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甘いアイスティー(成一視点)

「…ん、これ俺の飲みかけだけど」 「お、サンキュー」 誠は俺にアイスティーを差し出す。 昨日も持っていたので、誠のお気に入りなのかも知れない。 …俺にはどの味がお気に入りとか、わかんねぇけどな。 俺には味覚が無い。いわゆる「フォーク」というやつだ。だから、食事と言うものに親しみがわかないし、最低限の栄養が手にはいるなら何でもよかった。 幸い、容姿に恵まれてたから食事以外でも喜びは得られるし、高校生のわりには結構経験も積んだと思ってる。 だから、「フォーク」であることに大して不満は無かった。もちろん「ケーキ」を味わいたいと思った事も 「…ぇ……甘い」 この時までは。 「いや、それ無糖だけど」 誠は驚いたような間抜けな顔をしていた。 俺が手に持っているアイスティーのボトルには紛れもなく無糖と書いてあり、そのアイスティーが甘く無い事は明確だった。 誠の飲みかけの無糖アイスティーが甘い。 そして、俺は「フォーク」。 まさかな…… ぼんやりと浮かぶ事実と、昔の記憶が入り交じり、その後の話は頭に入らなかった。

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