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第5話 オトウト
マンションなのに階段があるのは、メゾネットタイプだからだ。
階段を上がって左側の奥が埜の部屋、手前が俺が使う部屋になっている。
手前の5.7帖の洋室は明るい光が射し込んでいて清潔感があり、運び込まれた俺の荷物はきちんと隅に積まれていて整えられていた。
…
窓を開けると涼しい風が入り気持ちが良い。
ここで俺はこれから生活していくのか…そう思うと何故か寂しい気持ちが込み上げてくる。
寂しいだけじゃない……勿論前向きな気持ちだってあるけど、それを全面に押し出す気持ちにはなれなかった。
「この部屋さ、ずっと物置代わりに使っててスゲー汚かったんだぜ。……父さんが掃除してた」
「え」
後ろから声がし、振り返ると埜が腕を組みながらドアに寄りかかり、部屋の中を確認すように立っていた。
自然に……普通に立っているだけなのに、絵になる奴だなぁって思った。
「そ、そうなんだ…こんなに綺麗にしてもらって…お礼言わなくちゃ」
「別にんなこと言わなくていいんじゃね?父さん掃除趣味だし、したかっただけなんだから」
「でも……」
「……これから、よろしくな。兄さん」
「…え」
「誕生日、中也の方が早いから兄さん。俺…弟だから」
「う、うん!埜くんよろしく!」
「埜…で、良いって」
「うん!」
大きな弟だけど、兄さんなんて言ってくれて何か凄い嬉しいぜ!
埜と握手しようと駆け寄り手を差しのべた。
パンっ!
……と勢いよく払いのけられ、その次の瞬間に頭を乱暴にわしわしと撫でられる。
「ま、取り敢えず!学校では俺に話かけないでくれる?こんなダッサイのが兄ちゃんとか、マジ恥ずかしいから!よろしくな!」
「で!いでっ!!?」
「ほら俺さ、モデルやってるじゃん?イメージとかあるからさ!兄ちゃんならわかってくれるよな弟の気持ち?」
「え、あ?」
「………ってさぁ…このパーカー何?かなり年季入ってるな。マジよれよれだぜ」
「え、あ、は?べ、別にいいだろ!よれよれでも気に入ってんだから!……って…モデル?モデルって何……埜って……モデルやってんの?」
「……は?」
「?」
ピシィ……!
………
あれ…
んんん?何だろう……
今ピシッって、俺と埜の間の空間に亀裂が入ったような気が…
ドンっ!!
!!
「……は…よく考えたら、知ってる訳ないよな。ファッションとか興味なさそうだし?ごめんな お 兄 ちゃ ん」
良く分からないけど、機嫌を損ねた埜が壁を思い切り叩き、壁ドン状態になって俺を睨み付ける。
こここ、こわー!!!何なんだ!何なんだ!こいつ!
「まぁ、あれだ……お互いの邪魔は、しないようにさ、気を付けて生活しようぜ?」
「う、うん……」
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