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第26話 カイモノ
「こ、この後?」
「そそ、飯食った後に行こうか」
「え、あ、うお……どうしよ。俺お金そんなに持ってきてないし」
「ファストファッション系近くにもあるし、そこならお金もそんなかからないしいいんじゃね?」
心の準備が全然出来てないし、ファストファッションって何だよ!
俺知らないし!
美緒は超乗り気になっているけど、俺は不安の方が大きくて内心焦っていた。
でも美緒と一緒なら何か似合う服選んでくれるのかも……そういう期待も膨らんでくる。
それに……埜も喜んでくれるかもしれない……褒めてくれたりするかな?
カット代は、弟のお友達価格にしてくれた。
これって表示価格より大分安い!
「浮いたお金で服買いなよ高校生。あーそれと!また来てくれよ!」
「は、はい!ありがとうございました」
徹さんのお店を出た時、心地好い風が撫でるように首元をすり抜けていき、少し擽ったかった。
何か頭が軽い…髪…相当伸びてたってことなのか。
「中……なんか印象かなり変わったかも…さっき馬鹿にしたあいつの顔見た?中の事二度見してたぜ」
「え、そうか?」
「ちょっと俺、中にキュンキュンしてるわ。可愛い」
「お兄さんの腕のおかげだよ。凄いな美容師って…」
それから簡単にファストフードで昼飯をとってから、美緒と一緒に服を選びに行った。
試着もして、上下一枚づつ美緒が選んでくれた服を購入。
……一人だったら絶対こんなところ行かないし、試着なんて絶対しないっていうか!…したことなかった。
美緒と何故かスタッフのお兄さんにも見立ててもらって、しかもこのまま着て行くことになったのだ。
緊張して、ドキドキがとまらない……
「おぉ……中…めっちゃイケメン~」
「……」
「俺と付き合って!」
「あ、あほか。……だ、大丈夫そうか俺」
「全然大丈夫っ!」
黒のパンツに大き目Tシャツってだけなんだけど、俺が着ていたものと全然シルエットが違う。
ぎゅっと美緒に抱きしめられるのはよくわからないけれど、それだけ喜んでくれているって事なんだろうって思った。
「み、美緒苦しいって!つか離れろって」
「今日のデート最高嬉しい……」
「で、デートじゃねえって」
「また、行こうぜ!」
「うん!今度は秀多も誘うぜ」
「えー!あいつ邪魔だろっ!」
「何でだよ!あ、でも今日は美緒マジで有難う。髪も切れたし服も選んでもらって……感謝だよ」
「はは、……いいって!」
それは本当に素直にそう思った。
自分一人だったらあんな場所に行って、あんなお洒落な美容院で髪切ったり買い物したりできない。
美緒に晩飯も誘われたけど、予定外の出費もあったし断って美緒とは別れた。
断った理由は出費のこともあるけど、一番の理由は……物凄く疲れたんだ。
日暮れにはまだ早い時間だけど、自分の着ていた服が入っている袋を下げ、ヨタヨタよろめきながら家に帰る。
……
まだこの時間は家に誰もいない。
母さんと斎さんも今日は二人で出かけているし、埜も予定が入っていたはずだ。
「はぁーーーーーーーーーー」
俺はそのままリビングのソファにダイブして、長い溜息を吐いてしまった。
つ、疲れたぁ……
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