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第11話 ケンカ

「お ま え……なぁ…」 怒りに任せて埜にパンツを投げつけ、その場から立ち去ろうとすると、埜は俺の腕を掴みフローリングに思い切り押し倒した。 「いっ!」 「…ってめぇ!人の顔に何してんだよっ!!」 前髪を思い切り掴まれ馬乗りになる埜からにげることはできなくて、身動きがとれない。 埜はマジで怒っているみたいだったけど、俺だってムカついている! 「埜が手伝わないからだろ!自業自得だろうがっ!!っ!」 「んなことお前がパッパとやれば済むことだろ!」 「なんで俺なんだよ!手伝いくらいしろ!って言うか!お前お前言うな馬鹿!ちゃんと中也って名前があるんだよ!」 「お前みたいなダサイ奴は、オ マ エで十分なんだよ!そもそもお前の着てるもの全部だっせぇんだよ!!」 「それ!か、関係ないだろっ!」 ま、前髪がマジ痛いし、馬乗りされて全然動けないし、埜の方が身体も大きいから完全に俺の方が不利な状況だ。 「これとかいつ買ったやつだよ。色褪せてるし裾がよれよれじゃん。……捨てろよ」 そう言って俺が着ている、プルオーバータイプのパーカーを脱がそうとする。 中1の時に母さんが買ってきてくれたパーカーだ。 薄手で軽く着心地が気に入っていて、いつも着ている俺のお気に入りのパーカー。 確かに何度も何度も洗濯されて、袖口はヘロヘロしてるし、毛玉も付いたりしているけど、これ俺のだし大事に着てるし誰にも迷惑かけてない! それを捨てろとかこいつ何言っちゃってんの! 両手で裾を持ち、俺の着ている服を無理やり脱がしにかかる埜。 「へ、腹筋もないぺたんこな腹してんな」 勢いよくパーカーを上に引っ張られて、俺は万歳状態になり、上半身が丸見えになってしまった。 「ちょっ!おい!やめろって…ブファ……!」 力の違いは明らかで、あっという間に脱がされてしまう。 酷い!マジ酷いこいつ!! 奪われたパーカーを取り返そうと、なんとか端を掴んで引っ張る。 当然向こうも奪われてたまるかといった感じに引っ張るので俺も必死だ。 「おい!離せよっ!」 「嫌だ!絶対これ捨てるだろ!絶対だめっ!」 「捨てるわけないだろー!!はなせっ!!」 「信じられーんっ!!」 無我夢中で引っ張り、綱引き状態になっていたその時。 「こらーーー!お前ら何やってんだ!!!!」 斎さんの大声がリビングに響き渡った……その瞬間…… ビリリ…… 引っ張り合っていたパーカーが力に耐えられず、肩から大きく裂けてしまった。

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