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店長と加藤さん
「入っていいですか?」
ドアのノックオンの後に吉信君の声がした。
「もう、いいよ。…ごめんね。迷惑かけちゃって…」
罪悪感のあまりか、吉信君の顔を見れなかった。
「なんで陸が謝んの?。よく分かんねぇけど、あっちの方がどうせ悪りぃんだろ?陸が無作法に人を怒鳴ると思えねぇし」
「……」
どう言えばいいのか分からず、黙りうつむくことしかできなかった。
「…お客さんは帰ってもらってるからさ。ネットとかに書かねぇように言ってるから、心配すんな。今日は常連さんが多かったし分かってくれてると思うぞ」
吉信君は気を遣ってか部屋には入ってこず、閉まった扉の前で話していた。
「…ごめんね。ありがとう」
「だから、謝んなって。あと、あの人知り合いか?有名人らしいけど」
「…ちょっとね」
隣に座る志麻が「まさか…」と、僕を見るのを視野に入れつつ、志麻の顔は見れなかった。
「今あの人達は、どこに?」
「店長とその二人は今警察行ってるよ。店長の付き添いで加藤さんも行ってるけど。店長曰く、相手が大物だから金で解決するじゃないかって」
「店長は?…」
「ちょっとここにこういったけど、そんだけだしっ。大丈夫だろ」
吉信君は右手で拳を作り、自分の頬にゆっくりと殴るふりをしながら言った。
「そっか…」
店長は昔ヤクザとして、高校半ばから二〇代後半まで行動していたらしく、喧嘩ごとになると手や足が出てしまう。もちろん、僕たちが仕事でヘマをしても、口で怒る程度で済ましてもらっているが。カフェを始めてからは、色々批判も言われ客がつきづらかったが、店長の努力が報われ今ではとても有名店へと成長したのである。しかし、僕のせいでまたどん底へと突き落としてしまった。僕のせいで…。
「気にすんなっ、店長なら大丈夫だからよ。加藤さんもいるし。なっ」
「…そうだけど」
加藤さんは、店長の中学時代からの同級生である。店長の暴れざまを身近で見たからこそ、店長の扱いには人一倍慣れている。店長を更生させたのも加藤さんだ。元々料理が上手かった店長にカフェを開くように進めたのも加藤さん。店長にとっての加藤さんは、僕にとっての志麻のような存在なのかもしれない。
「念のため裏から帰ってください。別に表に人がいるわけじゃねぇけど、念には念をとね」
うつむく僕に差を諦め、志麻にそこことを伝え、吉信君は部屋を出て行った。「大丈夫だからな」と言い残し。
「…帰ろ。うちに」
僕は小さくうなづいた。
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