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第16話 イライラ
埜
その出来事があってから、俺は身なりに気を付けるようになった。
恥ずかしかったあの出来事は、正直言ってトラウマだ。
あいつはそのパーカーがお気に入りなのか、ほぼ毎日着ていて、……当然家にいる俺の視界に入る訳で……そしてそのたびにどうしても俺はイライラしてしまう。
体格は俺より小柄だけど、顔は奈津子さん譲りで悪くないから余計に勿体ない気がするんだ。
で、なんだあのウザったい髪は……
しかも本人その自覚がまるでないから尚更ムカツク!
こんな奴が兄だとか信じられねぇ!
恥ずかしくて友達にも会わせられない!
引っ越し当日に威嚇しておいたおかげで、学校で話しかけてくることはなかったけれど、家ではどうしてもこいつに会うし、毎回俺をイライラさせるような服を着ているからムカつく一方だった。
そうか……こういうところで親譲りの天然っぷりが発揮されているのか……
そう気がついてももう遅い。
そのイライラが、積もりに積もってついにその日に爆発してしまう。
その日の仕事の打ち合わせが別の日に変更され、その日はオフになった。
リビングでTVを付けながら、のんびりしようとソファに転がって寛いでいると、あいつがキッチンで夕飯の支度をしだす……
………まぁ、真面目だよなあいつ………やることはちゃんとやってる感じだし……
視界に入ることはないけれど、また例のあのパーカーを着ていた。
………
大体あれを着ている気がする…二日に一回はあれだ……
あいつは他に何枚服を持っているんだろう…
とか頭に過ったけれど、まぁまぁ気にするなよ俺!
自分のやりたいをやってのんびりしようぜ!とスマホを弄るのに脳内を切り替えた。
そんな奴に洗濯物を取り込めと言われイラっとしたのは、まぁ子供だと言われてもおかしくはない。
でも……イラっとした。
てめぇが取り込めって言い合っていると、マジで雨が降ってきてしまったじゃないか。しかもかなりどしゃ降りだ。
慌ててベランダに出て濡れながら取り込むのを手伝えばいいのに、ムキになってしまい身体を動かすことをしなかった。
極め付けに俺のあのセリフ……さすがにあの一言は向こうもムカツクいただろう。
大人しそうに見えて意外に気が強いのか、濡れた俺の下着を投げてきやがった。
それを合図に脳内にゴングが鳴り響く。
押し倒して馬乗りになれば、あいつは身動きがとれない。
俺より細くて小柄なあいつが、抵抗しても無駄なのは明らかで、あいつを見下ろしながらこの優位な体制に笑いが込み上げてきた。
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