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第7話 ゲコウ
「溜息ついてどうした…」
「…んぁ…」
前の席に座っている奴が振り返り、俺の顔を覗き込むように伺っている。
泉秀多 は俺がこの学校に来てから初めてできた友達の一人だ。
ぼんやりしてる雰囲気が俺のペースと合ったのか、気がついたら一番話す奴になっていて、自然と一緒にいることが多くなった。
「中 はたまにでかいため息つくよな」
「……そうか?」
「目の前に座ってる僕の髪が靡くくらい…」
「え”…」
「嘘だけど、それくらいってこと。恋でもしたか?誰だその女子は?」
「そんなんじゃねぇっす。恋のコの字もないっす」
「えーちょっと潤いが足りないんじゃないのか?そのうっとおしい髪切ったら、ちょっとはモテるかも?その髪いつ切ったんだよ」
「…んーわかんねぇ…2ヵ月は経ってるかな?」
「この学校、髪には煩くないけど、そろそろ注意されるぞ。うざったいから切ってこいや」
「へーい」
切って来いって言われても、この辺の理髪店とか美容院とか高そうだし緊張するし気軽に行きづらい。
だけど、行かないわけにもいかず、後で検索してみるか……と心の端で思った。
下校するのに、秀多と並んで教室を後にする。
階段を下りながら、スマホ片手にたわいもない話をしつつ昇降口へ向かう…すると背後から近づいて来る、男女のグループの中に聞いたことのある声が混じっていた。
……埜だ…とふと思ったら、思わず振り替えってしまいバッチリと埜と目が合った。
爽やかイケメンな埜は5,6人の友達と一緒にずらずらと俺たちの脇を横切って行く。
目が合ったのは一瞬だったけれど、その瞳でガッて威嚇された気がする…
別に俺が何をしたわけでもないしたわけでも、話しかけたわけでもないのに、何だあの態度!こんなんじゃ良くないよなぁ……
「えー埜、今日はこれからお仕事なのー?つまんなーい」
「悪い悪い。また今度!」
「お仕事がんばってねー!」
そんな会話が零れて聞こえてくる。
へー埜はこの後、仕事なのか。
友達との会話から、弟の情報を得る俺って一体何なんだろうとか思いつつ。
同じタイミングで帰ることがないように、ゆっくりと俺は靴を履き替えた。
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