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第6話
「さびしーんだよぉ、帰んないでよマジでぇ!」
大の男がなんか言ってる。
「お前、起きてたのかよ」
ドアノブを掴んだまま言う。
「帰るんでしょ?帰んないでよ兄さーん!一緒にダラダラしよーよー!」
子供が駄々こねるみたいに、手足をバタバタさせている。本当に呆れるわ、ガキだな。
「しねぇよバカ!さっさと寝ろこのアホ!」
「アホでもバカでもいいからー!」
「良くねぇ!じゃあな!」
ドアノブを回す。
その瞬間に「あー!」と大きな声を出しやがった。
「バカ!うるせぇだろ騒ぐな!」
「一緒にいてくんねーなら大声だすもーん! あー!!」
「やめろって!」
ぜってぇ壁薄いのに!
ドアノブを手放し部屋の中に戻る。駄々をこね続けるクソガキの頭を、一発思いっきりグーで殴った。
「痛ってぇ!」
「だから黙れってんだよ!」
思わず怒鳴ってしまった。俺が一番デカい声出してどうすんだ。
「ここまで連れて来てやったんだからありがたく思え! さっさと寝ろバカ野郎が!」
少し声のトーンを落としてもう一喝。
マジで疲れる。こんなにガキだとは思わなかった。
普段デカい声も出さないから、それだけで疲れた。大きくため息をつくと、怒鳴ったことすらバカらしく思えてきた。
「じゃあな」
何度目なんだか、この別れの挨拶も。
再びドアに向かおうとした瞬間、思い切り腕を引っ張られた。
「は……っ?」
バナナの皮でも踏んだみたいに足を滑らせて、そのまま背中から転んだ。
背中を預けたのは、酒臭い男の胸板だった。
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