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「どうしたの、なんで泣いてるの、野宮さん?」 「うう……」 「そんなにチーズハンバーグおいしい?」 「お……おいぢぃ……てか懐かぢぃ……っ」 夕刻、電車に乗って久し振りに訪れてみれば大分変化していた街並み。 覚束ない記憶を頼りに茜色に浸った道を進んだ、かつて食事した帰りに両親に強請って寄ってもらったゲームセンターもケーキ屋もなくなっていた、もしかしたら肝心のレストランも取り壊されてマンションかドラッグストアが建っているかもしれない。 ちょっとした不安に表情を曇らせて曲がり角を曲がってみれば、外装はリフォームされていたものの、同じ看板を掲げてレストランは経営を続けていた。 ほぼ満席のこぢんまりした店内でいい年したオトナが半泣き状態でハンバーグを食べている姿に、ぶっちゃけ、店員や客のチラ見は絶えなかった。 「懐かしいアニメ観て感受性が高まっちゃったかな」 一方、泣き虫な野宮に久世は微笑が止まらなかった。 「そ……そうかも……別に家族全員ふつーに生活してるけど、みんな健在だけど、今日の俺、なんか涙腺緩いみたい……久世サン……バジルスパゲティちょっとちょーだい……」 「どうぞ」 「っ……うわぁ、この味も変わってな……っ……ううっ」 野宮はアイスクリーム、久世はホットコーヒーで食事を締め括り、誘った野宮が勘定を済ませて外へ出れば外は宵闇に抱擁されつつあった。 「食べた食べた、うまかったー!」 フルコースで満腹になって落ち着いたのか、さっきまでの泣き虫ぶりが嘘のように野宮は満面の笑顔を浮かべていた。 「うん。昔ながらの洋食屋って感じで。美味しかった」 「だろ!? また来ようよ、久世サン、オムライスもクリームコロッケも絶品だから!」 八時前、空の隅っこは西日を引き摺って仄明るい。 点滅する飛行機のライトが遥か頭上をゆっくり横切っていった。 「寄り道して帰ろうか」 「別いーけど。どこ寄る?」 曲がりくねった路地裏を進んでいた久世は、前後に人の気配がないか速やかに確認すると。 隣を歩く野宮の無防備だった指にさり気なく浅く指を絡ませた。 些細な接触ながらも不意をつかれて思わず立ち止まった野宮の耳元に囁きかける。 「野宮さんとラブホに行きたい」 狡猾な指先はすぐに離れていった。 ほんの一瞬、それでいてゾクリと甘い戦慄を肌身に残していった久世に野宮はぎこちなく首を傾げてみせる。 「……わざわざ?」 「たまにはいいんじゃない。そもそも二人で行ったことないよね」 「……ん」 「せっかくだし、泊まりで?」 「えぇぇ……」 口では渋っているが内心グラグラ、いや、もうほぼ「行く」選択にある野宮。 それを十二分に察している久世は悠然と畳みかける。 「今日一日泣いてばっかりだったよね。これからもうちょっと泣かせてもいい?」

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