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第3話『らんぼうは、メッ!』

「おいら飲み物取ってくるから、いい子にしてるんだよぉー?」 「っ、俺はガキじゃない!」 「知ってるよぉー?」 よしよしと頭を撫でると顔にかかっていた前髪を脇にやり、そのまま額にキスをした。 「やめっ、ろっ!」 「わぁ。危ないなぁー暴れちゃダメってー。また頭痛いいたいになるよ?もー……」 椋鳥はノキャに向かい拳を出した。だが、それはヒラリと簡単にかわされ暢気な声で制され終わった。 その行動が更に怒りを買っているともしらず、椋鳥は2発目の拳をお見舞いする。 「お前の所為だろうっ!?」 「おっと。だからぁ……暴れちゃぁ、メッ!」 「っ!?」 何度も殴りかかる椋鳥の両腕を不意に掴みバンッとベッドに押さえつけた。にこにこ笑いながらだったが予想もしていなかった行動に怒りよりも驚きでノキャを見つめることしか出来ない。 「そんなに熱くなんなくてもぉ、とけい君が子どもじゃないことくらいわかってるよぉー?きっと」 「………」 「おいら飲み物取ってくるからね。今度はおとなしく寝てるんだよ?分かった?とけい君」 宥めるようにいわれ、椋鳥は渋々頷くと「いい子いいこぉー」ともう一度頭を撫で回しチュッと頬にキスをして部屋から出ていった。 暫くすると飲み物と玄関にばら蒔かれていたのであろう数枚のプリントを持って部屋へと戻って来た。 「じゃあ、おいら用事あるから大人しく寝てるんだよぉ?何かあったら……何もなくても連絡してね!」 「れんら……はぁあアア!!?お前、勝手にスマホ開いたのか!!!?」 「およよ?またお熱上がるよ?ユッケジャンねんねしてね」 それだけ言って逃げるように部屋を出ていってしまった。 すぐさま連絡先を消そうとしたが“お洋服の話またしようね♪出来ないと別の人と話しちゃうかも”と言う脅迫メールが送られていて、反射で床にスマホを投げつけていた。 ヤバイと慌ててスマホを取り上げ壊れていないか確認すると、ずり落ちていた枕がクッションとなっていたようで無傷なままだった。 ひと安心してベッドに横たわると久しぶりの静けさに気づけば眠りについていた。 翌日、椋鳥は久しぶりに教室の扉を開けた。ケホケホと未だマスクの下から辛そうに咳をしながら自席に座り、尚も咳き込んだ。 今日も休めば良かった。 後悔している椋鳥とは違い隣からは楽しげな声が聞こえた。それには聞き覚えがあり、椋鳥は苦虫を噛み潰したような顔をしたが机とにらめっこをして耐えることにした。もっとも顔の大半を隠すマスクと左目にかかる髪にその表情は殆ど見えないが。 「とけい君、風邪はもういぃのぉー?」 「………」 「とけ………おりょ?」 椋鳥は何を思ったのか鞄から紙を取り出しノキャに押し付けると「出しておけ」一言告げ自席から立ち上がり今さっきくぐった教室の扉に向かう。 「待ってよ、とけい君!」 咄嗟に呼んだノキャのそれに椋鳥はふらりと振り返り相手を睨んだ。だがそれも隠れた顔の為か恐れるものではなく、ゾッと背筋の凍る、まるで心霊映像でも見てしまったかのような恐ろしさだった。 それを目の当たりにした数名の生徒は静まり、次の瞬間にはシンとしたそこにピシャッと扉の閉まる音が響いた。 静まる教室を後にした椋鳥は玄関に向い、途中で担任に会うと休むことをしっかりと伝えた。 学校を出て、5分程歩いたそこはもう町中ではない。人通りは少なくいつもなら落ち着けるのだが、今の椋鳥には有り難くはない。 目眩が落ち着くまで保健室で休めばよかった。 思った直後、足元が歪んで見え身体のバランスが崩れた。やばいと思った時にはもう遅く、身体に力は入っていない。 「っ……」 衝撃に耐えようとギュッと瞳を瞑る。だが、痛みは一向に訪れず代わりに身体にはしっかりとした何かが巻きつき背には微かな重みと温もりが感じられた。 「ちょーち、あぶなってぃー」 聞き覚えのある緩い声が耳元で聞こえ、椋鳥はゆっくりと瞳を開いた。すると身体には腕捲りした白い腕が回されていた。 「とけい君?」 「また、お前か」 その声の主は昨日、配布物を彼の自宅まで届け、先ほど頭に響くほど賑やかに喋っていたノキャだった。 「とけい君が心配でついてきちったぁー!」 「ストーカーか。訴え、るぞ……」 「あー、とけい君ってば命の恩人にそんなこと言うんだぁー!マジひでぃー……おいら、悲しくて………持ち帰っちゃうから!」 「はぁっ?何いっ、おっ、おい!?」 ノキャは椋鳥を軽く抱え上げるとタタターッと来た道を逆に爆走しだした。 リズムを崩すことなく走るノキャはふと大人しくなった腕の中を見た。 「なになに??とけい君おいらの腕の中が安心だってねんねしてるのー?なにこれちょーかわいぃー!こわくない。こわくないっちねーー!にひゃひゃっ」 初めのうちは暴れていた椋鳥だったが、甘い香水の匂いと規則正しい揺れ、久しぶりに触れる体温にいつしか瞳を閉じていた。 ノキャはそれを見て「かぁーいー!」もう一度呟き顔半分を多い隠すマスク越しにふかぁと唇を合わせた。 「んひひっ!マシキッシュ、清楚で清潔なのにえっちねぇー!ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」 .

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