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第3話 イツキ

景森斎(かげもり いつき)46歳。 「あのっ!お父さんって呼んでもいいからね!」 って再婚が決まった時、斎さんに抱きしめられながら言われた。 斎さんの第一印象は背が高くて、男前だけどほんのちょっと神経質そうで怖いって思った。 こんなイケメンを急にお父さんって呼べるわけもなく、その気持ちだけ受け取って今は「斎さん」って呼んでいる。 広告関係の仕事をしているらしいけど、会社帰り…うちの母さんが働いているケーキ屋に後輩に渡す差し入れのフィナンシェを買いに行ったとき担当したのが母さんだった。で、一目惚れしたらしい。 それからうちの母さん目当てで通いつめそこの常連客となり、周囲のスタッフには奈津子さん目当てだと明らかにわかっているのに全く気がつかないのがうちの母。 でもってスタッフのパートのおばちゃんたちのパワーは凄い。 おばちゃんたちにも好印象の景森さんが、子供はいるがシングルだとわかったらあっという間だった。 お膳立てを色々としてくれたみたいで、あれよあれよというまに交際するに至ったのだ… 「えーと、息子の俺が言うのもあれですが、うちの母で本当にいいんですか?ぶっちゃけ料理できないし、掃除洗濯も得意じゃないいですよ?」 素直に俺は斎さんにそう言った。 それに対して斎さんはちょっと考え、怖い顔を若干緩めて笑ってくれた… 「そんなの全く問題ないよ。奈津子(なつこ)さんは僕のないものを全部持ってくれているから、それだけで十分なんだよ」 「……はぁ…」 「とっても素敵なお母さんだね」 「……」 くしゃりと大きな手で頭を撫でられた……大人の男性って感じの大きな手だった… 「中也くんの事はたくさん奈津子さんから聞いてるよ。はは…うちのバカ息子とも仲良くしてやってくれ」 「……はい…」 そう…斎さんには息子さんがいる。 俺と同い年の男子だという。 斎さんとは何回も会えているのに対して、息子とは全然会えないでいた。 どうやらバイトが忙しいらしい。 …… 大事な家族の予定よりバイトですかぁ…それどんなやつですか。 まぁ…会ってもどう接していかわからないし、来れないってわかるとホッとしている自分がいるからいいんだけど。 なんなら女子の方がよかったわ…… いや…女子の方が余計に何を話したらいいかわからないから、やっぱり男子の方がいいかな。 そんな事を考えながら結局相手の息子と会えないまま月日が経ち、再婚&引っ越しがトントンと決まってしまったのだ。

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