはリョウが両足の指を洗い終えるのを体をぴくぴくさせながら待つしかなかった。
リョウの言葉の通り、少しだけ我慢していたら足はすぐに洗い終わり、ナオトはほっと息を吐く。
そんなナオトを見て、リョウはにっこりと微笑むと口を開いた。
「どこか洗い足りないところはありませんか?」
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