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チャイムが鳴ったのでドアを開けると、恋人が疲れた顔で立っていた。 「いらっしゃい」 「おじゃまします。  ごめんね、遅くなって」 「いいよ。  それより仕事忙しかったの?  目、真っ赤になってるけど」 よっぽど疲れているのか、ナオトの目は充血して真っ赤になっている。 ウサギのようでちょっとかわいいとも思うが、それ以上に痛々しい。 「あ、やっぱり?  今日、一日中パソコンでデータ処理やっててさ。  とにかく目が疲れちゃって。  冷やしたらちょっとはましになるかな」 「あ、目薬あるよ。  今出すから、ナオトはソファーに座ってて」 そう言ってナオトが脱いだ上着を受け取ってハンガーに掛けてから、いつかチャンスがあればと思って買ってあった目薬を出してきた。 「差してあげるよ。  上向いてくれる?」 「ん、ありがとう」 最初はこういう時も遠慮していたナオトだが、最近ではリョウに世話されるのに随分と慣れてきたので、今日も素直にうなずいた。 目薬を差しやすいように、ナオトの右目の下まぶたに指をあてて下げる。 焦点の合ってない瞳には、リョウの顔が映っている。 いつものことながら、こんなにもたやすくリョウに身をゆだねてしまうナオトの素直さには、感動すら覚えてしまう。 こんなふうに無防備に瞳を晒せば、リョウさえその気になれば、たやすくこの瞳を傷付けてしまえるというのに、ナオトはそんな不安はカケラも抱いていないのだ。 もちろん、リョウとて大切な恋人を傷付ける気などないが、それでも自分なら、こんなふうに相手にすべてをゆだねることは出来ないだろうと思う。 そんなことを考えながらナオトの右目に目薬を一滴落としてやると、目にしみたのか、ナオトは顔をしかめてぎゅっと目を閉じてしまった。 「ほら、左も」 笑いをこらえながらそううながすと、ナオトは「うん」と答えて、再び目を開けた。 右目と同じように左目にも目薬を差してやると、ナオトはまたぎゅっと目を閉じた。 その目頭のあたりを指で軽く押さえてやると、予想外のことだったのか、ナオトはびくっと身を震わせた。 「なに……?」 「ここを押さえておくと目薬が鼻の方に流れないからいいんだって。  あ、目は開けちゃだめだよ」 リョウがそう言うと、ナオトは半分開きかけていた目を再び閉じた。 目を開けるなと言ったせいで、変な力が入ってしまっているのか、ナオトのまぶたはぴくぴくと震えている。 その様子を少しだけ楽しんでから指を離すと、ナオトも目を開けた。 「あー、だいぶましになったかも。  ありがとう」 「どういたしまして」 目薬にふたをして、ナオトの隣に座ると、ナオトは控えめにではあるが甘えるように体を寄せてきた。 その体温は、いつもよりも高い。 まばたきも多くなっているから、どうやらもう、かなり眠くなっているようだ。 「眠い?」 「んー、平気……」 そう答える声も、ずいぶんと眠そうだ。 「無理しないで、今日はもう寝なよ。  ほら、歯磨いておいで?  パジャマ持って行ってやるから」 「うー……ごめんね」 立ち上がるのに手を貸してやると、ナオトはふらふらと立ち上がりながら謝った。 「気にしないで。  その代わり、明日一緒に朝風呂入ってくれるよね?」 意図的に色気のある声でそう言うと、ナオトは朝風呂ですることを想像してしまったのか真っ赤になりながらも、こくんとうなずき、少し慌てた様子で洗面所に向かった。 ナオトと自分の着替えを取りに行きながら、リョウは明日の朝風呂のことと、それからこれからすぐに自分の腕の中で眠りに落ちてしまうであろう恋人のぬくもりのことを考えていた。

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