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第51話 生中継
今日はいよいよ、対バンの最後の日となる。いつもは夕方からだったが、今日は真っ昼間からだ。
宣伝は打ってなかったが、いつの間にか俺たちの噂は広がっていて、昼間でもオールスタンディングの客席には、人がひしめきあっていた。
いつものように、Seekerが投票箱を設置して、どちらが先にやるかを決める。ヴァイオリンの珍しさが巧を奏するのか、順番は今のところ全敗だった。だが、演奏の勝敗とは関係ない事は分かっていたから、ステージから少年貴族の音が流れてきても、さほど気にはならなかった。
「これでどっちがデビューするか、決まるんスよね……」
「やったからには、勝ちたいですね」
「もしデビューが決まったら、ずっと一緒ね、セイ!」
「俺、何か緊張してきた……」
「今まで通りで良いんだ、京。俺たちにゃ実力がある」
思い思いに、今の心境を語る。少年貴族の演奏に、惜しみない拍手が送られ、俺たちの出番がやってきた。
日曜とはいえ、噂を聞き付けてわざわざ昼間にやってきた客だ、ステージは大いに盛り上がった。だが客層は、圭人くらいの子供から少し年配層まで、好みで投票が分かれる事を考えれば、油断はならなかった。
「俺たちは、WANTED with reward。投票よろしく!」
健吾が短く言って、俺たちのステージは終わった。いつもなら、勝者の楽屋にSeekerが現れる。だが今日はいつまで経っても、彼は姿を見せなかった。
代わりに、箱のスタッフが、一通の手紙を持ってきた。代表して受け取り、封を開けると、そこには。
『迎えの車にお乗り』
とだけ書いてあった。興味津々で覗き込んでいたメンバーが、勝敗の決着を記した手紙ではなかった事にやや落胆するも、気を取り直して仕度を始める。ステージに残されたままのベースを取りに行こうとすると、スタッフから声がかかった。
「あ、楽器は移動済みなので、車に乗って欲しいそうです」
俺たちは異口同音に、疑問符を口にする。Seekerだと気付いていないスタッフは、平々凡々と語った。
「いえ、僕も車に乗せろとしか聞かされてなくて」
どういう事だろう。顔を見合わせ、俺は皆に小さく肩を竦めて見せた。
楽屋口に出ると、黒いワンボックスカーが二台、待っていた。少年貴族の二人が、先に乗り込んで走り出していくのが見える。
「俺たちだけじゃないみたいだな」
「うん。真一、乗ろう」
「ああ」
五人が乗り込むと、発進と共に後部座席についた小型テレビが灯る。眩しく瞬くフラッシュで目がチカチカして、一瞬分からなかったが、そこに映っているのは全盛期のSeekerの姿だった。
何だ…? DVDか…?
『では、今からチケットを発売するという事ですか?』
記者会見のようだ。あれ、Seekerって……。俺が思うのと同時に、隣の京も声を上げた。
「Seekerって、ライヴ以外では、コメントもした事ない筈……」
「見て! 生中継って書いてあるわ!」
「マジっスか!」
慌てて身を乗り出して画面を見詰めると、スーツにサングラス、長い黒髪を後ろで一纏めに縛ったSeekerが、記者の質問に答えていた。
『チケットはもう売り出してるよぉ。開演は六時、場所は武道館』
『プロデュースするユニット名は?』
『少年貴族』
五人全員が息を飲んだ。
『……と、WANTED with rewardのどちらかさ』
勝敗は、武道館で発表されるという事か。
その時、関係者がSeekerに何か耳打ちをした。
『おや、皆まだ私に興味を持ってくれていたようだねぇ。チケットはソールドアウトだよ』
当日に売り出したチケットが、一時間経たずに売り切れたという。
『少年貴族とWANTED with reward、武道館でデビュー出来るのは、どちらか一組だけ』
Seekerは長い前髪の下で笑って、追い縋る記者の質問を後に、席を立った。
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