4 / 20
4
結果的に、俺たちは名前すら名乗らなかった。
互いに呼び合うこともなくことに及んだ。
ハッキリしたことといえば、彼は経験値の高いゲイであるということだけ。
俺はホントに全然そっちの趣味はない、経験値ゼロのいわゆるノンケ。
「マジ俺そういうケないからね」
怖気付くでもなく淡々としていると、素っ裸になった俺を見てゲラゲラ笑ってた。
「その割にすごい体してるじゃねぇか」
しまいにクレイジーとか言いやがる。そりゃあそうか、手首まできっちり刺青が入ってんだから。
「あんたもよくこんなのお持ち帰りしたね、ヤバい奴だと思わなかったの?」
思わないわけないか、Tシャツ一丁でいたんだから、バーの暗がりですら目立つから、ずっとこの腕の刺青は見えてたはずなんだ。
「刺青なんか珍しくねぇよ。この国はあんまりそういうのに理解がねぇとは聞いてるがな」
その通りだ。それを承知で入れたけど、本当に肩身が狭い。
「だから、何でそんなに入れてるのか興味がある」
品定めするみたいに笑うもんだから、つられて笑っちゃった。
「それで連れてきたって?」
「まぁそんなとこだな」
「はーん、そうですか」
「あと、顔が好みだ。俺は、お前みたいな目の大きいアジア人が好きなんだ」
「そりゃどうも」
そんなに褒められたこともないから、何だか面白くなってきちゃって、ニヤニヤするのを止められなかった。
ともだちにシェアしよう!