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プロローグ-2
*
【彩】
「……パートナーは、もう見つかった?」
【麻生】
「……いや、全然。
そう思うとあの人と出会えたのは本当にラッキーだったんだなって……」
【彩】
「……そう」
春。
といっても、満開の桜の時期には早すぎる、まだ肌寒い春。
駅前にあるカフェのテラス席で、ネットを通じて知り合った女性・【彩】さんと一緒にケーキを食べている所だった。
ふと、彩さんからこんな話題が出てきて、俺の胸がチクリと痛んだ。
それは苦しいとは少し違う感じの、どちらかといえば切ないの方に近い痛み。
【麻生】
「……あの人の専属奴隷でありながら好きになってしまったんだと思います」
生憎、テラス席に座っているのは俺達二組だけ。
それをいいことに、聞き上手の彩さんにぽつりぽつりと本音を漏らす。
【麻生】
「あんなにフィーリングが合う人は初めてだったから……首輪を外された時、やっぱり惜しかったです」
【彩】
「……うんうん。分かるよ。
私だって首輪付けられたいのに、旦那が生憎、……そういう趣味が無いからさ」
【麻生】
「やっぱり理解されないもんですよね……SMって」
そう。
俺、麻生悠人と彩さんは共通の嗜好……性癖が一緒で仲良くなったのだ。
それがSM──……【加虐性癖】と、【被虐性癖】。
彩さんは【被虐】、すなわち【マゾヒスト】にあたる。
俺も最初はマゾヒストだった。
しかし、ある出来事が原因で【加虐】──……【サディズム】になったのだ。
その出来事が、【あの人】……すなわち、俺がマゾヒストだったとき飼われていた【飼い主】に捨てられてしまったということ。
俺の昔の話、少しだけ聞いてくれませんか?
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