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第16話 確信犯

 Tシャツを脱ぐと、京の透けるような白い肌は少し上気し、汗に濡れて光っていた。今更になって、それがひどく扇情的な光景だと意識する。だがこちらから言い出した事で、ここで断ってはかえって妙な空気になるだろう。 「ちょっと待ってろ」 「う、うん」  俺はキッチンからお湯をたたえた洗面器とタオルを持ってくると、サイドテーブルに置いた。熱めのお湯を固く絞り、まずは背中から拭いていく。 「熱くねぇか?」 「うん。気持ち良い」  そう言った京の背は、本当にリラックスして気持ち良さそうだった。華奢な背骨や肩甲骨に沿って、丁寧にタオルでなぞる。 「んっ……」  項を辿った時、京が小さく呻いた。掠れていつもよりもハスキーな声なもんだから、自分でも驚くほどギクリとする。誤魔化す為に、努めて冷静な声音を出した。 「どうした?」 「な、何でもない」  焦ったような返事が返ってくる。もしや……。  俺は、後ろから京の首筋を下から上へと撫で上げた。やはり、ビクリと肩が跳ねる。 「京、お前……」  感じるのか、と聞きかけて表現を変えた。京が困るのが目に見えていたからだ。 「お前ひょっとして、くすぐってぇのか?」  項が淡く染まった。ややあって、 「うん……ちょっと」  呟きのような答えが返ってきた。 「そっか」  素っ気なく言ったが、首筋が京の性感帯だと分かって、我知らず片頬がニヤリと上がった。 「こっち向けよ」 「ん?」  今度は、不思議顔で向き直る京の胸をタオルで撫でる。 「やっ……真一!」  制止の声も聞かずに胸の尖りを掠めると、京の綺麗な顔がくしゃりと歪んだ。堪んねぇ……。 「真一! 前は自分で拭けるよ!」 「ん……そうか」  そのカオに気付かないふりをして 、俺はタオルを絞って京に渡した。 「あ、やべぇ」  時計を見ると、時刻は家を出る時間を十分、過ぎていた。駅まで全速力で走らなければ遅刻だろう。それでも、このカオが見れて良かったと思ってしまう自分がいた。  俺は、黒いリュックサックを引っ掴むと、 「京、悪りぃ! 遅刻だ。俺んちでゆっくり寝ててくれ」 「あ、うん、行ってらっしゃい!」  駆け出す背に当たった「行ってらっしゃい」の言葉は、今までで一番、心地のよいものだった。

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