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第4話『襲っちゃう?』
「ど、こだ?」
気がついたのか椋鳥が瞳を開けるといつの間にか部屋の中、詳しく言えば見知らぬベッドに寝かされていた。
「あ。とけい君起きたぁー!」
「ここは……保健、室?」
「ブー、残念ふせーかぁーい。ここはおいらの部屋でぇーす!因みに、他人を入れるのは今回がお初!処・女・部・屋・へ・よぉこそぉー」
「………」
「あれれ?反応なし。とけい君ってばマジひでぃー。おいらここまで運んであげたのにぃー!いのちの恩人なのにぃー。ぶうぅー……」
「頼んだ覚えはない」
無理矢理に連れてこられた。と言うのが正確なものであるのだが、勝手に上がってしまい増してベッドで寝ていたことは椋鳥にとってあまり良いものではなった。
髪を手櫛で整えるようにしながら顔を確認し、マスクは外されていたが眼帯はそのままであることに安堵していた。
「どーしたのぉー?」
「なんでもない。帰る」
「えー?何でぇー?」
「ここは俺の家じゃないんだろ?だか」
「大じょー夫だからぁー、ね?」
「………っ」
宥めるように言ったノキャに椋鳥は言葉を失い、代わりに出たのは声のない悲鳴。
緩く甘い声とは裏腹に、その瞳は鋭く、表情も今まで見たことないほど冷たいものだった。
「あ、とけい君何か飲む?」
「………」
椋鳥の表情など気にも止めていないらしく、床に置かれたミニ冷蔵庫に手をかけ緩い口調で続けた。
答えなど聞きはしない。無言の圧で飲むことを許容していた。
「えっとねぇ、今あるのはー、オレンジュースとオレンジュースとオレンジュースとぉ……あとはぁー……あ!オレンジュースもあった!どれ飲む??」
「………」
「あ、炭酸が出てきた!でもオレンジュースで、良いよね?」
「もうなんでもいい」
一々反応することにも疲れたようで他人のベッドだと言うことも忘れ、横になる。
オレンジュースの入ったグラスを受け取ると「なんで俺の家ではなくここなんだ」と。
するとノキャは「とけい君の家って学校からバッカーノ遠いじゃん。おいらの家にレリゴーした!」とそう返した。
言うと同時にブンッと上にあげられた拳に椋鳥は苛立ちを覚え、いつかのように床にグラスを投げつけそうになっていた。
「オレンジュースもっといるー?」
「いや、もうい………ぃっ!」
グラスを返そうと手を伸ばした瞬間、ドクンッと一際大きく心臓が脈打ち、椋鳥の身体を打ち震わせた。
「……?え、なんっ?……っ?」
「とけい君?」
「ぇ?っぁ……ぁ……」
心配しているようにも聞こえるノキャに返事をしようとしたが、それ所ではない。
なん、で……?
身を丸め膝に額を押しあてる。椋鳥は自分で自分の身体に驚いていた。
なんで、今ーーー
無理もない。何もないはずの今、椋鳥の中心部は熱を持ち緩く起ち始めていた。
しかし、こんな時でも緩い声の主は椋鳥の肩に手を置き遠慮なしに身体を揺すった。
「とけぇーくーん?」
「ーーぅっ、っ!」
振動にあらぬ声を溢してしまいそうで、唇を噛み締める椋鳥。
「とけい君?」
尚も身体を揺するノキャに椋鳥はギリと唇を強く噛み熱くなる中心部から気を紛らわそうとする。
一方、ノキャは反応を見せない椋鳥に実力行使に出ることを決め、両手を椋鳥の肩にかけるとグイッと持ち上げた。
「ゃ、やめっ……ゃだっ!」
無理矢理に上げられた顔の目の前には相手の顔があった。
椋鳥は熱くなる身体と失われていく思考の中、ノキャにどう思われているのかだけが気になっていた。
気持ち悪いと、言われる……
初対面時のクローゼットの件もある。変態だ何だと言われるに違いない。覚悟していても面と向って言われれば辛いに決まってる。だが隠し様のない事実であることも確か。ギュッと瞳を固く閉じそれが過ぎるのを怯えながら待つしかない。
けれどもノキャが口にした言葉は想像の斜め上を行くものだった。
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