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第49話 勝負

 きっかり五曲やって、少年貴族は演奏を終えた。 「ご清聴、ありがとうございました」  慇懃にベンジャミンが一言、添える。歓声が上がるのを、俺たちはステージ袖で聞いていた。  アウェイになった空気に負けぬよう、五人で掌を重ね合わせて気合いを入れる。心地よい緊張感に、胸が高鳴った。  入れ違いに少年貴族の二人とチラリと目を合わせて、ステージに出る。ベンジャミンは、不敵に笑っていた。負けねぇ。俺はその表情を見て、己が奮い立つのを感じていた。  それぞれが持ち場につき、音合わせを始める。宣伝もしていない小さな箱なので、百名足らずのスタンディング客はざわついていた。健吾がこだわった黒スーツが、好感触のようだ。無難にポップスから始める手もあったが、俺が一曲目に選んだのは、グラムロックだった。  健吾がスティックでリズムを刻むと、演奏が始まる。それは、いつか京に聞かせた、情事の最中、頭の中でなっていた曲だった。俺たちの音楽性がハッキリ出た、自信作だ。  お前はまるでスパイダー  綺麗な指で糸を紡いで  俺を捕らえて離さない──。  正史郎さんがスタンドマイクで歌い出すと、客が身体でリズムを取るのが見えた。アウェイ感はなくなり、客と俺たちとが一体になる。  演奏だけで勝敗を競う為、MCはしないよう言われていた。その為、五曲の持ち時間はあっという間に過ぎる。それでも五曲目には、一部の客がヘドバンをするまでにノッていた。  ギターソロに合わせて、俺は京と向かい合ってベースをかき鳴らす。最後の曲が終わると、俺はピックを客に投げた。ワッと若い女たちが群がる。 「京も投げろ」 「えっ、俺も?」  京は驚いたが、客の熱が引かない内に、遠慮がちにだが俺に倣った。同じように、客が奪い合いをする。その盛り上がりの中で、健吾が短く言った。 「俺たちはWANTED with reward。また可愛がってあげるよ、仔猫ちゃんたち」  黄色い悲鳴が上がる。健吾は最後に自慢のドラムテクを幾らか披露し、客をわかせて出番終了となった。メンバー紹介を短く済ませると、ハケていく俺たちに名残惜しく声がかかる。 「まずは、成功だな」 「うん、お客さん盛り上がってたな」  思わず京にキスしたいほどの興奮を懸命に押さえ付け、俺は楽屋に向かいながら京と並ぶ。京も、頬を上気させていた。  楽屋に戻ると、程なくしてSeekerがやってくる。結果は──。 「おめでとう、WANTED with rewardの諸君。一回目の対バンは、君たちの勝利だよぉ」  俺はどさくさに紛れて、わっと京を抱き締めた。マコも正史郎さんに抱きついて、嫌な顔をされている。健吾は、満面の笑みで万歳していた。 「し、真一……」  京が、腕の中で真っ赤になっている。分かってる。少し大胆過ぎる事は。だが俺は、皆の注意が散漫な内に、京のブラウンの前髪に口づけた。

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