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「遅くなってごめん久世サンッ」
全国チェーンの大衆居酒屋テーブル席で一品料理を一人摘まんでいた久世の元に野宮は駆け足でやってきた。
「十分で終わらせるつもりが次から次にミス見つけちゃって、ううッ、一時間も遅れてしまいました!」
「経理に提出する書類、ちゃんと完成した?」
「月曜朝にはバッチリ提出できます!」
土曜夜の八時前後、様々な客で賑わう騒がしい店内。
もたもたとコートを脱ぐ野宮にハンガーを差し出し、待ちぼうけを食らっていた久世は不機嫌そうにするでもなく静かに笑った。
「気にしなくていいよ。案外、楽しめたから」
月に一度の土曜出勤を終えてきたスーツ姿の野宮はキョトンする。
落ち着いた深いブルーのニットにベージュのコーデュロイパンツという私服姿の久世は「一杯目の生、注文するよ、俺は二杯目いかせてもらうね」と呼出ボタンを押した。
同じマンションに住む二人。
自分が住む三階まで待てずに深夜のエレベーターの中で野宮にキスしまくる久世……。
「も、着くってば、久世サン……ッ」
「ン……今日、野宮さんを待ってる間……」
「ん……っ?」
「どんな風に悦ばせてあげようか、ずっと考えてた」
「ッ……」
「俺のウチにお泊まりするのは久し振りだし、ね」
「ッ、ほらほら、もう着いたって……! 一端離れましょーかね!?」
「ハイハイ」
そんなわけで熱々な夜を共にした二人。
「……野宮さん?」
二月に入っていつになく暖かく晴れ渡った日曜の朝十時過ぎ。
久世は一人きりのベッドで目を覚ました。
昨夜は入浴をさぼって野宮に覆い被さりっぱなし、黒髪はやたらしんなりし、ボクサーパンツ一枚で寝たために肌寒い。
ドアの向こうから伝わってくる恋人の気配に誘われて久世はベッドから脱した。
一先ずルームパンツを履いてTシャツを着、床に脱ぎ捨てられていた自分の服をざっと畳み、野宮のスーツ一式はハンガーにかけて、リビングへ。
「お。おはよー、久世サン」
野宮はカウンター向こうのキッチンにいた。
「とりあえずコーヒーつくってっから」
起き抜けの久世は眩しげに何度もパチパチ瞬きした。
「朝飯、つーか昼飯か、どっか外で食べない? 今日って家電見にいくんだもんな?」
ドリップのホットコーヒーを二人分用意している恋人の茶髪は満遍なく濡れていた。
久世のフード付きパーカーを素肌に羽織っている。
接近してみれば下はお泊まり用に久世宅に置いてある自前パンツだけ、他には何も履いていないことがわかった。
「あっさりしたモン。ざるそばとか。天ぷらつけて。後、卵焼きとミニまぐろ丼。贅沢してビールもイイやつ頼んで」
久世は中途半端に無防備な姿でキッチンに立つ野宮を後ろから抱きしめた。
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