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永遠の宵闇に海原の如く広がる竹藪。
その中心に構えられた古めかしくも立派な屋敷。
宮比から当主の座を譲り受けた壱は漆黒の翼が猛々しい烏天狗を従えて物の怪本陣を訪れた。
「兄様」
「兄上」
羽根の一枚一枚が濡れたようにしっとりと輝き、黒袴を纏い鋭い嘴持つ、猛禽妖の大凶は久方に会う人型弟達をちらりと見たものの。
壱の背中へ未練なく視線を戻した。
「当主交代の話は耳に入っちゃあいたが、新しいオヒガン当主はおのこはらみか。にしてもお前さん、えらく前と様子が変わったな?」
大座敷にて突然の訪問に警戒するでも血気盛んになるでもなく、金鬼は脇息に肘を突き、悠然と壱を見据えた。
畳に正座して背筋をすっと立てた壱はゆっくり微笑む。
「私はもうおのこはらみではありません」
小彼岸当主からお願いがありまして今回は来訪した所存であります。
「そういやぁ、お前さん、俺の嫌いな蛇の匂いがしねぇな。そっちは代々蛇神と契約を交わしてたんじゃあなかったか?」
「私には大凶がおりますので」
壱の背後に頭を垂れて控える大凶をちらりと見、金鬼はフンと笑う。
「で、お願いたぁ、なんだ」
花いちもんめの続きでもやるか?
金鬼の言葉に壱は薄闇に仄かに光り煌めく双眸を見張らせ、そして、優婉な仕草で口元を僅かに隠し、玲瓏たる声を添えて笑った。
「花いちもんめ、何がほしいのか互いにわからないなら、相談しましょうか、私と貴方で」
壱の言葉に金鬼は黒々とした双眸を一瞬戦慄かせ、そして、牙じみた八重歯を覗かせて吼えるように笑った。
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